205話 逆襲
地面に這いつくばったカズヤが無理やり顔をあげると、上空からゆっくりと宇宙船が降りてくるのが見えてきた。
間近に迫ってきた宇宙船は、迫力と威圧感がある。
地上近くで宇宙船のハッチが開くと、銀髪の人間と後ろに付き従う補佐官のような男が降りてきた。
この一番偉そうな人間が、艦長オルガドだろう。
見た目は50代くらいの銀髪白人の艦長で、傲慢さと威圧感に溢れていた。他人を見下す冷たい青色の瞳で周囲を睥睨している。誰もが彼の自己中心的な態度を感じ取ることができる程だ。
二人とも深い紺色の光沢ある素材で作られた制服を着ていて、軍服のように格式ばっている。
胸元には数多くの紋章型のプレートが並んでいて、光に照らされると金属的に煌めいている。同じ材質で作られたズボンは、所々金糸で縁どられていて高級感が漂っていた。
他にも武装した数人のデルネクス人らしき姿もある。まるで、王族とその親衛隊のようだった。
「※※※! ※※※※※※※※※!?」
艦長オルガドが、ザイノイドであるステラとフォンを見つけて怒鳴りつけた。
デルネクス語なのだろうか。聴覚センサーの使い方がよく分かっていないカズヤには、意味が通じなかった。
罵倒されたステラとフォンは、何も答えずに相手をにらみつけている。
「……オルガド様、彼らに話が通じていないようです。この星の言葉に合わせた方が良いのではないですか?」
隣に立っていた30代くらいの補佐官らしき人物が提案する。艦長のオルガドとは対照的に、口調は穏やかで周囲に配慮する様子が見て取れた。
ステラの情報によると、この男が副官のパーセルだろう。
同じ銀髪碧眼の男性だが、容貌は穏やかで誠実さが感じられる。髪は丁寧に整えられていて、真面目そうな性格がうかがえた。
「……ふん、下等な言語しか話せないのか。それにしても、なぜこいつらが殺されずに生きている!? パーセル、貴様の仕業だな!」
オルガドの言葉も、カズヤに聞き取れるものに変わる。
「お言葉ですが、オルガド様。調査班からの分析によると、この星の住人は想定以上に知性があり、文化や社会が発展しています。このような星に対しては強権的に支配するのではなく、平和的に話し合う方が長期的に見ても得策だと考えます」
理性的な進言をする副官パーセルの声はカズヤにも聞こえた。どうやらデルネクス人の中にも、まともな判断をしてくれる人もいるようだ。
しかし、そんな副官の言葉を、艦長オルガドは気に食わないといった様子で否定する。
「こんな宇宙の辺境で技術的進歩も無い野蛮な未開人どもと、何の交渉をするというのだ!? 余計な配慮をしおって、次からはザイノイドに抹殺するように命令しておけ!」
「……分かりました」
艦長オルガドの命令に、パーセルが悔しそうにうなずいた。
そしてオルガドは、続けざまにステラとフォンに向かって命令した。
「お前たちが生き残りのザイノイドだな。まずは、300年前に宇宙船が墜落した原因を報告しろ」
しばらく沈黙が続いたが、ステラがしぶしぶ口を開いた。
「……この星に住む生物によって撃墜されました。確実な証拠はありませんが、状況やその他の条件から間違いないと思っています」
「はあ!? そんな訳あるはずない。宇宙船は衛星軌道上に停泊していたというデータが残っているぞ。宇宙空間にいるのに生物から攻撃を受けるはずないだろう!」
やはり、ラグナマダラが宇宙船を攻撃したという話は信じられないようだ。
「それで、お前らはどっちのザイノイドなのだ? この星での生存期間を言え」
「……どちらとは?」
質問の意味が分からずにフォンが問い返す。
「そんな情報すら知らないのか。もうよい、面倒だ。支配下に入ってから情報を共有する」
呆れた顔をしたオルガドは、一方的に話を打ち切った。
「それにしても、貴様は戦闘型であろう。なぜ単独で行動できるのだ? お前に命令している主人が他にいるのか」
フォンは答えずに沈黙を守っている。カズヤの存在を少しでも隠してくれているのだ。
しかし、それがバレるのも時間の問題だ。
するとカズヤが一歩前に出る。
オルガドにひるむことなく堂々と返答する。
「彼のマスターは俺だ」
「なんだお前は? 見た目は運搬型ザイノイドだが、中身はこの星の人間か。低脳な未開人に高度なザイノイドの身体を与えるなど信じられん。未開人を主人にするなど、お前らはいよいよ故障しているようだな」
オルガドは、ステラとフォンに向かって放言する。
もちろんカズヤは本当はこの星の人間ではなく地球人だ。しかし教える必要もないし、こんな奴に伝える気もしない。
「おい、艦長のオルガドとかいったな。お前たちはこんなに高い技術力を持っているのに、この星を支配することしか考えていないのか? なぜ礼を尽くして現地住人と交渉しようとしないんだ。倫理観がないお前たちに、従う人間なんか一人もいないぞ」
きつい口調でカズヤが言い放った。
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