204話 奪還
「俺たちの襲撃を知っているとは、お前たちは何者だ!?」
「お前たちの存在を知っている者だよ。この星で人狩りをするなんて勝手な真似は許さないぞ」
「前回の宇宙船の生き残りだな!? まさか本当にいるとはな……」
カズヤの言葉を、レオは受け止めようとはしない。
「お前たちデルネクス人が、この星を訪れた目的は何だ?」
「俺が言うはずないだろう。知りたければ俺の頭にコードをぶっ刺して、情報でも抜き出すんだな」
レオは挑発的な態度で返答した。
相手は戦いに特化した戦闘型だ。捕らえられた時の覚悟はできているのだろう。
これ以上の情報が得られないと判断したカズヤは、ザイノイドや戦闘員を魔法障壁がかかった独房にとらえておく。
「捕まえたこいつらを、今後の交渉の材料にしよう」
「指揮官に常識があることを期待しましょう。ですがデルネクス人たちが交渉に乗ってこない可能性も十分あります。彼らは簡単に仲間を見殺しますから」
「そうなのか? 今回わざわざステラたちを助けに来たじゃないか」
「彼らは私たちを救出しに来たのではなく、墜落原因を調査しに来ただけだと思います。あと、この星が有望な植民星だと判断された可能性が高いです」
つくづく人間性を感じられない奴らだ。
そんなデルネクス人と交渉が成り立つのか、カズヤは自信がなくなってきた。
「それと人狩り部隊が行方不明になったことで、宇宙船同士の交信が途絶えてしまいました。今後の相手の情報は一切分かりません」
当然の対応だった。
今までは事前にデルネクス人たちの作戦が分かったが、これからは相手の出方が分からなくなる。
こちらに有利な条件が1つ無くなった。
「相手の出方次第だけど、何も無ければこちらから交渉を呼びかけてみようか」
デルネクス人の人狩りを止めることはできた。捕虜も捕まえた。次に必要なのはデルネクス人の一方的な行動を制限することだ。
*
しかし事態はカズヤたちの思惑を大きく超えてきた。
カズヤたちが次の手を考えているとき。突然、建物の外に激しい爆発音が響く。いきなり近くの建物が破壊されたのだ。
原因は分からない。しかし街の大きな建物が次々と崩れていく。
「な、何が起こったんだ!?」
窓から外を見ると、カズヤの目に街並みを破壊するザイノイドの姿が飛び込んできたのだった。
街を手当たり次第に破壊しているのは、デルネクス人のザイノイドだった。おそらく戦闘型だろう。
「ひょっとしてお前を見つけ出すまで、全ての建物を壊すつもりか!?」
「俺を隠したつもりでも無駄だぜ。建物に隠れているのなら全部壊してしまえばいい」
なんて乱暴な発想だ。
たしかにレオたちが人狩りに来たのはこの近辺だ。この辺りにいることは分かっているから、怪しい建物を全て壊そうとしているのだ。
「くそ、これじゃあ街の皆に被害が出てしまう……」
「カズヤ、このままでは逆効果だ! こちらの居場所を知らせるぞ!」
住民に被害が出始めたことに、シデンがいち早く反応した。
外へ飛び出したシデンが、街を破壊するザイノイドへと突撃する。
しかしシデンの攻撃を察知したザイノイドは軽々と攻撃をかわす。そして強烈な一撃をシデンに炸裂させた。
直撃を受けたシデンは遥か遠くへ吹き飛ばされる。
シデンの動きをもってしても、ザイノイドの攻撃をかわすことができなかった。
それもそのはずだ。戦闘型は剣聖だったフォンと同じだけの戦闘力を持っている。カズヤとステラが同時に攻撃しても、フォンに触れることすらできなかったのだ。
「シデン!!」
「カズヤさん、気を付けてください!」
フォンの叫び声がカズヤの耳に届く。
シデンを助けにいこうとしたカズヤを、別のザイノイドが狙っていた。
寸前に気付いたカズヤが反撃するが、驚くべき反射速度でかわすと強烈なパンチを叩き込んできた。
「ぐっ……!」
直撃したカズヤは、大きく後方まで弾き飛ばされてしまう。
「カズヤ、大丈夫!?」
カズヤを助けようと、すぐさまアリシアが炎の魔法を詠唱する。
しかし、他のザイノイドが瞬時にアリシアの目の前に移動してきた。アリシアの魔法は、発動する前にかき消される。
感情の消えた冷たい視線が、アリシアの目を覗き込んだ。
「姫さん、逃げてください!」
アリシアを薙ぎ払おうとするザイノイドの攻撃を、バルザードが自分の身体を挟んで必死に防ぐ。
しかしすかさず繰り出された次の攻撃で、二人とも地面に叩きつけられる。
ステラはブラスターで応戦するが、直線的なレーザー軌道は予測されかすりもしない。
戦闘型はブラスターの軌道を見るやいなや、発射するステラの位置を割りだした。瞬時にステラの目の前に、ピンク色の髪をした女性型のザイノイドが迫ってきた。
戦闘型の体術は圧倒的で、ステラに反撃するチャンスを与えない。
ブラスターを破壊されたステラは、電磁ブレードを取り出す間もなく一撃で無力化されてしまった。
唯一、対等に渡り合っていたのはフォンだった。
一体の戦闘型の攻撃をしのぐと、相手を圧倒する勢いで追いつめる。
だが、その様子に気付いたもう一体の戦闘型が援護する。
さすがのフォンも2体に囲まれると手も足もでない。正確な連携攻撃で追い詰められると、すぐさま捕らえられてしまった。
ピーナや黒耀の翼のメンバーは戦場で起こっている信じられない光景に、ただ立ちすくむしかなかった。加勢しようなどとも思えない。
たとえ自分たちができる最大の攻撃を放ったとしても、事態を好転させられるとは思えなかったのだ。
抵抗もむなしく、あえなくカズヤたちは全員捕らえられてしまった。
カズヤたちはこの星では敵なしの存在だった。
しかし5体の戦闘型ザイノイドを相手にするには、あまりにも無力だ。
ただ唯一、誰一人として殺されなかったことだけが幸いだった――
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