202話 人狩り
その後の数日間、デルネクス人の様子を伺っていたが大きな動きはない。
この間に、この星についての情報を集めているのだろう。
「……マスター、デルネクス人がタシュバーン皇国内で、研究対象にする人間をさらっています。すでに何人かが宇宙船に連れて行かれました」
「なんだって、まるで人狩りじゃないか!? いったい何の権限があって奴らはこんなことをするんだ。連れていかれた人はどうなる?」
デルネクス人のあまりに身勝手な行動に、カズヤは憤りを覚えた。
「もちろん、通常なら相手の許可をとって調査します。しかしデルネクス人がそんなことをしているとは思えません」
「くそ、連れていかれた人を何とかしないと……。タシュバーンのことなら、すぐにシデンに伝えよう」
「マスター、待ってください。ウィーバーに乗ると彼らに見つかってしまいます」
たしかにウィーバーでの移動は目立ってしまう。でも、普段からウィーバーを利用しているので、移動用の魔物なんて用意していない。
「そうか、困ったな。それじゃあ、どうやってタシュバーンまで移動しよう」
「いるじゃないですか。とっておきの仲のいいお友達が」
ステラがにこりと笑う。
「ひょっとして……」
カズヤは嫌な予感は的中した。
「ちょ、もうちょっとゆっくり走れないのか!?」
「急いで伝えたいと言ったのはマスターじゃないですか。もう少しで着くので我慢してください」
カズヤの想像は当たっていた。
カズヤとステラは、ウミアラシの背中に乗っていたのだ。
ステラが海中から呼び出すと、ウミアラシは喜んで二人を背中に乗せてくれた。
役に立とうと張り切るウミアラシが、全力でタシュバーン皇国内を疾走する。二人が乗る背中が、嵐の海に翻弄される小舟のように激しく揺れた。
カズヤはザイノイド化したおかげで、乗り物酔いにならないことに感謝した。
「……でも、これだけ大きな魔物が走ってたら、かえって目立たないか!?」
「この星にいる魔物が爆走しているだけなので大丈夫です」
「そういうものか……?」
ウミアラシの全力疾走は思いのほか速かった。ウィーバーよりも若干遅いくらいで、シデンがいるタシュバーン皇国の首都に到着した。
「……ウミアラシが走り回っているという報告を聞いてみれば、やはりお前たちか。本当にどれだけ常識がないんだ」
さすがのシデンも、ウミアラシを乗り物代わりに使っていることに呆れていた。
これには、さすがのカズヤも同意する。
「いや、でもシデン。それどころじゃないんだ……」
カズヤは、タシュバーン皇国内でデルネクス人が人狩りを行なっていることを伝えた。
「……なんだって、そんなことがタシュバーン国内で起きているのか。なぜ奴らを止めない!?」
「そうしたいんだが、奴らはかなり強い。それに、こちらの存在がバレたくないんだ」
カズヤの言葉を聞いたシデンは、さらに顔色を変えた。
「見損なったぞ、カズヤ。そんなことが、さらわれた国民に関係あるのか? 相手が強いから見つかりたくないなんて理由にならないだろう。国民を救えない君主など必要ない!」
激高するシデンを見るのは久しぶりだ。
「お前が恐れるほどだから、よほど強い相手なのだろう。だが俺たちが国民を守らなくどうするんだ!?」
シデンの熱い言葉に、カズヤはショックを受ける。
たしかにシデンの言う通りだ。
カズヤたちが怯えていたら、それよりも力を持たない国民はどうすればいいのだ。いつまでもデルネクス人に怯えて隠れ続けるつもりなのか。
シデンの叱責に、カズヤは目が覚める思いだった。
「そうだな、たしかにシデンが言う通りだ。ステラ、どうする?」
「何もしなければ状況は変わりません。どこかで覚悟を決める必要があるのは間違いありません」
「とはいってもな。奴らに俺たちの常識は通用しないと思うが……」
考え込むカズヤに向かって、ステラがある考え方を説明した。
「これも例え話になってしまうのですが……。マスター、もし動物の群れが大挙して襲ってきたらどうしますか?」
どうやら、また例え話を使って説明してくれるようだ。
この話がデルネクス人への対応に繋がると思い、カズヤなりに真剣に考える。
「もし、こちらの生活や命が脅かされるのなら、可能な限り撃退するんじゃないかな」
「では、もしその動物たちに話が通じるとしたらどうしますか?」
「どうにかして攻撃をやめてもらうように、交渉するかもな」
取り引き材料によっては無闇に戦闘するよりも、交渉する方が賢明な場面も出てくるだろう。
そこまで答えたカズヤは、自分の返答内容にハッとして気が付いた。
これが彼らへの対応方法なのか。
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