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020話 魔法の謎

 

 部屋のあちこちに、足の踏み場もないくらい書類や魔石が散乱している。


 机の上には半ば解体された魔石や道具が山積みになっており、その間には開きっぱなしの魔法書が無造作に置かれている。


 魔法の設計図のような紙すら、飲みかけのカップの下敷きになっていた。



「アリシア……本当に、ここで研究しているのか?」


「もちろん私の研究室よ。ここには大事な資料があるから、メイドたちには入らないように伝えてあるだけよ」


 アリシアは口をとがらせて抗議するが、部屋の散らかりようは隠しようがない。



「つまり、メイドが入らないと、こんな風になるってことか……」


 アリシアの意外な一面に、カズヤは絶句する。


「そんなにジロジロ見ないでよ……もう、恥ずかしいじゃない」


 部屋の汚さに引いているカズヤを見て、アリシアは思わず視線をそらす。


 ただ、人間臭い一面を見て少しホッとする気持ちもあった。どんなに優秀でも、人間らしい部分はあるものなのだ。



「それじゃあ魔法の仕組みについて話す前に、まずはカズヤに魔力があるかどうか調べてあげるわ。この上に手をおいてみてくれる?」


 そう言ってアリシアは、手に持った魔石を差し出してくる。



 カズヤは言われた通り手を置くが、魔石は何の反応もしない。


「本当に魔力がまったく無いのね。やっぱり身体の中に魔石がないのが原因かもしれないわ」


「そ、そうなのかぁ......」


 別の世界からやってきたカズヤには、魔法を使う素質が備わっていないのだ。


 異世界で魔法を使うというカズヤの夢が、音を立てて崩れていった。



「まあ、残念だったな。俺様みたいに魔力を身にまとえば、身体能力を上げることだって出来るんだけどな」


 バルザードが横からつけ足してくれる。


 カズヤは戦っているバルザードの身体から、放電のように魔力がほとばしっていたのを思い出した。


 だから何倍も大きなブラッドベアと対峙しても、力負けしなかったのだ。



「魔力を使えば、女性や子どもが屈強な男性を力でねじ伏せることだってあるんだぜ。見た目で判断しないことだな」


 そうなると、男女による腕力の差はほとんど無いのと同然だ。


 アリシアのような女性が、戦場の前線に立ってもおかしくない。



「そんなに気落ちしないで。そもそも戦闘で使う魔法は、魔術ギルドと契約しないと使えないんだから」


「……ん、どういうことだ?」


 また聞き慣れない、魔術ギルドという名前が出てきた。



「攻撃魔法や防御魔法といった戦闘用の魔法は、魔術ギルドと契約して初めて使えるようになるの。契約しないと腕に紋様が浮かび上がってこないから、魔法は使えないのよ」


 以前、アリシアがブラッドベア相手に魔法を唱えた時に、腕に紋様が浮かび上がってきたのを思い出した。


 あの紋様は契約して使っているのか。


 カズヤが思い描いていた魔法とは少し違っていた。



「試しに魔法を使う真似をしてみる? この魔石を持ってみて。すでに魔法が込められているから」


 アリシアは研究室の奥から、小さな赤色の魔石を取り出した。


 言われたとおりにカズヤが魔石を持つが、何もおこらない。



「……やっぱり魔力が無いと反応もしないのね。ちょっとそのまま持っててね」


 不意に、カズヤが持っている魔石にアリシアが後ろから手を重ねてきた。


 指と指が触れ合い、甘い香りが漂ってくる。アリシアの指や身体が密着する感触に、カズヤは思わず息を呑んだ。



「私の魔力で魔石を発動するの、そのまま持っててね」


 ささやくような声が耳をかすめる。


 近すぎる距離にどう振る舞うべきかわからず、ぎこちなくうなずいた。



 アリシアが短く何かを詠唱すると、魔石からレーザーのような光線が出て、研究室の壁を突き抜けた。


 魔法を使ったのかもしれないが、アリシアの方が気になってしまい、うわの空だ。



 やがて、すぐに同じような光線が魔石に戻ってくる。


「これは魔力の動きを可視化できる魔石よ。魔法を唱えた瞬間に、こんな風にある場所と繋がって応答が返ってくるの。魔術ギルドと契約していないと応答がないし、魔法も発動しないわ」


 まるでインターネットのような仕組みだ。


 魔法を使うときにサーバーにアクセスして、そこから許可を待っているようだ。



「表向きは魔法が間違った目的で使われないように、魔術ギルドが管理しているということなんだけどね。生活魔法くらいなら誰でも自由に使えるわ」


「表向きってことは、裏の理由もあるのか?」


 カズヤは何の気なしに聞いてみる。



「そもそも魔法を使うのにお金を払って許可をとるって、おかしいと思わない!? 紋様を更新して魔法を使い続けるにもお金がかかるのよ」


 急に目の色を変えて話し出した。


 不用意な質問が、アリシアのスイッチを押してしまった。



「もっともらしい理由をつけているけど、魔術ギルドがすべての魔法を管理するなんて疑問しかないわ。それに、もし何らかの方法で魔法を使えるようになっても、必ずギルドに報告しなければいけないの。違反すると魔法を封印されてしまうのよ。なぜ魔術ギルドにそんな権限があるのかしら!?」


 すごいスピードでアリシアがまくしたてる。


 途中から何を言っているのかまったくわからなかった。



「だけど、このことを皆に話しても理解してもらえないのよね。はじめからそうやって魔法を使ってきたせいか、異常な状態にあることに気づいてもらえないの」


 魔術ギルドへの危機感を共有できないことに、アリシアはいらだちを覚えているようだった。


 カズヤにも、他人に魔法を管理されることに懸念をいだくのは理解できる。生活の大事な部分を他人に依存するのは、少し危険な気がするからだ。



「姫さんは小さな頃から魔力過剰症と戦ってきたから、魔法にかなり詳しいんだよ。それに、暇さえあれば調べたり実験しているから、魔法については人一倍想いが強いんだ」


 バルザードが、カズヤの肩に手を置きながらフォローしてくれた。



「ただ姫さんと言えども、魔術ギルドを批判するのは危険ですぜ」


「そうね、それはわかっているんだけど……」


 納得できない表情をしながらも、アリシアはこくりとうなずいた。



 アリシアは眼鏡を外すと、何か考え深げな様子で窓際まで歩いていく。扉を開けて小さなバルコニーへと出ていった。


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