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198話 緊急通信

 

 第1皇子ユベスが、影の亡霊の力を借りた驚異的な速さでシデンに襲い掛かる。


 部屋の中は剣の閃光と、影の亡霊が支配するユベスの剣が交錯する音が響いた。さながら光と闇の剣戟だ。


 ユベスの放つ剣先が、時折シデンをかすめる。


 反対にシデンの剣が黒い霞を攻撃しても効果はない。すかすかと宙を空振りするだけだ。



『脆い身体だが、いずれはお前を追い詰める。喰らえ!』


 真っ黒な影が何度も襲い掛かってくる。無理やり動かされるユベスが苦痛の声を上げるが、影の亡霊が手を休めることはない。


 ユベスの身体を完全に支配しており、まるで操り人形のように立ち上がって攻撃を繰り返す。



「さて、どうしてやろうか……」


 そのとき、シデンはマキから渡された物を思い出した。


 それは小ぶりの電磁ブレードだった。


 護身用にと、マキがカズヤから渡されていた物だ。ふだんカズヤが使っている剣と似ていたので、渡された瞬間に思わず笑ってしまったのだ。



 シデンが電磁ブレードの柄を握りしめると、直ちに刀身が飛び出してくる。


 刃に流れる高圧エネルギーが青白い輝きを放つ。


「これなら、どうだ!」


 振り下ろされた鋭い斬撃が黒い霧を切り裂いた。科学で生まれた剣が、魔法しか効果がない影の亡霊を攻撃したのだ。



『なんだその剣は!? くそ、あともう少しだったというのに……』


 亡霊の歪んだ悲鳴が、空気を震わせる。


 シデンが真っ黒な霞を断ち切ると、影の亡霊は元いた魔石の中へと戻っていった。




「若、大丈夫ですか!?」


 部屋から出てきたシデンに、ゼーベマンが駆けよってくる。


「マキに借りた武器が役に立った。それにしてもユベス程度の奴がこれほど強くなるとはな、面白い経験だった」


 影の亡霊に囚われたユベスは予想を超える強さだったが、それすらシデンにとっては刺激的な娯楽に過ぎない。



「若、この魔石をどうしますか?」


 ゼーベマンが、影の亡霊が閉じ込められた魔石を見せてくる。


 すると魔石から再び黒い影が飛び出してきた。



『貴様の強さを気に入った……どうだ、俺を使ってみないか? より大きな力を授けてやるぞ』


「ふん、ユベスのように支配されて使い捨てにされるだけだろう。他人の力など借りん」


 シデンは亡霊の甘言に、まったく耳を貸さない。



「爺、その魔石は危険だ。厳重に封印しておいてくれ」


 ゼーベマンは言われた通り、真っ赤な魔石を大事そうにしまい込んだ。



 捕らえられた第1皇子ユベスは、すぐさま皇王の前に引きずり出される。


「ユベスよ、王座を巡って襲撃するとは失望した。その行動を国民がどう感じるのか考えるがいい。シデンを皇太子に任命したのは強さではない、民を思う気持ちだ。自分の王位だけを考えているお前は、やはりふさわしくはなかったな」


 皇王に断罪されると、ユベスは牢屋へと連れていかれた。



「マキ、この度の忠告には感謝する。お前の助けが無ければ事態が悪化していたのは間違いない」


 特別にシデンの執務室に招かれたマキは、じきじきに礼を言われる。


「いえ……、とんでもありません……。あの、お役に立てて、うれしいです……」


 普段の女中に戻ったマキは、頬を真っ赤に染めて返事をするだけで精一杯だった。



 *


 現首都エストラから新首都セドナへの民間人の移住は終わった。


 最終的にエストラには3000人の住民が残ることになった。


 信条や思い出など理由は様々だが、危険だとしても住み続けたい人がいることはカズヤたちにとって想定内だった。


 崩落の危険性がある区域をのぞいて、安全な箇所で生活してもらうように伝えていた。



 カズヤとステラは完成したセドナの城壁に登り、移住が終わった新市街を眺めていた。


 ウミアラシと共に開拓したあと、ゴンドアナ軍の襲撃を受けて一度は全壊したが、再びここまで再建することができたのだ。


 カズヤの胸に、言い知れぬ充実感がわいてくる。



「……マスター、そろそろエネルギーコアを交換する頃ですが」


「ああ、もうそんな時期なんだ。変えるタイミングはステラに任せるよ」


 ザイノイドは約3ヶ月に1度、エネルギーコアと呼ばれる動力源を交換する必要がある。


 ただし、その期間の活動量によっても減り方が変わってくるため、エネルギー管理は簡単ではない。カズヤは、すっかりステラに丸投げしていた。



 ステラはカズヤの返答にうなずく。


 だが、次の瞬間。


 急に真剣な顔に変わって片耳を押さえ始めた。何か聞こえてきた音に集中している。



 カズヤには何も聞こえていない。


 ザイノイドの聴覚センサーは鋭敏だ。片耳を押さえることで音量が聞き取りやすくなる訳でもない。


 しかしステラが思わず耳を押さえるほど、集中しなければいけない音が聞こえているようだ。


 ステラのこんな様子は、今まで見たことがない。


「おい、どうしたんだステラ。何か聞こえるのか?」


 カズヤの質問には答えずに、ステラの顔がかつてないほど険しくなる。



 すると今度はフォンから慌てた様子で、カズヤに緊急の内部通信(インナーコネクト)が入った。


<……カズヤさん、今の指令が聞こえましたか!?>


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