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197話 影の亡霊

 

 到着するや否や、第1皇子のユベスが不満をもらす。


「シデン、なぜ黒耀の翼がここにいるんだ。呼ぶなと言っただろう!」


 出迎えた黒耀の翼のメンバーを見て、第1皇子のユベスが不満をもらす。


「別に呼んではいないが勝手にいるだけだ。この宮殿には奴らの部屋もある。いちいち俺が指示を出すことでもないだろう」


 ユベスに追及されても、シデンは涼しい顔だ。



「おいプラクト、お前までいるのか!?」


「ユベス兄さん、僕はもう黒耀の翼の一員だからね。大事な用件があればいつでも駆けつけるさ」


「くそ、忌々しい。それよりシデン、会談は一対一でなければならないと伝えたはずだ。そこは譲れんぞ!」


「ああ、分かってる。こっちの部屋に付いてこい」



 会談の部屋に向かって歩くシデンに対して、マキが走り寄った。


「……シデン様、これをお持ちください」


 マキがすっと何かをシデンに渡した。


 シデンはちらりとそれを見た瞬間、ニヤリと笑う。そして服の中にしまい込むと、何食わぬ顔で会談の部屋へと入っていった。



 部屋の中は、シデンとユベスの二人だけだ。


「ユベスよ、お前が大事な話だというからわざわざ時間をとったのだ。お前の王位継承権でも放棄する話なんだろうな」


 シデンが挑発的に切り出した。



「偉くなったな、シデン。今度はラグナマダラを退けたそうだな。まさか王座を奪う名声のために冒険者になったとはな」


「そんな狙いで冒険者を始める奴がいると思うのか。国民の為に自分ができることをするだけだ」


「ふん、国民のためか。俺が見る限り、お前は自分のためだろう。口では何とでも言える。民衆からの人気を利用したいだけだ」


「そんなくだらない話をしに来たのか! その程度の話なら今すぐに帰れ!」


 ユベスの埒があかない会話に、業を煮やしたシデンが立ち上がる。



「もちろん、こんな話ではない。お前に面白い物を見せてやろうと思ってな」


 そう言って、ユベスはふところから怪しげな魔石を取り出した。血で染められたかのように真っ赤な魔石だ。



「何だ、それは」


「アビスネビュラからもらったのさ。わざわざ俺様が、お前の命をもらいに来たのだからな!」


 魔石から溢れだした真っ黒なオーラが、壁に沿って部屋中に広がっていく。


 壁に立てかけてあったシデンの魔法剣も包み込まれていく。



「お前を排除すれば、アビスネビュラの地位が約束されている。シデン、ここで死ね!」



 黒い影が触手を伸ばし、ユベスを包み込んだ。


 ユベスの身体からどす黒いオーラがわき上がり、目が真っ暗な闇に染まる。闇をまとった顔に浮かぶ笑みは、既に人間のものではない。


 魔石から飛び出した影の亡霊に憑依されたのだ。



 ユベスが腰に下げた短剣を勢いよく引き抜くと、瞬時にシデンの顔に突き立てた。


 想像以上に鋭い剣先がシデンの頬をかすめ、一筋の血が首元へと流れる。


「あの非力な男が、これほどの突きを見せるとは」


 普段の脆弱なユベスの攻撃なら、シデンの相手にもならない。しかし、真っ黒な影に身体を明け渡したことにより、信じがたい程の力を手にしたのだ。



『ユベスよ、この男を殺せ……そうすれば、より強大な魔石が私のものになる』


 全身を包み込んだ影の亡霊が、ユベスを扇動する。


「魔石に巣くう影の亡霊か。ふふ、面白い。この程度の戦闘は想定内だ、お前の覚悟を見せてもらおうか!」


 シデンは壁に立てかけてあった魔法剣に手をかけた。



 *


 部屋の外でも、会談が始まると同時に異変が起きていた。


 第1皇子ユベスの護衛として従っていたはずの兵士が、部屋の外で控えるゼーベマンたちに突如として飛びかかってきたのだ。


 さらにシデンを警護するはずの兵士や召使いたちも、黒耀の翼に向かって襲いかかってくる。


 宮殿内の隠し通路からも、次々と兵士が入ってくる。


 シデンが住む宮殿は、戦場へと様相を変えていた。



 しかし、黒耀の翼たちの対応は冷静だった。


「リオラさん、今です!」


「マキの情報のとおりね。近衛兵よ、宮殿内に突入しろ! 裏切者どもを蹂躙するのだ!」


 宮殿の外には、マキの情報を聞いたリオラが部隊を率いて待ち構えていた。


 伏せていたシデンの兵士が宮殿内に突入してくる。



 今回の異変は、マキを通じて黒耀の翼のリオラに伝えられている。その情報を聞いたリオラがゼーベマンと相談し、宮殿の外に兵士を配置していたのだ。


 襲撃を受けても、圧倒的に優勢なのはシデンの配下と黒耀の翼の方だ。


 次々と襲撃者たちを排除していく。


 しかし襲撃者たちは黒耀の翼を倒すつもりは毛頭ないし、その実力もない。ユベスが攻撃する時間を稼ぐためだけに突撃してきているのだ。



 *


 シデンは壁にかけてあった自分の魔法剣を手にする。


 しかし様子がおかしい。


 剣に込められた魔力の気配が消えている。魔法剣が黒い影に覆われた時に魔力を奪われたのだ。


『魔法剣を封じれば私を攻撃することはできまい。アビスネビュラとの取引により、お前の命をもらいにきた!』


 第1皇子ユベスが、影の亡霊の力を借りた驚異的な速さでシデンに襲い掛かった。


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