195話 ピーナとの別れ
2日目の夜。
カズヤは、密かにアリシアたちと確認していることがあった。
「……ピーナとはここでお別れだな」
「そうね。せっかく母親と会えたのだから、ここで暮らすのがピーナちゃんにとって一番の幸せよね」
ついに明日はエルフの里を離れる日だ。
ピーナはエルフ族の子どもだ。エルフの里で暮らすのが一番合っている。長い付き合いだったが、ここでお別れになるとカズヤたちは覚悟していた。
みんなそれぞれ、ピーナとの思い出を振り返っている。
エルフの里での最後の夜は、しんみりと過ぎていった。
*
ついにカズヤたちがエルフの里を離れる日がきた。
ピーナの母親のみならず、近隣のエルフたちが別れの挨拶をするために集まってくれていた。
代表してカズヤが挨拶を述べる。
「それではエルフの皆さん、3日間お世話になりました。元気にお過ごしください。ピーナのこともよろしくお願いします」
「じゃあね、お母さん! また遊びに来るからね!」
するとカズヤの隣で、ピーナが母親に向かって手を振っている。
「えええっ、ピーナ!? この里で暮らすんじゃないのか!?」
「えっ、ここには住まないよ? だって、毎日ゆっくりし過ぎて、つまらないんだもん!」
無邪気に答えるピーナに、カズヤは動揺を隠せない。
「お、お母さん、ピーナを連れて行ってもいいんですか!?」
「どうぞ連れて行ってください。エルフの人生はとても長いのです。子どもの頃に、お気に入りの人たちと過ごす時間は良い経験になるはずです」
母親も気に留めた様子はない。
たしかに、人間の暮らしに慣れたピーナには、エルフの里のゆったりとした生活は退屈過ぎたかもしれない。
「それに雲助様も一緒にいらっしゃるので、何の心配もしていません」
なぜかエルフから特別扱いを受ける雲助の顔を見るが、何の返答もない。相変わらず触れて欲しくない話題のようだ。
「それではカズヤさん、皆さん。ピーナをよろしくお願い致します。また、遊びに来てくださいね」
いつものように、ピーナもウィーバーに乗り込んだ。
ピーナとの生活は変わらない。ピーナは、これからもカズヤたちと行動を共にするつもりなのだ。
ウィーバーはセドナへと向かって飛び出した。
「なんだよ、心配して損したな」
思いがけない流れに、カズヤがホッと一息ついたのも束の間。
深刻な顔をしたステラが、カズヤに重大な事象を報告してきた。
「……マスター、さきほど衛星の1機と連絡がとれなくなりました。そのため、いま私が管理している衛星は合計3機になります」
「えっ、衛星が壊れたのか!?」
「壊れたのかどうかも分かりません。急に通信できなくなったのです。衛星軌道上の岩石等と衝突して破壊されることはありますが、確率としては滅多にあることではありません」
衛星軌道上を漂う、宇宙ゴミのスペースデブリの話くらいはカズヤも知っていた。
ただ、この星では衛星軌道上に人工物を飛ばす技術はないはずだ。そんなに頻繁に起こる事故ではないことも知っていた。
「新たな情報が分かり次第、報告します」
「……分かった」
何か釈然としないものを感じながらも、カズヤはうなずいた。
*
吉野マキが、シデンの元で働きだしてから数ヶ月が経っていた。
すでに簡単な日常会話には問題がなく、女中仲間にもすっかり溶け込んでいる。その代わり新たに気付くことも多かった。
マキが働いているのはシデンの宮殿だが、他の皇子たちとの関係が良くないのだ。
現在、王位継承権第一位にいるのは第5皇子のシデンだが、過去に皇子同士で継承権の争いがあったことはマキも知っていた。
そのせいか、それぞれの皇子の宮殿間のやり取りは殺伐とした空気が流れていた。
そのためタシュバーン皇国はアビスネビュラに反対する姿勢をとっているが、実状は一枚岩ではない。
特に皇王がいる王城に集まる際には、召使い同士の間でさえ剣呑な空気が流れていた。
さいわい第4皇子のプラクトとの関係はもともと良かったため、第4皇子家から情報を得ることも多い。プラクトが黒耀の翼に加入したことにより、その関係性はさらに良化した。
「……ちょっとマキちゃん。こんな噂は知ってる?」
「えっ、どんな話ですか」
マキはあるとき、プラクトの召使いから不穏な情報を手に入れた。
第1皇子のユベス皇子がシデンの命を狙っているというのだ。シデンへの忠誠心にあふれるマキには、貴重な情報だった。
それから数日後。
いつも以上の注意力で事態を注視していたマキは、ある重大な事実をシデンに報告するために宮殿内を走っていた。
「シデン様! あの、ご報告したいことが……」
夕食のため、部屋に入る直前のシデンをマキは呼び止めた。
使用人のマキが、いきなりシデンに話しかけるのは礼儀に反する。しかし、マキが伝えたい内容は、シデンの命に関わることだった。
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