193話 エルフの里
「ピーナちゃん、今までどこに行ってたの!? みんな心配してたんだよ!」
「カズヤお兄ちゃんの所で遊んでたの! 帰るのを忘れるくらい楽しかったんだよ」
屈託のない笑顔でピーナが答える。
しかし、想定外の返答にカズヤのほうが固まる。それではまるでカズヤが誘拐したような言い方だ。明らかに誤解を招く。
「おいおい、ちょっと待ってくれ。おそらくピーナは他の人間に攫われたんだ。それを俺たちが助け出したんだよ」
「違うよ。逃げたのはピーナの力だよ」
分かりやすく伝えようとするカズヤの話を、ピーナが絶妙に壊してくる。
「でも、これだけたくさんの人が来てるってことは、ピーナちゃんをここに連れてきてくれたんじゃないの?」
「そうだよ、みんないい人だよ! ピーナ、お母さんに会いたい!」
妖精は事態を納得したようにうなずいた。
話が通じる妖精で助かった。どうやら誤解されずに済みそうだ。
カズヤは小さな妖精に今までの経緯を説明する。
フーちゃんと呼ばれた妖精の本当の名前は、フリアベルということが分かった。
「それで、どうやったらピーナの里に入れるんだ?」
「エルフの里は、私たち妖精の案内が無ければ入れない決まりなの」
カズヤの疑問に妖精のフリアベルが答える。
やはり誰でも気軽に入れる訳ではないようだ。
「でも今回はピーナちゃんを連れてきてくれたお礼に、近くまで案内してあげる。そこから入れるかどうかはエルフの皆に確認しないといけないけどね。私に付いてきて!」
フリアベルが飛んでいく後をついていくと、周囲の景色がどんどん変わっていく。
認識阻害だけでなく、森全体にも幻術の魔法がかけられているようだ。まるで樹や岩が動いているかのように、道の両脇の景色が変化していく。
その突き当りに、ひと際大きな樹が現れた。
「それじゃあ、ここで待ってて。許可がとれたら案内するね」
そう言うとフリアベルの姿が樹の中に消えていった。
エルフの里に入ったのだろう。
「エルフの里の噂は本当ね。知らない人が訪れても、これじゃあ絶対に中に入ることは出来ないわ」
アリシアが興奮した様子で辺りを見回している。
「……許可が出たよ! みんなで中に入りましょう」
フリアベルの姿が言い終えたとたん、周囲の景色が一変した。
カズヤたち一行の周りには巨大な樹木が立ち並び、ツリーハウスのように樹のなかほどに家が点在している。
家は木の枝や葉を利用して作られていて、地面で生活することは無さそうだ。家の外壁は木の皮で覆われていて、樹の幹に沿って構築されている。
そこは、まさにカズヤが想像していた通りの隠れ里だった。
「見つけた! あそこがピーナのお家……お母さん!」
ピーナが勢いよく走りだす。枝を上手に利用しながら、どんどん樹の上へとのぼっていく。
何ごとかと、エルフの住人たちが樹木の上からカズヤたちを見下ろしていた。
そして、ピーナが一軒の家に飛び込んだ。
カズヤたちがややしばらく遅れて中に入ると、ピーナを抱きかかえた母親らしき女性が立っていた。
「あなたがカズヤさんですね。ピーナを連れてきてくれてありがとうございます。いなくなっていた間、随分お世話になったようですね」
母親はピーナと同じオレンジ色の髪をした、とても美しい女性だった。エルフの年齢は想像もつかない。
ポーッと見とれるカズヤの腕を、ステラが引っ張る。
「あ、あの、ええと……。いいえ、もっと早くに連れてくるべきでした。助け出すのに手間取ったこともあって、つい遅くなってしまいました」
母親は理解しているようにゆっくりとうなずいた。
どうやら、こちらの事情はピーナや妖精のフリアベルから伝わっているみたいだった。
すると、ピーナの母親は雲助を見つけて驚いた表情を見せる。
慌てて頭を下げて一礼した。
「これはこれは、ライゼリアス様も一緒にいらっしゃったんですね。ますます心配する必要はありませんでした」
謎の名前で呼ばれた雲助は、他人事のように何も答えない。ライゼリアスなんて、雲助らしくないかっこいい名前だ。
「おい、雲助。お前の本当の名前はライゼリアスっていうのか?」
「そんな名前は知らないぜ。オイラは雲助だ」
謎の名前を認めるつもりはなさそうだ。
カズヤの常識では理解しきれないこの世界で、雲助の存在は特に異質だった。今までも色々と尋ねたことはあったが、すべてうやむやに誤魔化されてしまっている。
「すみません、こいつはいったい何者なんですか? 尋ねても何も教えてくれないんですよ」
「いいえ、どうやらお答えしたくないようなので私も黙っておきますね。皆さんと同じように、雲助様とお呼びします」
ピーナの母親から、やんわりと断られた。
「ピーナを連れてきてくれた、あなたたちを歓迎いたします。しばらく滞在していってくれますか?」
「ぜひ、喜んで!」
まっさきに後ろにいたアリシアが返答した。
カズヤたちはその後、ピーナの家から少し離れた建物を一軒紹介され、そこで3日ほど滞在することになった。
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