192話 太古の森
「ステラ、その周辺にエルフの里は無いのか?」
「レンダーシア公国に、それらしき集落はありません。以前スクエアを訪れた時に、周辺地域は精査してありますので」
カズヤは当然のように付いてきているステラに問いかける。レンダーシア公国には、エルフの森は無さそうだ。
「ピーナ。どのくらいの期間、その乗り物に乗ってたんだ?」
「何日も乗ってたよ。ご飯も美味しくなかったし、退屈だった」
乗り物に数日となると、かなり遠くから連れられてきた可能性がある。
「ステラ、スクエアの辺りから街道をたどって探してみてくれ」
「分かりました。衛星からの情報を調べますので、少し時間をください」
そう言ってステラは目をつぶると、何かを考え込むように険しい表情になった。
待っている時間がもったいないので、カズヤはバルザードを呼び出して尋ねてみる。ピーナの話に興味を持ったアリシアまで一緒に付いてきた。
「バルは各地を旅してたんだよな。エルフの里について何か知ってないか?」
「エルフの里か……。ゴンドアナ王国の西側の森に、エルフの集落があるっていう噂は聞いたことあるぜ。なんでも深い森の奥に、外部から隠された里があるってな」
「それだっ! ステラ、その辺を重点的に調べてくれるか」
ステラは無言のままうなずいた。
「……確かに、ゴンドアナ王国の西の森に、不自然に認識阻害の魔法がかけられている森が点在しています」
認識阻害ということは、その場所だけ霞がかかったようにぼんやりとしか見えないということか。
カズヤは以前にアリシアに教えてもらった知識を思い出した。以前に認識阻害と魔法障壁の違いが分からなくて尋ねたことがあったのだ。
認識阻害は観察者の焦点が合わないように意識をそらして見つけにくくする魔法で、見つかりたくない場所を隠したいときに役に立つ。
魔法障壁は魔法で相手の攻撃を防ぐ防御壁のようなものだ。ちなみに、新たに別の虚像を作り出す幻術とも区別されている。
「その森は怪しいな、とにかく行ってみるか。ゴンドアナ王国とは関係が悪いけど、ウィーバーで行けば気づかれないだろう」
ウィーバーに乗ってしまえば国境の関所を通る必要はない。
他国へ移動するときのために冒険者の資格をとったのだが、もはや何のために身分証を持っているのか判らなかった。
「でも敵国のゴンドアナ王国に行ったら、何が起こるか分からないな。危険そうだから行くのは俺とステラだけでいいか?」
「ちょっと待って、エルフの里に行く機会なんて滅多にないわ。私も行ってみたい!」
カズヤの提案とは裏腹に、アリシアは付いてくる気満々だ。
アデリーナとバルザードを見ると、うなずいている。
どうやらアリシアが付いてくるのは黙認されたらしい。ということは、バルザードが来るのも決定だった。
結局いつものメンバーで、ピーナの故郷を探しにゴンドアナ王国へ向かうことになった。
準備を整えると、カズヤたちはすぐさまウィーバーに乗り込んだ。ゴンドアナ王国まではかなりの距離があるが、ウィーバーに乗ればあっという間だ。
以前ステラに尋ねたところ、ウィーバーを変形させれば音速以上のスピードが簡単に出せると教えてくれた。
もちろん普段は風速や気温が厳しいので、そこまで速く飛ぶことはない。
それでも一刻もしないうちに、カズヤたちはゴンドアナ王国の西側の森にたどり着いた。
ウィーバーから降りると、そこは通常の森とはまるで違う厳粛な雰囲気に覆われていた。森全体に大きな樹がそびえ立っていて、深い緑に包まれている。
奥まで見通せないほどの多くの木々が視界を遮っている。足元には柔らかな苔と植生が茂っていて、小鳥のさえずりがあちこちから聞こえてくる。
森にただよう奥深くて神秘的な空気は、エルフの里の存在を静かに隠しているように感じられた。
「やはりこの辺りには、認識阻害の魔法がかけられている森がたくさんあります。普通の森に使う必要はありません」
「それじゃあ、魔法がかけられている場所を、重点的に探してみようか」
しかし、カズヤたちが探し出すよりも先に、ピーナが周りの地形に気が付いたようだ。
「この場所知ってる! お家はこっちだよ!」
慌てて付いていくと、さらに巨大な樹が立ち並ぶ森が現れた。
太古の森という言葉が合っているほど奥深い。覚えず湧いてくる畏敬の念を抱きながら、カズヤたちは恐る恐る森の中へ入っていった。
「……ねえ、ひょっとして、ピーナちゃん!? やっぱりピーナちゃんだ!!」
すると、不意に何も無い空間から声をかけられた。
カズヤは辺りを見回すが誰もいない。
「フーちゃん!」
よく見ると、ピーナの目の前に小さな妖精が飛んでいた。まさにピーターパンに出てくるティンカーベルのような姿だ。
「ピーナちゃん、今までどこに行ってたの!? みんな心配してたんだよ!」
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