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189話 青空のもと


 青く澄み渡った空の下、温かな日差しの中をカズヤとステラは歩いていた。


 それはウミアラシと遊んだ帰り道のことだった。



 さわやかな風が草原を優しく吹き抜けていく。風に揺れる草の波は足元をくすぐり、心地よい音を立てていた。


 二人が丘の上に着くと、草原の向こうに真新しいセドナの街が見えてくる。


 この辺りも以前はうっそうと樹が生い茂り、魔物がはびこる森だった。それを思いがけず、カズヤとウミアラシで開拓したのだ。



 黒髪で平凡なカズヤの顔は、幾多の戦いを経て精悍さを増していた。


 ぼんやりとした外観は人間の時と変わらないのに、落ち着き払っていて風格さえ漂っているようだった。


 それでも、人間味あふれる優しさは失われていない。強い者が理不尽な仕打ちを強いることに対しては、意外なほどの反発心と正義感を見せていた。


 カズヤは脳と中枢神経だけを残して、ザイノイドというロボットに生まれ変わった。いつもと同じように見える黒い瞳も、ザイノイドの視覚センサーへと変わっている。


 外見は整備しやすいように関節部分の機械がむき出しになっている時もあれば、人間と全く同じ時もある。時と場合に応じて変化させているのだが、もともと見た目を気にしないカズヤはまるで頓着していなかった。



 セドナへの家路につきながら、カズヤはふと空を見上げた。


「……あれは何だろう? すごく速いなあ」


 青空のなかを高速で移動する飛行物体を見つけたのだ。カズヤはその動きを必死に目で追いかける。



「ステラ、何だと思う?」


 カズヤが上空を見ながら、隣にいるステラに問いかける。


「どれでしょうか。私には何も見当たりませんが……」


 ステラも空を見上げるが、その時にはすでに姿を消していた。


 視覚センサーを備えたステラの視力は人間離れしているが、その目でも飛行物体を捉えることはできなかった。



 ステラはカズヤに仕える女性型ザイノイドで、瞳は空の青さを思わせるクリアブルーだった。深い海を思わせる鮮やかな青色の髪が、光に当たるたびに輝きを放っている。


 情報処理型であるステラには、もともと人間らしい感情を表現するためのプログラムが組み込まれている。だが昔の彼女を知る者ならば、よりいっそう感情表現が豊かになったことに驚くだろう。



 人間の外観を模して作られた華奢な身体は、あらゆる動作を滑らかにこなす。


 魔法で作られたゴーレム――魔導人形と同じように、誕生の時から人間を模して作られたステラは、存在するだけで生命のあり方について多くのことを問いかけていた。


 ステラはザイノイドでありながら可愛いものが大好きで、一番のお気に入りはバルザードの身体を撫でることだ。これはすでに日課になっているので、ステラの行動を見ても、もはや誰も何も言わない。


 日記や絵を書いたり調査用のボットたちに名前を付けたりと、他にも人間以上に人間らしい感性を持っていた。



「ちなみにマスター、視覚センサーを意図して使えば、高速で移動する物体を捉らえることもできたはずですが」


「ああ、そうだったな。ザイノイドの身体の使い方をよく忘れるんだ。まだ人間だった時の感覚が抜けないのかな」


 当たり前の機能を確認するステラの問いかけに、カズヤはうっかりしたという風に頭を手で押さえてみせる。


 カズヤの腕力や脚力は機械によって強化されているが、記憶力や判断力といった点では従来の人間のままなのだ。



「それにしても、この辺りでそこまで速く飛ぶ魔物には心当たりがありませんが」


「魔物の姿には見えなかったな。もっと、小さくて鋭角的だった。どちらかというと、F.A.(フライト・アングラー)に似ているかも」


F.A.(フライト・アングラー)ですか。あの辺りを飛んでいることは無いと思いますが、念のため後で確認してみます」


 ステラの返答に、カズヤは納得したように頷いた。



 話し終えたあとも、二人はさわやかに広がる青空をしばらく眺めていた。



 *


 領主館に戻ると、いつものようにアリシアの執務室に皆が集まっていた。


 この領主館にはアリシアが住んでいるだけでなく、カズヤとステラも部屋を借りて住んでいる。


 ここ最近は、アリシアが「”かがく”について教えて欲しい」とステラにお願いしていたので、執務室でステラから自然科学について教わるのが日課になっていた。


 時には二人の話が哲学的な分野に渡ることもあり、一緒に聞いているカズヤが付いていけないことも度々あった。



 ステラの話を熱心に聞くアリシアは、一国の王女というよりは真理を追究する研究者のようだった。


 自らも魔法について研究を重ねており、そこから魔法全般を管理する魔術ギルドの存在に疑問を持ったのだ。




 アリシアの眼差しは目に映る全てを見透かすような鋭さを持っていて、王族の威厳と気品を感じさせた。髪と瞳は、まるでルビーのように赤く燃えている。


 肌はきめ細かく美しく滑らかだが、両腕の指先から肘にかけて大きな火傷を負っている。幼少期からの魔力過剰症という病のせいで、あふれだす魔力と格闘してきた証であった。



 アリシアには強い意志と情熱を持つリーダーとしての資質が備わっているが、新首都セドナでの領主としての役割はすでに終わっている。


 アリシアの関心は、すでに次のアビスネビュラとの戦いに向けられていた。



「……本当にステラが言うように、全ての物質は小さな粒からできているのかしら」


 執務室でステラの話を聞いているアリシアの口から、信じられないといったような声がもれた。


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