188話 第5章:エピローグ
ラグナマダラは魔力を使って、宇宙まで飛んで行ったというのか。
「デルネクス人は、自分たちを宇宙から見下ろす神のように思っていたのでしょう。この星の生き物は宇宙船には手出しできないと、見下していた報いですよ」
ステラの痛烈な批判がつづく。
極めて高度な技術を持っていたデルネクス人たちも、まさか宇宙技術も無い世界の生き物が、衛星軌道まで飛んでくるとは想像もしていなかったのだ。
『だが、奴らを攻撃していたのは我だけではなかった。奴らがこの星に着いたときから、地上から船を狙う攻撃もあった。その隙を付いたからこそ、我は船を落とすことができたのだ』
衛星軌道上にある宇宙船を攻撃する者が、他にもいたというのか。
この世界に、そんな技術力があるとは思えないが。
「誰が、その攻撃をしていたのか分かりますか?」
『いや、分からん。だが宇宙船を叩き落しても、この首に取り付けられた物の効果は無くならなかった。だから薄れる意識のなかで、奴らが現れた時のような次元の振動や奴らの痕跡を感じるたびに、その場所へ探しに行ったのだ』
「……なるほど、そういうことでしたか」
カズヤは、ラグナマダラの説明を聞いて合点がいった。
ラグナマダラが数百年前から暴れ始めたというのは、300年前に装置を付けられて凶暴化したからだろう。
これだけの知性を持っているのだ。元々は無闇に街を破壊する魔物ではなかったはずだ。
ラグナマダラの動きが再び活発になった100年前は、フォンがこの星で活動し始めた時期と一致する。
宇宙船のバトルセクターが動き始めた時期だ。
1年前はカズヤがこの世界にやってきた時に次元の振動を感じたのだろう。魔導人形たちに囚われた時に聞こえていた魔物の咆哮は、ラグナマダラのものだったに違いない。
最近は調査や街の開発、そして戦闘のためと宇宙船を稼働する機会も増えたから、ラグナマダラの活動も活発になってきた。
さらに日本からこの世界への転移者が出るたびに、次元の振動を感じていたはずだ。
ラグナマダラが、エルトベルク王国やタシュバーン皇国の近くで活動していたのは、そういう理由だったのだ。
「俺たちは奴らの仲間ではないんだが、首の装置に関しては本当に申し訳なかった。長い年月苦しめてしまったみたいだ」
カズヤがデルネクス人の仕打ちを謝罪する。
既に武器は収めていた。
『お前たちは奴らと似た波動を持っているが、仲間でないと信じよう。我を解放してくれたことが信頼に値する証拠だ』
「そうなると事情を知らなかったとはいえ、全力で攻撃してしまって申し訳無かったな」
『意識が薄れていたとはいえ、我も闇雲に攻撃していたのだから致し方あるまい。破壊的な衝動がどうしても抑えられなかったのだ』
「普通の生き物ならば、この装置を付けられると自分の意思で行動するのは不可能なはずです。ラグナマダラの精神力が想像以上だったため、理性を抑えこむ程度の働きにしかならなかったのでしょう。でもその反動で衝動性や破壊性が高まったせいで、デルネクス人は自らの宇宙船を破壊されたのです。自業自得ですね」
ステラが自らの製作者であるデルネクス人を痛烈に批判した。
『お前たちの事情も分かった。我を長い隷属から解放してくれたことに深く感謝する。さらばだ』
ラグナマダラはそう言うと、ゆっくりと飛び上がり去っていった。
カズヤたちは、その後姿を見送った。
「……ステラ。今まで気を使って尋ねなかったんだが、デルネクス人ってどんな奴らだったんだ?」
「私を作った創造主です。ですが、はっきり言って彼らのことは好きではありません。彼らは自分たちの利益しか考えていないのです」
デルネクス人はステラの製作者だが、ラグナマダラに対する仕打ちを考えると理由が想像できてしまう。
他者を利用して使役しようとするのは、まるで奴隷を扱っているかのような精神だ。
魔導人形の奴隷だったカズヤは、身をもってその辛さを知っている。
「それと、この星から宇宙船を攻撃した存在だったり、この星で調べたいことがあるという話は初めて聞きました。私たちザイノイドが知らされていた任務は、この星の生物と資源の調査だけです。艦長や副艦長クラスなら知っていたのかもしれませんが……」
300年前にデルネクス人がこの星を訪れたのは、何か特別な理由でもあったのだろうか。
謎は深まるばかりだ。
「とりあえず、ラグナマダラが出現していた理由は分かったな。これで、もう襲われることはないだろう。それより、今後も日本から転移者がくる可能性は高そうだ。できる限り助けてあげないとな」
ラグナマダラの問題は無事に解決したといえるが、今後も地球からの転移者が来る可能性は変わらなさそうだ。
黒耀の翼のメンバーにも今回の事情を伝えておく。
ラグナマダラの襲撃を無事に回避できたカズヤたちは、新たな疑念を胸に抱えながらセドナへと帰っていくのだった。
【第5章完】
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