187話 300年前の真相
「こ、これは……」
ラグナマダラの首に付けられた物を見て、ステラが絶句する。
そして、呆れたような表情でフォンに振り返る。
「フォン、どうやら私たちに関係があるようよ」
「やはりそうですか。嫌な予感がしてたんですが……」
珍しくステラが怒っているように見える。フォンにも心当たりがあるようだ。
「ステラ、いったい何が付いているんだ!?」
「これは、デルネクス人が付けた装置に違いありません。なんて卑怯なことをしたんでしょうか……。私はこのことを知りませんでした。フォンは知っていた?」
「いいえ、知りません。艦長や副艦長クラスしか知らないでしょうね」
ステラの言葉の端に怒りがにじんでいる。
確かデルネクス人というのは、宇宙船やステラやフォンを作った星の人間たちのことだ。
「そのデルネクス人って奴らが、ラグナマダラの首に何を付けたんだ!?」
「この装置からは強力な電磁波が出ていて、脳の働きを弱めて思考力を低下させ、生き物を使役することができます。おそらく300年前に、この星の調査を始めた時に付けたのでしょう」
「何でそんな装置がついているんだ……。それで、そいつをどうしたらいいんだ?」
「壊します。しばらくすれば、ラグナマダラは元の状態に戻るはずです。少なくとも、今より凶暴な性格にはならないでしょう」
そういうと、ステラは力を込めると装置を引きちぎって壊す。
するとステラが言ったとおり、ラグナマダラの動きが急に大人しくなった。先ほどまでの狂暴な動きが嘘のように、ぴたりとも動かない。
「し、死んじまったのか!?」
「いえ、少しずつ、本来の脳の働きが戻ってきているはずです。もう少し様子を見ましょう」
しばらくすると、ラグナマダラが不思議そうに辺りを見回した。
ゆっくりと身体を動かして、自身の動きを確かめているようだ。
そして、カズヤたちの脳内に言葉が響く。
それは耳からではなく、頭に直接響いてくるような不思議な声だった。
『……この忌々しい首輪を取ってくれたのは、お主たちか? これを付けた者どもの仲間だと思っていたのだが』
「この声は……。ラグナマダラ、お前なのか!?」
ラグナマダラと思われる声が、その場にいる全員の頭の中に響いてきた。まるでザイノイド同士で行う内部通信のようだ。
それよりもカズヤは、ラグナマダラの理性的な会話に驚いた。
見た目からは想像できない落ち着いた雰囲気と話し方だ。発声しなくても意思疎通ができるほどの知性を持っているのか。
「それを付けた奴らと全く無関係という訳ではありませんが、少なくとも仲間ではありません」
ステラが事情を説明する。
普段はこだわりなどは見せないステラだが、デルネクス人とは別の存在であることをしっかりと伝えたいみたいだ。
『……そうだったか、ならば深く感謝したい。長い間、意識の奥の方でしか我を制御できずに苦しんでいたのだ』
「よかったら、その首輪を付けられた時の話を教えてもらえますか?」
カズヤが問うと、ラグナマダラは思い出すように話し始めた。
『……今からおよそ300年程前のことだ。あるとき、不思議な乗り物に乗ってやってきた連中が、この星で調べたいことがあるから協力してほしい、と我に頼んできたのだ。
我は快く協力を申し出たが、奴らの行動は生物への敬意が無く傲慢なものだった。協力を拒んで止めさせようとしたところ、不意をつかれておかしな物を付けられた。その時から急激に意識が弱くなり、自分が何をしているのか分からなくなったのだ』
「初めは協力を申し出た振りをして後から支配するのは、異星支配でデルネクス人がよく使う手です」
ステラが苛立たしそうな顔で話を聞いている。
『これを外そうとする動きは、強烈な力で制限されて何もできなかった。だから我は最後の力をふり絞って、奴らの船を叩き落としたのだ』
「叩き落としたって……宇宙船はどこにいたんだ?」
「衛星軌道上に停泊していました。どうやら私たちの宇宙船は、ラグナマダラに落とされたようですね。経緯を聞くと仕方が無いことだと思いますが」
「えっ。ラグナマダラは、宇宙の衛星軌道上にいた船を攻撃したのか!?」
「この星にいる空飛ぶ生物は、マスターが考えるような空気による揚力だけでは説明できない飛び方をしています。おそらく、魔力を利用していると思われます」
確かに目の前にいるラグナマダラも、全長に対して翼の大きさは小さ過ぎるように感じる。
鳥のように身体を軽そうにも見えない。
ラグナマダラは魔力を使って、宇宙まで飛んで行ったというのか。
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