184話 援助要請
「ありがたいお話ですが、私はこのタシュバーンで助けられました。ですので、これからも、ここで働きたいです」
「……そうか、なるほどね。分かったよ」
マキの返答に意外そうな表情を見せたカズヤだったが、マキの決断を受け入れてくれた。
「シデン。これからも、この娘の面倒を見てもらっていいか? 彼女はここで働き続けたいそうなんだ」
「構わん。このマキという娘は、意思が強くて面白そうな娘だと思っていた。貴重な人材が国外へ流出するところだったな」
「そ、そんなこと……!」
不意にマキの頬が熱くなる。
1ヵ月のタシュバーンでの生活を経て、マキもこの世界の言葉を少しずつ理解できるようになっていた。
シデンは普段、他者を褒めるようなことはしない。
そんなシデンから、そのように思われていたことにマキは驚いた。
この城には、兵士や召し使いが何百人もいる。それなのに、自分の名前を覚えていてもらい、他の娘と違うように認識されていただけでも光栄だ。
自分はこの国にとってまだまだ部外者であると思っていたマキから見たら、「他の娘」の方がはるかに立派に見えていたからだ。
「それではマキさん、もし困ったことがあったらエルトベルクのセドナに訪ねて来るといい。いつでも歓迎するからね」
「はい、ありがとうございます」
「引き抜きはするなよ」
「分かってるって」
そんなやりとりを終えると、マキは退出するように促される。
マキが部屋からいなくなったことを確認すると、カズヤはシデンと別の話を始めるのだった。
*
マキの退出を確認すると、カズヤはラグナマダラと転移人の関係について話し始めた。
「……ふむ。そうすると、お前がいた世界からこちらへ転移してくる者と、ラグナマダラとの間に何らかの関係がありそうだという訳だな」
「それと、国籍不明の兵士たちもだ」
「なるほど、確かにその話はリオラからも聞いた。マキを捕らえようとしていた兵士の一団を追い払ったと聞いている。もちろん、タシュバーン軍の兵士ではない」
「国籍不明の兵士が勝手にうろついていることも怪しいんだが、そいつらの行動の素早さにも驚いてるんだ。まるで、この世界に来るのを待ち伏せてしているみたいだ」
前田たち3人の時や、今回のマキの時にも現れている。
「それに、実は俺が来たときにもその兵士たちと出会っている。結局俺は、その前に魔導人形に捕まって連れて行かれたんだが」
カズヤの場合は、たまたまスクエアに近かったから先に魔導人形に捕まっただけだと思っていた。
タイミングが少しでもずれていれば、兵士たちの方が早かっただろう。
「その兵士たちと魔導人形が話し合って、俺の処遇を決めていた」
「ジェダに支配された魔導人形と繋がっている兵士ということか。きな臭いな……」
シデンは、黒耀の翼の仲間だった重戦士イグドラを殺したジェダのことを、もちろん許していない。
機会さえ訪れれば、必ず仇をとるつもりだった。
「そして理由は分からないんだが、転移者が現れると決まってその近くをラグナマダラが周回していることに気付いたんだ」
マキのような転移者と、この世界で起きる現象の因果関係を最近のカズヤたちは調査していた。
「1ヶ月ほど前に、ラグナマダラが皇都に入って来ようとした時は大騒ぎだったが、あのマキという娘が原因だったということか」
昨日のことのように思い出すと、シデンは納得したようにうなずいた。
「それ以降、ラグナマダラはエルトベルクとタシュバーンの領土を行ったり来たりしているんだ」
「あの巨大な化け物が近くをうろついていると、国民が落ち着いて生活できない。このまま見過ごす訳にもいかないから、何とかしなければと思っていたところだ」
「それが、俺たちがここに来た理由の1つなんだ。シデンたち黒耀の翼の力を借りて、奴と決着をつけたい」
カズヤが、シデンの目を見ながら真剣な表情で訴えた。
「なんだ。お前や剣聖がいるのに、まだ協力が必要だというのか」
「奴の強さは計り知れない。前回は追い返すだけで精一杯だった。集中して攻撃できるように、奴の注意を引き付ける役が欲しい」
そこで、カズヤの作戦を察したシデンは大声で笑い出した。
「ハハハッ! この俺たちに囮役になれということだな」
「ラグナマダラが相手だと、囮役ですら誰でも出来る訳じゃないんだ。欲しければ、奴を倒した手柄を黒耀の翼のものにしてもいい」
「ふん、そんな手柄などには興味がない。困っているのはお互い様だ。確かに、奴は人数が多くてどうにかなる相手でもない。ちょうど新たな盾役を黒耀の翼に入れたところだ。あいつの腕を見るのにも丁度いいかもな」
イグドラの代わりに新たな盾役を仲間に入れたのか。
カズヤにとっても初耳だった。
初戦の相手がラグナマダラになったことに同情するが、黒耀の翼にスカウトされるくらいだから半端な人材ではないのだろう。
シデンは悪態をつきながらも、自分たちが囮役に使われることに不満を感じている様子は無かった。
互いの国を守るためには、必要なことだと理解しているからだ。
そして冒険者としても、S級モンスターであるラグナマダラと決着をつけるチャンスがきたことに、気持ちが高ぶっているようだった。
「奴のせいで城から離れられず、腕がなまっていたところだ。ラグナマダラと戦う前の腕慣らしに、久しぶりにお前と模擬戦でもしてやろう」
そう言ってシデンは、カズヤを無理やり地下の剣闘場へ連れて行くのだった。
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