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183話 望みなき抵抗


 やがて国民は、ごく少数の旧帝国派と大多数の新帝国派にはっきりと分かれていく。


 もちろん、旧帝国派はこの動きを面白く思っていない。セルゲイ侯爵を中心とする不満分子が、新帝国をつぶそうと実力行使の準備を始めた。


 しかし、これこそフォンたちの思うつぼだった。



「マスター、セルゲイ侯爵が貴族たちに挙兵の指示を出しました」


 帝国中にボットを飛ばしているステラが、カズヤに報告する。


 以前はフォンが守っていたせいで、帝国内でボットを飛ばすことが出来なかった。しかし、今は当然のようにそんな縛りは無くなっている。


 首都で起こる出来事は、カズヤとフォンの耳に逐一入っていた。



「やっぱり奴らは、自分たちの権力のことしか考えていないんだな」


 首都のど真ん中で武力行使に出ようとするセルゲイ侯爵たちに、カズヤは呆れたようにため息をついた。



「結果を大人しく受け入れるなら、別の場所に領地を与えて治めてもらおうと思ってたんですけどね。自分の権益だけを考えて、国民に被害が出ることを何とも思わない人間に、国を治める資格はありません」


「想定通りですね。マスター、遠慮はいらないと思いますが」


 長いあいだ帝国を見てきたフォンや、幾多の歴史を知っているステラにとっては、セルゲイ侯爵のこんな動きすら予想できていたのだろう。


 二人の態度からは、微塵の迷いも見られなかった。



「そうだな、被害が出る前に鎮圧してしまおうか」


 フォンはカズヤの指示にうなずくと、かつて剣聖として指揮していた部隊を率いてセルゲイ侯爵の屋敷を包囲する。


 もちろん、カズヤとステラも同行した。



 フォンが屋敷の塀の外から降伏を勧める。


「セルゲイ侯爵、戦闘の準備を進めていることは分かっている。おかしな真似は止めて降伏するんだ。首都で内乱を起こさせる訳にはいかないよ」



 するとセルゲイ侯爵が大声をあげた。


「そんな勧告ごときで、引き下がると思っているのか? 剣聖よ、この魔導兵器の砲身がどこを向いているか分かるか? 私の指示に従わなければ、街を火の海にするぞ!」


 武力では敵わない剣聖に対して、卑怯にも市民を人質にとってきたのだ。



 その様子を見たカズヤは、ふたたびがっくりと肩を落とした。


「悲しいくらい想像通りの行動をするんだな。もう少しまともな対応を期待した自分が、逆に情けないよ」


「利己的な権力者なんて、こんなものですよ」


 状況を見守っているステラは、表情ひとつ変えない。


「でもステラ、これでも大丈夫なんだよな」


「もちろんです」



 二人のやり取りを横で見ていたフォンが、セルゲイ侯爵に語りかける。


「侯爵。今のうちに降伏すれば罪は重くない。大人しく武器をおろすんだ」


「剣聖め、なめた口をききやがって……かまわん、撃て。脅しでないことを奴に分からせてやる!」


「し、しかし……」


 命令を受けた兵士は、魔導兵器を使うことをためらう。


 砲身の先にいるのが無辜の市民であることを、一介の兵士の方がよく分かっていた。



「何をしている、さっさと撃て! 貴様の首を飛ばされたいのか!」


 催促された兵士は、目をつぶって起動装置に手をかける。



 カスッ……


 しかし、魔導兵器は作動しない。



「あ、あれ……?」


 カスッ……カスッカスッ……


 何度押しても、魔導兵器から攻撃が炸裂することはない。



「な、何をしている! 壊れているなら他の兵器を使え、全ての兵器で街を攻撃しろ!」


 セルゲイ侯爵が用意していたのは、フォンに見せた魔導兵器だけではなかった。


 背後に複数の兵器を隠していて、いつでも発射できる準備をしていたのだ。



「セルゲイ様……動きません。どの兵器もまるで反応しません!」


 事前に準備していた魔導兵器は、ステラによって全て捕捉されていた。


 十分な時間を使って制限なくボットを操作できるなら、全ての兵器を破壊しておくのは簡単だ。


 戦う以前の段階で、セルゲイ侯爵の兵器は全て無力化されていたのだ。



「セルゲイ侯爵。君のように自分の欲望の為に民を犠牲とする人間が支配していたから、この国はこんなに腐敗してしまったんだ。新しい国に君はいらない。冷たい牢獄でしっかり反省してもらうよ」


 するどく言い放つと同時に、フォンが単身で屋敷内へ飛び込んだ。



「と、止めろ!」


 セルゲイ侯爵の叫び声が、むなしく響く。


 あわてて兵士がフォンを止めようとするが、身体に触れることすらできない。


 あっという間に、セルゲイ侯爵はフォンに捕まってしまう。



「全員武器をおろしなさい! これは新皇帝としての命令です!」


 威厳をこめて、フォンが屋敷内の兵士に言い放つ。


 圧倒的な力の差を前にして、すぐさま全ての兵士が武器をおろしたのだった――




 *


「これで面と向かって逆らう者はいなくなった。これなら、フォンに任せても大丈夫かな」


 牢獄へと連行されていくセルゲイ侯爵一派を見ながら、カズヤがつぶやく。



「そうですね。大きな障害が無くなったので、新たな施策を進めやすくなりました。正式なハルベルト新帝国の誕生です。カズヤさんの期待通り、この国を少しずつ良くしていきますよ」


 かねてから願っていた罪滅ぼしを行えるようになり、フォンの顔も心なしか明るく感じられた。



「それで国の名前はどうするんだ? このまま新ハルベルト帝国ってことでいいのか」


「今まで通りハルベルト帝国でいいと思いますよ。前の指導者がいなくなったかどうかなんて、国民にとってはどうでもいいことですから」


 フォンはニコリと微笑んだ。


 

「ところで、フォン。私への感謝はないんですか?」


 すると二人の会話を遮るように、ステラがフォンに詰め寄っていく。


「もちろん、とても助かったよステラ」


「そう。それなら、こっちの頼みも手伝って」


 不思議そうな顔をするフォンの耳元で、ステラがひそひそ話を始めた。



「へえ……そんなことを言うなんて、ステラも変わったね」


「いいから、あなたの口からもさりげなく言いなさいよ」


「どうしたんだ、二人でこそこそして?」


 怪訝そうな顔で、カズヤが尋ねる。



「マスターには内緒です!」


「いったい何の話なんだ、フォン?」


「さあ、ステラからカズヤさんに言いたいことがあるようですけど……。でも、ステラ。それを決めるのはカズヤさんだから、僕から余計なことを言わない方がいいと思うよ」



「まったくフォン……あなたは相変わらず融通がきかないのね」


 真っ赤に染めた顔をぷいっとそむけたステラは、不満げにふくれっ面を浮かべるのだった。


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