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180話 マキの決意

 

「分かりました。私、頑張りますので!」


 この城で仕事が与えられたことに、マキはとても嬉しかった。


 言葉が通じなくても一生懸命働けば、この世界でも生活できるのではないか。それに、時間はかかるかもしれないけど、この国の言葉を学習することができるだろう。



 マキは、この世界で自分の居場所を見つけた気がした。


 自分の居場所――それは、日本にいた頃には決して得られないものだった。それが、この世界に来た途端、手に入れることができたのだ。



「……あれ、外がすごく騒がしいけど、やっぱりお城って忙しいのかな」


 マキが仕事を教わり始めたとき、城内は一時騒然とした。


 城外に、何やら巨大な魔物が現れたようだ。しかし、会話が理解できないマキには、いったい何が現れたのか理解できない。



「皆、なんだか困っているみたいだけど。まあ、言葉も分からない私が出て行っても、迷惑なだけだよね」


 しばらくすると騒ぎも収まったので、マキの記憶に残るようなことはなかった。


 しかしこの騒ぎは、実はマキの存在が関係していたことを後に知るのだった。



 *


 日本の一地方に住んでいる平凡な高校生だったマキが、シデンの宮殿に来てから1ヶ月ほど経った。



 その間にマキは、自分に任される仕事やこの世界の言葉を少しずつ覚えていた。


 仕事ぶりは真面目だったので周囲の者からも評価され、任される仕事も増えていった。マキは忙しいながらも心地良さを感じていた。



 そんなある日、アジア人風の凡庸な容姿をした男性が、皇太子シデンの元を訪れていた。


 その頃にはマキは、自分を助けてくれた黒い美しい翼を持つ女性の名前がリオラで、高貴な男性がこの国の皇太子であるシデン皇子であることが分かっていた。


 この日、シデンの元に訪れていたアジア人風の男性は、メイド服を着た人形のように美しい女性を連れており、シデンと気安く話していた。



 若い男同士、旧知の親友のような雰囲気だ。


 マキが学校で見ていた、同級生の男子同士の仲の良さそうな雰囲気を思いだす。


 皇太子であるシデンと比べると身分はまったく違うようだが、アジア人風の男性は気後れすることなく談笑している。


 ある意味、かなり度胸がある人間なのかもしれない。



 それとも、長い付き合いのある友人なのだろうか。


 メイドのような女性を連れているところを見ると、意外と身分が高かったり商売に長けた有力者なのかもしれない。


 また、このように楽しく会話するシデンを見たのは、マキがこの城にきてからは初めてのことだった。



 しばらくすると、シデンがマキの方に目配せをする。


 同時に、アジア人風の男性がマキに近づいて来た。


「……はじめまして、僕はカズヤと言います。日本語が通じますか?」


「えっ……! に、日本人!?」


 マキがこの世界に来て初めて聞いた日本語だった。この世界では、独り言くらいでしか口にしない言葉だ。



「あれ、俺、なにか失礼なこと言ったかな?」


 マキが驚きのあまり返事ができずに立ちすくんでいると、カズヤと名乗った男性のすぐ後ろにいた、可愛らしいメイド服の女性が会話に入ってきた。



「マスターの話す日本語を聞いた直後に、彼女の脈拍と体温が急激に上がりました。同じ言語を話せることに驚いて、返答できないだけだと思われます。マスターの容貌に警戒しているわけではないので、ご安心ください」


 その女性も正確な日本語を話し始めた。


 青髪が綺麗な彼女はどう見ても日本人ではない。そんな彼女の口から流暢な日本語が出てくるのは違和感があった。



「あ、すみません。驚きすぎて固まっちゃいました。私は……」


 マキはようやく落ち着くと、ここ1か月間で自分の身に起きたことを説明し始めた。


 カズヤは、納得した素振りでマキの話に耳を傾けた。



「……なるほどね。1ヶ月ほど前にラグナマダラが、タシュバーン周辺を執拗に周回していた理由が分かったよ」


 どういう意味だろうか。


 その魔物の出現に、まるでマキが関係しているような口振りだ。



「シデンには、おかしな服を着た言葉が通じない人物が現れたら、教えてくれるように頼んでいたんだ。実は、俺も君と同じように突然日本からこの世界に飛ばされて来てね」


「そ、そうなんですか。私以外にも、日本から飛ばされて来た人がいるなんて……」


 マキは、同じような体験をしている人が他にもいることを知って驚いた。


 そして、同時に少し安心もする。



「それで、どうかな。君が望めば隣国のエルトベルク王国に行って、日本人同士で生活できるけど、どうしたい?」


 尋ねられたマキは一瞬押し黙る。


 マキの気持ちは決まっていた。仕事と言葉を覚え始め、この城での生活が気に入っていた。この国での知人も増えてきた。



 それに日本人同士で生活することで、また以前の叔母さんの家のような息苦しさを感じることを恐れていた。


 言葉が通じることはありがたいが、それによる弊害の方が今は嫌だ。


 この国にいると言葉がうまく通じないからこそ、人の温かさを感じることができるのだ。



「ありがたいお話ですが、私はこのタシュバーンで助けられました。ですので、これからも、ここで働きたいです」


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