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179話 タシュバーン皇太子

 

 宙を舞う女性の手から放たれた衝撃波が、兵士を襲う。



「なに、いまの手品!?」


 超能力だろうか。兵士たちは叫び声をあげて後ずさる。


「※※※※、※※※※※、※※※!?」


「※※※※※※※※……」


 黒い翼をもった女性がキツい口調で叫ぶと、兵士たちはすごすごと森の奥へと消えていった。



 おそらく女性が何らかの攻撃をしたことは分かる。


 黒い翼の女性は手から出した魔法のような一撃で、兵士たちを追い返してしまったのだ。


 マキは、大がかりなドッキリを仕掛けられているような気がした。



「※※※※※※※?」


 翼をもつ女性が、優しい口調でマキに対して何かを話してくれる。


 マキに危害を加える気持ちがないことは伝わってきた。


「ああ、えっと……。なんて言ってるのかな?」


 だが、女性の言葉が分からない。聞き取れる単語がひとつも無いので英語でも無さそうだ。



「……※※※※※、※※※」


「わっ、わっ!?」


 女性は大きな腕でマキを抱きかかえると、軽々と空に飛び上がった。その腕の力は力強さだけでなく優しさも感じる。



「あっ、そうだ。遅れましたけど、さっきは助けてくれてありがとうございます! 分からないと思うけど、お礼は言わないと」


 女性の腕の中で、マキは伝わらないであろうお礼を言った。


 右手親指を立て「good」のサインも示す。意味が分からなくても気持ちが伝わったのか、女性も微笑み返してくれる。



 鳥のような女性の腕の中から、マキは地上の景色を見下ろした。


 地面を歩いている時には分からなかったが、空を飛ぶと周囲を俯瞰して見ることができる。眼下に広がるのは黄色と茶色の大地と、わずかばかりの緑だった。



「……あれは、街?」


 女性が飛んでいく先に、大きな都市らしきものが見えてきた。


 遠巻きに見ても、砂漠の端にある中世の街のような雰囲気を醸し出している。


「えっ、あんなところに降りるの!?」


 その女性は、都市の中でも1番大きな城に向かって一直線に飛び続ける。やがて最上階のバルコニーの中にゆったりと降り立った。



「すごい! この人は、こんな立派なお城に住んでるってことかな?」


 そのバルコニーは飛行する彼女専用に、いつも出入り口として使っている場所のようだった。


 女性がバルコニーに降り立つと、それがまるで日常の習慣だというように召し使いが出てきて、女性に向かって頭を下げる。


 ご丁寧にも、マキに向かっても頭を下げてくれる。



「あ、どうも……」


 やはり召し使いの人にも言葉は伝わらないが、相手は気にした素振りはみせない。


 マキのことは、外国人のお客さんだと思われているのだろうか。



「喉乾いてたので、助かります……!」


 翼を持った女性に綺麗な水をもらうと、マキはゴクゴクと一気に飲み干してしまった。


 思っていた以上に喉が渇いていたのだ。安心したことで、さらに空腹感も思い出してしまった。



「※※※※、※※※※※※※」


 女性は、そんなマキを見てニコリと笑うと、召し使いに食事を用意させ、服も日本とは違った小綺麗な衣装に着替えさせてくれた。


 しばらくして身なりを整えたマキは、城内にあるひと際立派な部屋へと連れて行かれた。



 大きな扉を開けると、そこには見目麗しい高貴な男性が立派な椅子に堂々とした態度で座っている。


 その様子と座っている椅子の豪華さから、かなり身分が高い王族のように感じられた。



「この世界って、美男美女しかいないのかな……」


 男性にはほとんど興味を持たずに育ってきたマキでさえ、思わずため息が出るような美しさだ。


 王子様という言葉がピッタリだ。


 男性は無造作な金髪を紐で束ねていて、透き通るような碧眼は心の奥まで見透かされそうだ。


 遠くから見ると細身に見えたが、近くで見ると体格がガッシリとしていて背が高い。身に着けている物には塵ひとつ付いておらず、気品と威厳に溢れていた。



「※※※※※、※※※?」


「あの、ごめんなさい、言葉が全く分からなくて……」


 高貴な男性が何度か話しかけてくれたが、やはり何一つ意味は分からなかった。


 男性はあくまで下手に出ず堂々としていたが、どこかしら優しさのようなものも感じる。


 見ず知らずの自分に対して敵意や警戒を持たずに、親切に接してくれる彼らと言葉が通じないことが、マキにはとても悔しかった。


 誰かと会話できなくて悔しいなんて、人生でそんな風に思ったのは初めてだ。学校で外国語を勉強していた時でさえ、そのように思ったことはなかった。



「※※※※※※、※※※」


 やがて男性が翼を持つ女性に何かを命じると、マキはその部屋を退出した。


「あの人と、いつかちゃんと話せる日がくるかなあ……」


 あの高貴な男性と会話する機会が、この先あるのかが気がかりだった。王族だとすれば、本来なら滅多に会えない人物だろう。



 マキは高齢の召し使いの元に連れて行かれると、召し使いが行う作業を見よう見まねで真似するように伝えられた。


「私に、このお城で働いて欲しいってことですか?」


 どうやらここで働くように身振りで伝えられた気がした。


 言葉は伝わっていないはずだが、召し使いはウンウンと頷いてくれる。この世界でも、ボディランゲージで会話はできるのだ。


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