175話 リオラの潜入
一人の神官がリオラに近づいてくる。
「初めて見る顔だな。新しい信者か?」
神官はリオラの端整な顔立ちに目を奪われつつも、警戒心を隠さない声で尋ねる。
「はい、教会の教えに感銘を受けて参りました。ぜひ神の言葉に触れたいと思いまして」
リオラの声は穏やかで清らかだ。
「見上げた心意気だ。では私が教会の中を案内してあげよう」
表情が和らいだ神官は、リオラを案内する仕草を見せる。
神官は得意気に教会の歴史と、自らの功績を自慢するのだった。
「……ところで神官様。最近、サルヴィア教会が襲撃される事件が増えていると聞きました。他国の教会では魔導人形を守備に使い、素晴らしい成果を上げているとか」
リオラは、さも今気が付いたという風に神官に疑問を投げかける。
「確かに、そのような事件は私の耳にも入っている。物騒な事件は遺憾だが、魔導人形が活躍しているとの話だ。人形を守備隊として使うことは間違ってないだろう」
「私が教会にお祈りに行くとき、もし何かあったらと思うと不安になります。もちろん騎士の方々を信頼していますが、限界がありますし……」
リオラは恐怖におびえるように肩を震わせる。
その姿は誰が見ても敬虔な信者にしか見えない。
「もし、この教会でも魔導人形を導入すれば、もっと安心できるのではと思うんですけど……やはり難しいんでしょうか?」
「そんなことはない。当然、我々も導入の検討を進めているところだ」
「えっ、そんな予定があるんですか? そのお話をもう少し詳しく教えてください……」
教会の警備に関する話題に神官は一瞬戸惑ったが、リオラの熱心な態度に安心したのか、ぽつぽつと情報を漏らし始める。
リオラは話を引き出しながら、教会が魔導人形による支配計画に深く関与している確信を得るのだった。
*
ゼーベマンは配下の魔導士と兵士を引きつれて、サルヴィア教会の近くまで訪れていた。
「儂らは教会の中を調査するんじゃぞ。若の資料によると、地下に宝物庫が隠してあって、そこにアビスネビュラからの指示書を隠しているらしいんじゃ」
「……あの、ゼーベマン伯爵様。どうやって潜入するのですか?」
そばにいた魔導士が、恐る恐る尋ねる。
ゼーベマンは黒耀の翼に所属しているが、もともとは代々続くタシュバーン皇国の貴族であり地位も高い。
宮廷魔導士も務めていて、内政にも深く関わっている。
シデンが幼い頃からの指南役だったのだが、今ではすっかり立場が逆転してしまった。
「こそこそ潜入なんてせんぞ。儂だってアビスネビュラの一員だったのだ。立場を利用して、堂々と中に入らせてもらうぞ」
ゼーベマンと魔導士の一団は、教会の入り口から動じることなく入っていった。
「待たれよ、ゼーベマン殿! ここは教会ですぞ、いったい何事ですかな!?」
サルヴィア教会の神官が、教会内に入り込んだゼーベマンたちを押しとどめる。
その後ろから、騒ぎを聞きつけたサルヴィア教会の騎士団も駆けつけてきた。
「アビスネビュラからの指示じゃ。渡してきた書類を確認したい」
「書類ですか……? そもそもあなたは今でもアビスネビュラなのですか? 反逆した疑いがあるという噂も聞いていますが……」
「ほう、なぜ教会員に過ぎないお主が、そんな情報を知っているのじゃ。教会だけでなく、アビスネビュラでも無ければ知りえない情報ではないか」
「くっ……とにかくいずれにしても、あなた方を通す訳にはいきません」
「タシュバーン皇国の権限を使ってもいいのじゃぞ。儂が伯爵で、皇国の内政を担当しているのは知っているな。サルヴィア教会で、お金に関する不透明な動きがあるとの情報がはいったのじゃ。心当たりが無ければ、大人しく儂たちを入れるのじゃ」
「そ、そんなのはただの噂に過ぎません。教会の自由を侵害するおつもりか?」
「それなら儂の反逆もただの噂じゃろう」
「それはそうなのですが……」
神官の顔から汗がふき出してくる。
「教会が必要な税金を払わずに、地下に財宝を隠しているとの疑いがあるのじゃ。お金の問題なら仕方あるまい。それともタシュバーン皇国の騎士団を連れてこようか、力付くでもいいのじゃぞ」
「ぐっ……」
言葉につまった神官を置いて、ゼーベマンたちは教会の中に入り込んだ。
「お前たち、教会内には結界の魔法が張り巡らされているぞ。慎重に動けよ」
ゼーベマンの指示を受けて、部下の魔導士部隊が調査を始める。
連れてきたのは、宮廷魔導士であるゼーベマン直下の国を代表する優秀な魔導士部隊だ。たちまち、地下の宝物庫の場所を特定した。
しかし、指示書らしきものは見つからない。
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