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174話 プラクト


「やあ、シデン。父上から何か大事な任務を仰せつかったそうだな。可愛い弟のために、何か手伝いでもしようか?」


 王宮の廊下を歩くシデンの背後から、明るく力強い声が響いてくる。


 振り返ると、そこには兄のプラクトが立っていた。屈託のない笑顔を浮かべ、軽い足取りで近づいてくる。



「相変わらず耳が早いな。だが貴様のことだ。何を指示されたのかも、すでに知っているだろう?」


「もちろん、アビスネビュラの話だろう。サルヴィア教会の件も含めてな」


 その言葉に、シデンは眉間にしわを寄せた。


 どこから情報を得ているのかは分からないが、プラクトの情報網がどれほど広いかを思い知らされる。



「その話ならシデンに協力してもいい。だけど、ひとつだけ条件があるんだ」


「条件……? 何だ」


「前衛として俺を黒耀の翼に入れてくれ。それが条件だ」


「フフッ、何を言うかと思ったら、そんなことか」


 シデンは兄の提案を鼻で笑った。



 第4皇子であるプラクトは、王族という身分にも関わらず騎士団にも所属している。男系の王族は武芸に秀でていなければならない、というのがタシュバーンの伝統だ。


 その騎士団の中で王族という肩書きを差し引いても、プラクトの重騎士としての実力と実績は目を見張るものだった。



「たしかに、お前の盾役としての腕は認める。だが、王族が二人もいると行動に支障がでる。それに黒耀の翼に入れば、俺の命令に従うことになるんだぞ」


「そんなことを言うなら、皇太子であるお前が自由に動き回っている時点で危ないだろう。戦闘時には指揮官の命令で動くのは当たり前じゃないか」


 シデンの懸念を、プラクトは軽く笑って受け流した。


 余裕ある態度が、かえって自信を感じさせる。



「それに、俺もすでに教会に目をつけて調査を進めていたんだ。シデンも知りたいだろ?」


 シデンの視線が鋭くなる。


「いいだろう、お前の情報次第では考えてやる」


「よし、それじゃあ隣の部屋で話そうか。立ち話でする内容でもないからな」



 プラクトが示した部屋にシデンが入ると、プラクトはすぐさま持参した資料を広げる。


 最初からこの話をするつもりで、すでに資料をもってきていたのだ。


「すでに、こんな準備をしていたとはな……」


 プラクトの用意周到さに、シデンはあきれた声が漏れる。



「まずは、サルヴィア教会の騎士団だ。奴らは昔から教会の警備を理由に、タシュバーンの街の自治や内政にも干渉し続けているのは知ってるな?」


 プラクトの資料には、サルヴィア教会の騎士団が内政に干渉してきた事例がいくつも書かれていた。


 どこの国でも、サルヴィア教会は独自のサルヴィア騎士団が警護している。


 人数はそれほど多くはないが、他国の騎士が国内を闊歩しているという点では異質な存在だ。



「それだけじゃない。最近、教会が密かに武装を強化しているんだ。目的が曖昧なままにな」


 シデンはプラクトの資料に目を落とした。


 そこには教会が購入した武器や防具の数が書かれている。教会の警備を理由とするには、たしかに数が多すぎる。



「それに近頃教会の幹部が信者を集めて、ある思想を広めているらしい。その内容を聞くと、もはやサルヴィア教というより世界全体を支配しようとするアビスネビュラの思想と近い」


「なるほどな……」


 プラクトが自信をもって語るだけあって、有用な情報だった。


 アビスネビュラはサルヴィア教会を足がかりとして、タシュバーン皇国内への支配の機会をうかがっていたのだ。



「確かに使える情報だ。この資料は利用させてもらう」


 シデンは勝手に資料をまとめると、脇に抱えて部屋から出ようとする。


「じゃあ、俺は黒耀の翼の一員ってことでいいんだな?」



「まだ考えると言っただけだ。この情報は合格だがな」


 シデンは厳しい言葉を投げかけながらも、うっすらと笑みを浮かべていた。


「あいかわらず厳しい評価だ、シデンらしいと言えばらしいが。今回の件は、ひとつ貸しにしておくよ」


 肩をすくめたプラクトは、愉快そうに部屋を後にした。



 みずからの執務室に戻ったシデンは、すぐさま黒耀の翼のゼーベマンとリオラに調査の指示を出すのだった。




 黒耀の翼の魔導士であるリオラは、ひとりサルヴィア教会の広間に佇んでいた。



 得意の幻術の魔法を駆使して翼を隠し、いつもの褐色の肌は真っ白に変わっている。信者の衣装をまとった彼女は、誰が見ても美しい信者そのものだった。

 

 控えめに微笑みながら信者たちに挨拶を交わし、自然な所作で内部に溶け込んでいく。



 その優雅で堂々とした態度が目を引いたのか、一人の神官がリオラに近づいてきた。


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