172話 逃亡
「アリシア、この魔石はどうなんだ。かなり大きそうだけど」
「質も大きさも申し分なさそう。ぜひ持ち帰って調べたいわ」
すでに魔石の周囲は少し削られていて、ここから運び出そうと作業していた跡が見える。
「こいつを取り出すのに苦労したのかな。電磁ブレードで掘ってみるか」
カズヤは電磁ブレードを取り出すと、魔石の周りの岩を削っていく。
やがて、ゴロンと大きな魔石が壁から転げ出てきた。
「よし、無事に採れたな。でも、こんなに大きいと俺じゃないと運べないな。魔石は俺が担ぐから、何かあったら皆で対応してくれよ」
そう言って、カズヤが魔石を担いだ瞬間だった。
背後の水源から、バシャリと大きな音が聞こえる。
慌てて振り返ると、巨大な蛙の化け物が陸に上がろうとしているところだった。
皮膚はヌメヌメとした漆黒色で大きさは5m近い。目は緑色で不気味に輝いていて、口から巨大な舌を垂らしていた。
「おお、飛びきりでかいクローカーだぜ」
「あら、かわいい蛙さん」
「か、か、蛙ーー!!!!」
最後にアリシアの悲鳴が鉱山内に響き渡った。
魔石を抱えたカズヤは身動きが取れない。
魔物の姿もはっきり見えなかった。
「毒液を飛ばしてくるから、気を付けろよ!」
バルザードの声が空洞に響き渡ったかと思うと、隣でアリシアの詠唱が聞こえてきた。
今まで以上の早口で、強大な魔法が組み上げられていく。
「こっちに来ないでーーーー!!!!」
「ちょ、ちょっと、そんなに大きな魔法で大丈夫か!?」
アリシアの腕から、極大の魔法が放出される。
クローカーと呼ばれた蛙に直撃すると、一瞬で跡形もなく消し飛んだ。
そのまま鉱山の壁に直撃すると、激しく爆発した。
ドガン!!という大音響と共に、鉱山の壁が粉々になって崩れ落ちてくる。
その瞬間、空洞の上部に溜まっていた大量の水が、滝のように一気に流れ込んできた。冷たい水が床を覆い始め、岩で囲まれた広い空間がどんどん水没していく。
「これはまずい、鉱山が崩れるぞ! すぐに通路から逃げるんだ!」
カズヤが呼びかける前に、すでに皆は逃げ出していた。
アリシアの手を引っ張って、バルザードが元来た通路へ飛び込んでいく。
「マスター、急いでください! この鉱山は水没します!」
ステラに急かされながら、カズヤは魔石を抱えて通路へと走り込んだ。
濁流がカズヤたちを追いかけてくる。
通路に入り込むと、ステラが岩壁と天井に向けてすばやくブラスターを撃った。
大量の土砂が落ちてきて通路を塞ぐ。
そしてステラは新たな銃を取り出すと、今度は塞いだ土砂に向けて発射する。すると瞬時に化学反応が起こり岩壁と天井を固め始める。
驚異的な速さで硬化が進み、水の流れを一時的に食い止めた。
「すごいぞ、ステラ。何だそれは!?」
「ペトロバインダーです。ただ、安心しないでください。硬化した周りの岩石が崩れてくるので長くはもちません」
ステラが言うように、すでに土壌硬化剤の周辺の土砂が崩れ始め、水が漏れ始めている。
「マスター、急いでください!」
ステラの駆り立てる声を背中に受けながら、魔石を持ったカズヤが必死に走る。背後では、次々と土砂が崩れてきて水が溢れてくる。
最後尾にいるステラは冷静にブラスターを発射して土砂を固めながら、カズヤの後をついてきた。
「……やった。助かった!」
魔石を抱えたカズヤが、鉱山の入り口から飛び出してくる。
先に逃げ出していたアリシアとバルザードが心配そうに待っている。水の様子を確認しながら、一番最後にステラが出てきた。
「念の為、ウィーバーで退避しましょう」
全員がウィーバーに乗り込んで空に飛び立った瞬間、鉱山の入り口から大量の水が溢れてきた。あふれ出た水は、そのまま森の中へ流れていく。
「ごめんね、みんな……。蛙だけはどうしても苦手で……」
申し訳なさそうに、アリシアが小さくなりながら謝罪する。
「まあ、みんな無事で良かったよ。お目当ての魔石を手に入れることもできたし」
カズヤは、戦利品の巨大な魔石を得意げに抱えていた。
「研究がうまくいったら、きっと皆の役に立つと思うの。そのときはちゃんと報告するから!」
セドナへの帰り道で、アリシアは晴れ晴れとした表情でお礼を言うのだった。
*
しかし、セドナに戻ってきたカズヤたちは思いがけない報告を受ける。
旧首都エストラに囚われていた元騎士団長テセウスが、牢屋から脱獄したというのだ。外部からの手助けもあったようなので、アビスネビュラが手引きしたに違いなかった。
カズヤたちがエルトベルクを離れた隙を見て、実行した可能性もある。
想定外のきな臭い動きに、カズヤたちは警戒心を強めるのだった。
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