171話 巨大な魔石
「こ、こいつは……」
通路の奥から姿を現したのは、オケラを巨大化したような2mはある巨大な虫型の魔物だった。
茶色の甲殻に覆われているが、所々に鉱物のような岩石がついている。腕は鎌のように鋭く発達していて、黒い目の間から2本の触角が生えていた。
そしてお尻の辺りから、液を滴らせたミミズのような管がうねうねと何本も伸びている。
「ごめんなさい、やっぱりちょっと無理みたい!! 戦う以前に直視できないわ」
バルザードの後ろから覗き込んでいたアリシアが、怯えながら後ずさりしている。
今回は狭い鉱山内なので、バルザードの手には槍ではなく短刀が握られていた。
「こいつは、グリロディというCランクの魔物だぜ。表面が鉱物のように結晶化していて硬いから気を付けろよ。それとお尻からガスを出すから、先にミミズみたいな管から斬った方がいいぜ」
バルザードが忠告し終わる前に、グリロディがカズヤ目掛けて襲ってくる。
せまい鉱山内なので、四人が並んで戦うのは難しい。
「よし、俺にまかせとけ!」
電磁ブレードを握ったカズヤがグリロディの攻撃を受け止める。
所詮相手はCランクのモンスターだ。今までの敵と比べても脅威は感じない。
いくら甲殻が結晶化して硬いといっても、電磁ブレードの敵ではない。グリロディの腕を軽々と斬り飛ばすと、すぐさま攻撃を無効化していった。
「カズヤ、管が先だ!」
すると、バルザードの声が後ろから飛んでくる。
カズヤが倒れ込んだ魔物に慌てて近付くと、突如としてグリロディのお尻の管から緑色のガスが噴き出してきた。
カズヤやステラにガス攻撃は通用しないが、アリシアとバルザードは無防備だ。
緑色のガスが充満し、あっという間にカズヤたちに迫ってくる。
「すまん、管を斬り飛ばすのが遅れた! みんな急いで退避してくれ!」
後ろを振り返ってカズヤが警告する。
しかし、通路内を旋回していたペネトレーターが異変を察知すると、素早く近付いて緑色の気体を全て吸い込んでいく。
あっという間にガスが無くなった。
管からガスの噴出が止まるのと、カズヤがグリロディにとどめを刺すのはほぼ同時だった。
「大丈夫か、アリシア!? すまん、先に管を攻撃するのを忘れていた」
「大丈夫よ。致死性のあるガスじゃなくて、涙が出るくらいの効果だから」
「毒ガスを出すようなやばい魔物なら、最初からもっと忠告しておくぜ。まあCランクだからな、こんなもんだ」
アリシアとバルザードの無事を確認して、ホッとする。
「それにしても、このロボットは随分優秀だな。ガスを全部吸い込んでくれたぞ」
「有害な気体が発生するのは、地下調査中によくある現象です。検知したときには、すぐに無害化してくれますので」
ペネトレーターの活躍に、ステラは何の問題も無いかのように説明してくれた。
グリロディの対策が分かったカズヤは、順調に鉱山内を進んでいく。隊列は、カズヤ・ステラ・バルザード・アリシアの順番だ。
何匹めかのグリロディを倒した後、ステラが提案してきた。
「この虫たちの相手をしていたら、きりがありません。ボットから音波を出して、私たちがいることを知らせながら進むのはどうでしょうか。こちらの強さが分かれば、無用な戦闘を避けられると思います」
なるほど、熊除けの鈴のような効果か。
侵入者の強さが分かれば、わざわざ襲い掛かってこないだろう。それでも向かってくる魔物だけ相手にすればいい。
言われた通り試してみると、魔物と遭遇する割合はかなり減った。
出会ってすぐに瞬殺するぐらいの戦力差があるのだ。無駄な戦闘は、お互いに避けたいところだ。
狭い鉱山の通路を進んでいくと、急に開けて広い空間が姿を見せた。
先頭を歩いていたカズヤが思わず声をあげる。
「おお……、これは綺麗だな!」
そこは地下河川が流れ込んで水が溜まっていて、大きな水源になっていた。
鉱山の壁の隙間から細い光が差し込んでいて、水面がキラキラと光っている。水は澄みきっていて川底までハッキリ見えるほどの透明度だ。
「すごく綺麗な水ね。飲んでも大丈夫かしら?」
「成分的には問題ありません。地表の水が流れ込んできたと考えられます」
ステラの分析を聞いたアリシアは、水をゆっくりとすくって飲む。満足そうに飲み干す様子を見ると、かなり美味しそうだ。
カズヤも真似したくなるが、自分にとっては意味がない行動だと気付いて悲しくなる。後から水蒸気として放出するだけなのだ。
「あっ、見て、あそこ!」
飲み終わったアリシアが指さす方に、巨大な魔石の一部が鉱山の壁から顔を出していた。遠目から分かるほどの大きさだ。
近寄っていくと想像以上に大きい。
魔石のなかは透き通っていて不思議な波紋がうごめいている。大きさもピーナくらいはありそうだ。
魔石の巨大さと美しさに圧倒される。




