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165話 失踪事件

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 男性はどこか凡庸な顔立ちをしていたが、その風貌は黒髪の日本人的なアジア風の男性だ。


 獣人や異国人風の人物が多いこの世界で、親近感を感じた前田たちは少しホッとした。



 次に入ってきたのは青色の髪をした色白の女性で、まるで人形のように整った綺麗な顔をしていた。


 メイド服を着ているので男性の従者なのだろうか。表情に乏しく、こちらを観察するように無表情で立っているので少し恐ろしさを感じた。



 入ってきたアジア風の男性は、まずは大柄な獣人の男と会話を交わした。


 物怖じせずに堂々と話し、身体全体から自信に溢れたオーラを放っている。


 二人は気の置けない友人のように会話し、情報を確認すると笑いあった。


 どうやら、ここに呼ばれた理由を説明されたようだ。



 次に男性は、お姫様のような女性とも話し始めた。


 その雰囲気はとても親しそうで、長い付き合いで慣れた雰囲気だった。


 身分の高そうな女性に気安く話しかけられるということは、こう見えてこの男性も身分が高いのかもしれない。


 先程の獣人も会話に加わり楽しそうに話し込んでいる。その雰囲気は仲の良い友人同士のようだ。



 そして話が一段落すると、アジア人風の男性がいよいよこちらに向って歩いて来た。


「……ええと。皆さん、日本語は通じますか?」


 その男性は突然日本語を話し始めた。


 前田たちは、文字通り飛び上がって驚いた。



「き、きみは日本語が分かるのか!? ようやく言葉が分かる人が来てくれた!」


 意思疎通ができることは、こうも大切なことだったのか。


 今までの苦労や疲労感がどっと出てきて、つい涙が出そうだった。


「日本語で大丈夫ですよ。言葉が通じないと不安ですよね」


 男性はこちらを気遣うように、うなずいてみせた。



「いきなり見知らぬ方に尋ねて申し訳ないのだが、ここはいったいどこなのだ? 私たちは桜月市の職員で、ダム調査のために山道を車で走っていただけなんだが……」


「どこを走っていたんですか?」


 佐藤課長が場所を詳しく伝えると、その男性は納得したようにうなずいた。



「そうでしたか。実は僕も同じ桜月市の出身なんですよ。あなたたちと同じように、気が付いたらこの世界に来ていたんです。といっても、もうだいぶ前の話ですが……」


 すると男性と前田たちの会話が成立していることを確かめるように、赤髪の身分が高そうな女性が男性に話しかけた。


 話している様子はとても仲が良さそうに見えるが、恋人同士とまではいってなさそうだ。


 まだ異性の親友といった感じの距離感だ。



「いつもの仕事場に向かっていたら、急に知らない道に迷い込んでしまったらしくてね。巨大なオオカミに襲われたり、怪しげな兵士に捕まりそうになったり大変だったよ」


 佐藤課長が今までの苦しさを吐き出すようにつぶやいた。


「そうだったんですね。自己紹介が遅れました、僕の名前はキリヤマ カズヤと言います」


 その名前を聞いて前田はハッとした。少し珍しいその名前に、どこか思い当たる節があったのだ。



 前田が遠い記憶を探っているうちに、他の2人は自己紹介を交わす。


 ひととおり挨拶を終えると、前田は我慢できずに尋ねてみた。


「あの、すみません……。つかぬことをお訊きしますが、ひょっとして、キリヤマさんは朝日高校の出身じゃないですか? 私の知り合いが、以前キリヤマという高校時代の友人が行方不明になった、という話をしていたのを思い出したんです」


 前田アカリがそう言うと、キリヤマと名乗った男性は身を乗り出した。


 これまでの立ち居振る舞いから黙って話を聞く冷静な人物に見えていたが、この話に大きな興味をもったようだ。



「前田さんでしたっけ、そのお話をもう少し詳しく聞かせて下さいませんか?」


「ええと、ちょっと前の話なので、思い出しながら話しますね」


 前田は、遠い記憶になりつつある知り合いとの会話の記憶を辿る。


 知り合いから聞いた話というのは、高校時代の知り合いの一人が1年ほど前に突然自宅からいなくなり、連絡がつかなくなって行方不明になったという話だった。


 失踪事件なのか、思うところがあって黙ってどこかへ行ったのか、誰にも分からないのだという。行方不明になった男性は、普段から悩みを打ち明けるような親友と呼べる人がいなかったそうだ。



 その行方不明になった人物の名前というのが、確かキリヤマだった気がするのだ。


 事件の可能性もあるので警察の捜査もあったようだが、日本の1年間の行方不明者数は毎年約8万人もいる。


 結局は見つからないまま行方不明扱いになっていたはずだ。


 地元でも大きなニュースになることはなく、街の誰もが気にすることなく風化していき、この話は立ち消えていった。



「……そうだったんだな。俺は日本でそんな扱いになっていたのか。それにしても時間の経過は、こっちと日本は同じくらいなんだな」


 キリヤマと名乗った男性は、日本での自分の扱いの軽さに少しショックを受けたようだったが、同時に納得する部分もあったようだ。



「向こうの世界……。いや日本では、この1年間でなにか大きな変化はあったんですか?」


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