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163話 見知らぬ都市

 

 前田に、かつてない恐怖が襲いかかってくる。


 カーナビが機能しない知らない場所に放り出された。それなのに電話が通じず、助けを呼んだり緊急事態を知らせることもできない。


 挙句の果てに、見たことがない危険な獣に襲われてしまった。


 まるで自分たちだけが日本ではないどこか遠い場所に飛ばされてきたような、不思議で異様な感覚だった。



 3人は目的地も分からず、しばらく無言のまま道なりに車を走らせる。


 すると道の前に立ちふさがる男性たちの姿が見えてきた。人の気配を感じて、3人は一瞬助かったと胸をなでおろす。


 だが、ホッとする間もなく新たな警戒心が湧いてきた。



「なんか、様子がおかしくないか!?」


 その男たちは中世の騎士のような鎧を着て剣を持っており、車を止めるように指示している。


 その雰囲気は決して友好的ではなく、こちらを取り囲んで捕らえようとしているみたいだ。



「課長、これって……」


「なんか怪しい奴らだな。車から出たら連れていかれそうだ」


「このまま、通り過ぎた方がいいんじゃないですか!?」


 佐藤課長や前田も同じ考えだった。



 佐藤課長は無言でうなずくと、相手を油断させるように車を減速させる。


 兵士たちは運転席のサイドガラスの方に近寄ってきた。


 そして、隙を見て佐藤課長がアクセルを全開にする。


「※※※※! ※※※※※※※※※※!!」


 後ろから、意味の分からない怒鳴り声が聞こえてきた。


 どうやら停止しなくて正解だったようだ。あのまま外に出ていたら、命の危険さえあったかもしれない。


「何なんだよ、いったいここは何処なんだよ!?」


 鈴木の声が、車内に無情に響く。


 他の二人も状況が飲み込めず、黙り込んだままだ。



 さらに進むと、やがて道を歩く人影が見えてきた。今度はこちらを襲ってくるような雰囲気はない。


 ただの通行人のようだった。


 しかし、更なる違和感が前田たちを襲ってくる。


「おい、あの人たちの格好を見ろよ。こんな田舎でコスプレでもしてるのか……」


 彼らの容姿や服装、肌や髪の色といった見た目すべてが、自分たち日本人とまるで違っているのだ。



 それどころか背たけが人間の半分程度しかない極端に小さい人型の集団や、犬や猫のような愛玩動物の顔で2足歩行している奇妙な生き物が、人間の服装をして歩いている。


 まるでどこかの広告で見るような、ゲームかファンタジー映画の世界に入り込んでしまったみたいだった。


 風変わりな容貌をした彼らは、逆に不思議そうな目で前田たちの車を見つめる。


 だが初めて車を見る雰囲気ではない。車の存在は知っているようだ。


 それ以上に、前田たちの方が初めて見る異様な景色に戸惑っていた。



「な、何でしょうか、これは……」


「分からん。俺たちの方が場違いにも見えるな……」


 不安と戸惑いが車内を支配するなか、更にあてもなく車を進める。


 すると前方に高さ5mくらいの灰色の真新しい壁が、見渡す限り果てしなく広がっているのが見えてきた。



「これは、街……?」


 どうやら大きな都市に行き着いたようだ。


 しかし、こんな建物は世界中の都市写真でも見たことが無い。


 以前、前田が建築物に興味が湧いた際、暇つぶしに世界中の著名な建物を色々調べた時期があった。


 だが、このような街は見たことが無い。建材も、コンクリートや木材といった物では無さそうだ。



「もしかしたら、ここは日本でも、地球ですらないのかも……」


 すでに自分たちが、地球ではない未知の場所にいることを感じ始めていた。午前中に役所で調査のための打合せをしていた頃が、すでに遠い過去のように感じる。



 やがて、道路が建物の門で突き当たる。


 行き止まりまで車を進めると、槍を持った門番のような男たちに車から降りるように指示された。


「ここで車から降りろ、ということか」


 佐藤課長は、目の前の兵士たちが安全かどうか値踏みする。


 日本にいては決して味わうことのない雰囲気だ。本物の槍というものすら初めて目にした。



「でも、さっきの奴らよりは友好そうですよ」


「……仕方ない、指示に従おう」


 先ほどの男性たちよりは危険を感じなかったので、三人は恐る恐る車の外に出ることにした。



「※※※※、※※※?」


 門番たちが、前田たちに向かって話しかけてくる。


 だが何を言っているのか皆目分からない。当然のことながら、こちらが話す日本語も相手には分かっていないようだ。



「ダメもとで、英語が通じるか試してみようか」


 上手くいくはずが無いと分かりつつも、鈴木がつたない英語で語りかけるがやはり伝わらない。


 彼らが話す言葉が分からないし、こちらの言葉も通じない。


 佐藤課長も鈴木も、想像もしない出来事に呆然としている。唯一の女性である前田は、不安で今にも泣き出してしまいそうだった。



 門番と前田たちが意思疎通できずに困っていると、建物の奥から門番に案内された大柄な人物がこちらに向かって歩いてきた。


 埒があかないのに業を煮やした門番が、上司を呼んできた雰囲気だ。


 その人物は二足歩行で歩いているが、驚くことに鼻が突き出たオオカミのような顔をしている。背丈は2m以上もあり、身体全身が美しい濃淡のある紫色の毛並みで日光が反射するたびにきらりと光っていた。


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