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016話 趣味と身体検査

 

「あの、カズヤとステラは一体どういう関係なの?」


 アリシアが好奇心を抑えられないといった感じで聞いてくる。


「仮ではありますが、カズヤさんは私の支配者です。命令に服従するようになっていますので、私が逆らうことはありません」


「おいおい、何て言い方をするんだよ!」


 間違っていないかもしれないが、完全に誤解を生みそうな発言だ。


 ステラはいつものように平然としているが、横で聞いていたカズヤは大あわてだ。



「し、支配者!? ねえ、カズヤ。ステラのことを何だと思っているの?」


「いや、その、実はステラは人間では無いんだ。俺たちは普通の関係じゃなくて、ちょっと特殊というか……」


「普通じゃなくて特殊な関係ですって!?」


 アリシアは信じられないことを聞いたように、目を見開いた。


「バルくん、カズヤにはちょっと問題があるかもね。部屋は2つに分けた方がよさそうよ」


 アリシアは納得したようにうなずくと、2部屋予約するようにバルザードに指示を出した。



「アリシアに何か誤解されたようですね?」


「いや、お前の言い方だよ……」


 ステラの失言で、アリシアにいらぬ誤解を生んでしまった。


 アリシアの視線が痛い。



「それじゃあ、また後で迎えをよこすわね。私は王宮に戻ってお父様への報告と、晩餐会の準備をしなくっちゃ」


 そう告げると、アリシアとバルザードは宿屋から出ていった。



 アリシアが言っていた通り、二人は別々の部屋に案内される。


 カズヤが部屋を見まわすと、ベッドと机や椅子が置かれているだけの質素な作りだ。


 古びて色褪せた家具からは暖かさが感じられ、机の上に灯りがあるのも何となく懐かしい。


 地球にあった電灯のように、明るさを調節できるツマミまでついている。その隣には電気ケトルのような物も置かれていて、お湯を湧かすことができるようだ。


 魔法という未知の文化ではあったが、生活のなかで人が求める道具は似ている。



 居心地のいい部屋で、カズヤはホっと一息つくのだった。




 *


「カズヤさん、背中の傷はどうですか」


 しばらくすると、ステラがカズヤの部屋に入ってきた。


「まあ、大丈夫かな。特に痛みは感じないよ」



「虚弱な身体には大きな手術だったと思います。念のため手術の予後を確認しますので、少し調べさせてください」


 言い終わるや否や、ステラは当然とばかりにカズヤの身体を撫でまわしてきた。


 彫刻のような端整な顔が間近に見える。


 整った鼻筋に薄い唇。ふわりと揺れるスカートの裾に、カズヤは思わずどきりとしてしまった。



「ちょ、ちょっと大丈夫だよ。何も問題ないって!」


 カズヤはあわてて飛び退いた。


「そんなことを言っていたら診断ができません。ちゃんと見せてください」


 恥ずかしがるカズヤに、ステラの方が呆れている。


 今度はカズヤの上着を脱がしにかかってきた。



 カズヤはアダプトスーツを着たまま必死に抵抗するが、ステラの腕力はそれを遥かに上回っている。


「いやいや、大丈夫だって……そ、そうだ! ステラは眠らなくていいとしたら、300年ものあいだ宇宙船にひとりで何をしていたんだ?」


「何をって……別に眠っていたわけではありませんが、異変がなければ機能を休止したりしていました。それ以外にも、バグボットちゃんに名前をつけたり、絵を描いたりもしています。私は絵も得意なんですよ、お見せしますか?」


 そう言って診断する手を止め、ステラは自分が描いたと思われるイラストの一つをホログラムで映し出した。



 ステラが作り出したその映像を見て、カズヤは絶句した。


 そこには、まるで幼稚園児や子どもが描く落書きのようなイラストが映っていたのだ。


 統一性のない色彩で不完全な模様が踊り狂い、たどたどしく曲がりくねった線が独自の世界観を表現している。


(なんでこんな稚拙な絵なんだ!? ザイノイドなら写真のような精細な絵を描くことができるんじゃないのか。なぜわざわざ下手くそに描いてるんだ?)



「……お、おう、味がある絵だな。なんかこう、写真みたいにリアルな感じじゃないんだな」


 ステラのプライドを傷つけないように、カズヤは気を使いながら感想を述べる。


「リアルな画像なら写真でいいじゃないですか。実物を見ながら何を描いて、何を描かないのか。どう表現するかを想像するのが、絵の醍醐味じゃないですか。ザイノイドであることは私の個性の一部に過ぎませんから」



 ステラはまるで、どこぞの一流画伯のような台詞をはく。


 カズヤは何も言えずに黙ってうなずいた。


 あんな絵でも、ステラが一生懸命考え抜いて描いた絵だと思うと、何となく価値があるような気がしてこなくもなかった。



「あの……ザイノイドにも心ってあるのかな? ステラを見ていたら人間とほとんど変わらない気がするからさ」


 カズヤは他にも気にかかっていたことを尋ねてみた。


 バグボットに名前をつけたり絵を描いてみたり、ステラの振る舞いは人間との違いを感じなかったからだ。


 しかしカズヤが言い終わったとたん、ステラは硬直して動きが止まった。


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