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159話 セドナの子供たち

第5章スタートです!

 

 テッドは12歳の男の子だ。


 エルトベルクの新首都であるセドナ新市街に住んでいる。両親と妹とともに旧首都エストラから家族で移住してきた。



 突如として出された遷都の王令で、希望する全ての住民が街ごと引っ越しすることになったのだ。


 エストラで起こった崩落による大災害のため、この街を離れたいという住民はもともと多かった。そのうえゴンドアナ軍による空からの襲撃で再び崩落が起こったので、すぐにでも移住したいという住人が増えていた。



 新首都となるセドナ新市街の建設の進捗に合わせて、移住する市民が計画的に選ばれていった。なかには待ちきれずに、自力で移住する者も出たくらいだ。


 そしてテッドたち4人も、移住を希望する家族の一つだった。


 街全体が引越しをするという体験は、子どもであるテッドにとっては冒険や遠足のようで楽しかった。また、新首都セドナの新市街はエストラの時と建物の配置が同じなので、ご近所さんである顔見知りのみんなも一緒だ。


 そっくりそのまま住む土地だけを変えるという遷都計画は、子どものテッドにとってはまるで大がかりな手品を見せられているかのように新鮮だった。


 真新しい街に住むのは、テッドや子どもたちにとっては楽しい経験だ。もちろんその裏では、カズヤたちの途方も無い努力と時間が費やされているのだが。



 テッドの両親は、旧首都エストラで小さな食堂を営んでいた。移住先のセドナでも食堂を始めたのだが、再び軌道に乗せるにはそれなりに苦労した。


 だが、そんな子供たちの笑顔があったから、両親や大人たちも新天地での仕事を頑張れていたのだ。



 そんなある日。テッドの妹がこっそりと兄に耳打ちした。


「……お兄ちゃん、あのね。昨日みんなと森で薬草を集めていたら、大きくてすごくきれいな物を見つけたんだよ!」


「えっ!? 森の中ってとても危ない場所じゃないか。お父さんからも、子どもだけで街の外に出るのは禁止されていただろう」


「でも、皆が行くっていうから……。そしたらね、その不思議な物が森の奥にポツンと置かれていたの」


 テッドが詳しく聞くと、妹が言う不思議な物は日光を反射するくらい表面がキラキラとした、金属製の工芸品のような物だった。何人かの子どもが、椅子のようにまたいで座ることもできるみたいだ。



 妹の話を聞いたテッドはすっかり興味を持ってしまい、どうしても自分の目で見たくなってきた。


 さっきまでは街の外に出るのは駄目だと妹を諭していたのに、今度は逆に渋る妹に案内させて森の中へ入っていくのだった。


「……その不思議な物ってどこら辺にあったんだ? 誰かに見つかって持って行かれてないよな」


「うーん、あの辺りだったと思うんだけど……」


「あ、まずい! シッ、静かに伏せて……!」


 妹が先を歩いて行こうとするのを、テッドは腕をつかんで慌てて屈ませた。


 視線の先には、背が低い全身緑色の醜い生き物――ゴブリンの群れが目に入っていた。ギャッギャッとはしゃぐような声をあげているのが聞こえる。



「ゴブリンだ。しかも、かなりたくさんいるぞ。ツイてないな、見つかったら大変だから急いで帰ろう」


 ゴブリンは魔物の中では最弱クラスだ。だが、もちろん人間の子どもだけで倒せるような魔物ではない。


 しかも、目の前には30体以上が群れている。


 襲われたらひとたまりもなかった。



「気づかれないようにしないと……」


 テッドと妹が周囲を見回すと、その先にもゴブリンたちの姿が目に入る。


 いつの間にか、かなり大きな集団に囲まれてしまっていた。


「そうか、ゴブリンたちも光る物を集めるのが好きだから、その工芸品が奴らに見つかってしまったのかも……」



 もはや、キラキラ光る不思議な物には興味が無くなっていた。


 それどころではない。ゴブリンたちに襲われたら、命さえ失いかねない危険な状況なのだ。


 経験したことが無い強い恐怖心が、テッドに芽生え始める。どうにかしてこの場を切り抜けて、妹と二人で無事に家に帰ることだけを考えた。



「ギギギャッ、ギャギギギ!」


 耳に残る不快で甲高い声が森中に響き渡った。


 一匹のゴブリンが、テッドと妹の方を指さしているのだ。



「まずい、見つかっちゃったぞ! 逃げよう!」


 すぐさま二人は手を取り合って駆け出した。


 逃げることだけを考えて夢中で走りだす。すでに街の方向に向かっているのかも分からない。



「う、うわあああっ……!」


 しかし、すぐに目の前を二匹のゴブリンに回り込まれてしまった。


 ゴブリンの手にはボロボロだが使い込まれた棍棒が握られている。これで殴られれば、骨が折れるくらいではすまなそうだ。



「まずい、襲われる……!」


 テッドは妹をかばって地面に伏せると、目をぎゅっと閉じた。


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