154話 救援
グラハムとステラ、フォンを乗せた宇宙船は、ハルベルト連邦帝国の首都に到着した。
豪勢な宮殿の中庭に着陸する。
その後、宮殿奥にある建物の中に運ばれると、最大限の配慮をもって厳重に警備された。
「申し訳ないね、ステラ……」
ステラはグラハムの命令通り、フォンの故障していた箇所を直していた。
謝るフォンの言葉には返答せず、黙って作業を続けた。
ステラは300年ぶりに、フォンが乗っていた宇宙船のバトルセクター《戦闘区画》を目にした。
それは墜落時に本船と分離した一部で、同じようにハルベルト帝国の宮殿内に保管されていた。
そこには戦闘型ザイノイドの部品や、新たな武器が置かれてある。その部品を使って、フォンの腕と目のセンサーを修理した。
これで再び完全なる剣聖が復活したのだ。
次に、病気をかかえた人たちがステラの元に連れてこられた。
ステラはその人たちを、宇宙船の医療ボットを使ってすぐさま治療する。
完治した人たちから何度も感謝の言葉をかけられるが、ステラは機械的にうなずき返すだけで心は動かなかった。
これは、病人のために行なわれた治療ではなかったからだ。
疑い深いグラハム皇帝が、自身をザイノイドへと移植するための医療技術を試しているだけだった。
「ふん、問題なく完治しているようだな。まあ、儂の命令には逆らえないのだから当然か」
ステラの治療結果について、お抱えの医師団が報告するのをグラハムは満足そうに聞いていた。
グラハムが宇宙船の能力を行使するのに最初に選んだのは、自身をザイノイドへ移植するという戦闘力の強化だった。
ザイノイドへと変わることによって、人間を遥かに超越する力を手に入れることができる。
不老不死とまではいかないが、寿命を伸ばすこともできる。
今までは暗殺や襲撃を恐れて毒や護衛にも敏感になっていたが、自身が強くなれば恐れることはない。
今まで以上の能力をもってハルベルト帝国を統治すれば、もはや世界征服すら夢物語ではなくなっていた。
「さあステラよ、儂の身体をザイノイドに変えるのだ! 人格が変わらないように最大限強化してみせるのだぞ!」
「分かりました……」
ステラは命令通り、グラハムの身体をザイノイド化する。
それはカズヤの移植手術と同じだった。
カズヤの時と違って健康だったグラハムの移植は、スムーズに成功した。
ザイノイド化したグラハムはさっそく身体を動かしてみる。
顔や体つきは以前と変わりはない。しかし、その能力は剣聖ほどではないが、戦闘面においてはカズヤやステラを凌駕するほどの性能だった。
「なるほど、これだけの力が手に入れば、儂が戦闘に参加することも可能だな」
自分の身体を動かしながら、グラハムは新たな能力に興奮を隠せなかった。
満足したグラハムは、次の命令をステラにくだす。
「では、他国の地理や戦力の状況を教えろ。空から攻撃できる機械で、他国の情報が筒抜けなのだろう?」
「いいえ、陛下がこの宇宙船の指揮官になりましたが、一部の権限は以前のマスターのままです」
「な、なんだと……!?」
予想外の言葉に、グラハムが戸惑いの声をあげる。
「衛星や情報収集ボットの指揮権など、幾つかの重大な機能は現指揮官の陛下ではなく、以前のマスターに優先的な権限が与えられています」
「なぜ、先にそれを報告しない!」
「……別に、尋ねられませんでしたので」
ステラはすました顔で答える。
以前からステラは、宇宙船の各機能の権限をカズヤ個人に与えていた。もちろん、カズヤへの信頼感があったからだ。
そのことをグラハムには一度も尋ねられなかった。
だから、答えなかったまでだ。
「どうしたら権限を書き換えられる!?」
「以前のマスターの許可をとって書き換えるか、以前のマスターが死亡するかです」
「奴の許可をとるなど考えられん。要するに奴を殺せばいいのだな。それなら簡単だ。奴は何をしている?」
「……仲間と共に、ここに向かっています」
そう。
カズヤたちはステラを助けるために、ハルベルト帝国に向かっている。
ステラが連れ去られるやいなや、すぐさま救出に乗り出したのだ。
そのことを考えると、ステラは再び涙が流れそうになる。
「なんて都合がいいのだ。フォンも修理したし準備は万全だ。今度こそ奴らを返り討ちにしてやるぞ!」
強化された自身のザイノイドの能力を試したくてたまらないグラハムが、激しく息まいた。
「奴らは今どこにいる!? 奴らの正確な居場所を教えろ!」
「彼らは……、”ここにいますよ”」
その瞬間、宮殿の天井と壁が壊れて落下してくる。
激しい音をたてて天井や壁がぶち破られ、大量の土砂が粉々に崩れて降り注いできた。
そばに控えていた女官らが、叫び声をあげて逃げ出す。
宮殿が突如として崩壊していき、グラハムは何が起こっているのかまるで把握できなかった。
「よう、グラハム。ステラを返すんだ」
瓦礫の中には、電磁ブレードを構えたカズヤが立っていた。
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