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015話 部屋わりトラブル

 

「それなら、今ある物だけで何とかならないかな?」


 このカズヤの言葉に、ステラの動きが一瞬止まる。


 何かに気がついたようだ。



「なるほど……その手がありますか。たまにはいいこと言いますね、カズヤさん」


 ステラは褒めているつもりだが、微妙に上から見られている気がする。


「どういうこと?」


 隣で聞いていたアリシアが首を傾げる。



「食べられる部分をすべて利用します。切れ端でも新鮮であれば何でもいいので、ここに持ってきてください」


 ステラが言わんとしていることを理解したアリシアは、その場にいた人々に声を掛ける。



 街の一角が、にわかに活気づき始めた。


 お姫様の呼びかけに応じた人々が家に戻り、余り物や廃棄寸前の食材を手にして集まってくる。


 その間にステラは、宇宙船から小型のロボットを呼び寄せた。



「また新しいロボットだな。こいつは何の機械なんだ?」


「ベジルレシオ《空中調理機》という調理ボットです。廃棄食材の分解と再利用も得意です。持ってきた食材を、どんどんこの子に入れてください」


 カズヤは言われた通り、集められた食材を次々とベジルレシオ《空中調理機》に投げ入れた。


 野菜の芯やヘタ、魚の骨や硬い皮まで、一切合切放り込んでいく。


「食材が無ければ、そこの木の樹皮や葉っぱを入れてください。ソースにしたり、タンパク質を生成して代替肉も作れます。何が食べられるかはこの子が判断しますので」



 ステラが言う通り、ベジルレシオ《空中調理機》は投げ入れられた廃棄食材を瞬く間に分解し、別の出口から新たな食材を生成していく。


 魚の骨は粉末に変わり、野菜の芯は柔らかく加工されてペースト状で出てくる。


 その動きはまるで魔法のようだった。



「これで腐ったり食べられない部分でない限り、すべての食材を再利用できます。ご希望なら、その素材を用いて自動的に調理まで行いますけど」


「本当か!? それなら、さっそく何か作ってみてよ」



 街角に即席で設けられたテーブルに、見事な料理が並びはじめた。


 香ばしく焼かれた肉、彩り鮮やかなサラダ、食欲をそそるスープ――どれも廃棄食材から作られたとは思えないほどの完成度だ。



「すっごく、うまいじゃないか!」


 カズヤが歓喜の声をあげ、スープを飲み干す。


 アリシアもそっと口に運び、目を見開いた。


「本当に美味しいわ。これが捨てられるはずだった食材からできたなんて」



 新しい料理ができるたびに、多くの人が集まってきた。


 普段は食べられないご馳走を味わった人々に、自然と笑顔と賑わいが広がっていく。



「ありがとう、お腹いっぱい食べたのは久しぶりです」


 感謝した街の人たちがカズヤに握手を求め、列ができるほどだ。


「これで、子どもたちを飢えさせなくて済みます」


「お兄ちゃん、ありがとう!」


 カズヤの手を取って深々と頭を下げる。


 周りに集まってきた女の子たちも、小さな手でカズヤの服を掴んで微笑んだ。



 そんな人々の様子を眺めているアリシアまで嬉しそうだ。


「ありがとうカズヤ、ステラ。街のみんなが、こんなにも喜んでいる姿は久しぶりに見たわ」


「少しでも役に立てて良かったよ。お腹がすくのは辛いからな」


 みんなの笑顔は、カズヤにとっても嬉しかった。 


「私からは別に。カズヤさんの一言がなければ、この技術を試す機会もありませんでしたから」


 相変わらずステラは、たんたんとした表情で返す。



「ステラ、この機械をしばらく皆に貸し出しても大丈夫かな?」


「カズヤさんが許可を出すなら問題ありません。街を巡回させれば、食糧不足の問題に少しは役立つでしょう」


 ステラの言葉を受けて、カズヤは当然のように許可をだす。


 カズヤとお姫様の命令を受けた調理ロボットは、大好評を得ながら街中を飛び回るのだった。



 *


「そろそろ、カズヤたちが泊まる場所でも決めようかしら。晩餐会の準備ができるまで、そこで待っていてくれる?」


 アリシアがふと思いついたように、カズヤたちの宿探しについて提案する。



「泊まる場所が決まらないと、落ち着かないもんな。そういえば、ステラは眠る必要はあるのか?」


 カズヤは隣にいたステラの方に視線をおくる。


「身体を休めるという意味では必要はありません。ザイノイド化した元人間種のなかには、心の健康を保つために睡眠を取る存在もいましたが。私の場合はほとんど必要ありません」


 眠らなくてもいいとは、やはりザイノイドは規格外だ。


 ただ寝なくてもいいというのは、やはり寂しい気がした。



「寝なくてもいいのは便利そうだけど、布団に入る瞬間なんて本当に幸せなんだぜ。俺なんか幸せすぎて、朝になっても布団から出たくなくなるほどなんだ」


「大丈夫ですよ、私がいつでも布団から引きずり出してあげるので安心してください」


「……そ、そうか、ありがとう」


 布団の良さが、ステラにはうまく伝わらない。



「それで、二人にはどんな宿がいいのかしら。バルくん、お勧めの宿を教えてくれる?」


「冒険者が使うような宿がいいんじゃないですかね。知り合いの宿が空いているか聞いてみますぜ」


 バルザードに案内されたのは、他の住宅よりも一回り大きな宿だった。


 受付で確認すると、さいわい二人分は空いていた。



「おい、それでお前らの部屋はどうするんだ? 一つでいいのか」


 バルザードに言われて、カズヤは初めて自分がおかれた状況に気がついた。


 ステラと一晩どう過ごしたらいいのだろうか。


「私は眠る必要がないのでどこでもいいですが、脆弱なカズヤさんの安全面を考えると同じ部屋がいいと思います」


 ステラが当たり前のことのように、しれっと答える。



「あの、聞こうかどうかずっと悩んでたんだけど……。カズヤとステラは一体どういう関係なの?」


 アリシアが好奇心を抑えられないといった感じで、前のめりに聞いてきた。


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