147話 カズヤ対エンザ
「なっ……、何だ!?」
ピーナたちを送り出したカズヤは、突然、誰もいないはずの背後から剣戟に襲われる。
とっさに攻撃をかわすと、いつの間にか背後には剣を構えた男が立っていた。
「やるじゃないか、さすがセドナの英雄だな」
その呼び方と男の容貌で気が付いた。
カズヤの護送車を警護していた、ヴェノムベイン傭兵団のエンザだ。
護送車にいた時と同じように、相変わらずここが戦場だと感じさせない程の余裕を漂わせている。
「エンザか……!」
「お前を逃がしてしまったら俺の任務は失敗だ。大人しく護送車に戻ってもらうぜ」
言い終えるやいなや、エンザは剣を振り上げてカズヤを狙ってきた。
鋭い一撃を連続する。
しかしカズヤはザイノイドの自動防御システムを発動し、落ち着いて防ぐ。
逆に剣撃を続けざまに繰り出した。
カズヤはシデンの剣技をトレースしている。生半可な技術では相手にもならない。
流れるような剣さばきでエンザの攻撃を防ぎ、逆に鋭い攻撃を次々と叩き込んでいく。通常の攻撃ではカズヤの方がはるかに上だった。
類まれなカズヤの剣さばきに、エンザの方がたちまち追い込まれていく。
「なんだ、ヴェノムベイン傭兵団っていうのは、こんなものなのか?」
カズヤは優勢を確信して落ち着きを取り戻す。
「なるほどな、皇帝がお前を危険視する理由がよく分かったぜ。疲れた様子を全く見せないだけでなく、これ程の剣術を持っているとはな……」
だが、追い詰められたはずのエンザの余裕のある態度は変わらなかった。
「俺の最初の攻撃を覚えていないのか? 俺の優位は変わっていない、どうやってお前の背後をとったのか忘れたようだな」
たしかに、カズヤが気が付いた瞬間には、背後から攻撃されていた。
その前の気配は一切感じていない。
エンザが剣を構えなおすと、何かの魔法を唱えた。
そして、気付いた時にはエンザの姿が消えている。
次の瞬間。
「……!」
いきなり、あり得ないほど近距離から強烈な斬撃が飛んできた。
カズヤは辛うじて電磁ブレードで防ぐが身体ごと吹き飛ばされる。
全身を地面に叩きつけられた。
「やれやれ、こんなものか。少し本気を出したらこのザマだ」
(くそっ、こいつめ……!)
カズヤには、エンザの姿が一瞬消えたように見えた。
瞬間的に素早さを上げたのか、時間を止めたのか。それとも全く違う何かなのか、まるで分からない。
仕切りなおしたエンザは、謎の技を使いながら連続攻撃を繰り出してくる。
「み、見えない……!」
エンザの姿がランダムで消え、気付いた瞬間には懐に入り込んでくる。
姿を見せた瞬間に必死で回避して、電磁ブレードで受け止めるしかなかった。
カズヤは一方的な攻撃を受けて守勢に回ってしまう。
これが奴独自の魔法なのだろう。
最初の剣技だけでは大したこと無かったが、この魔法のおかげでヴェノムベイン傭兵団に所属しているのだろう。
仕組みが分からなければ相当に厄介な魔法だった。
「怪しげな魔法を使うんだな。いったいどんな仕組みなんだ?」
「もちろん、教えるはずないよな」
余裕しゃくしゃくといった表情で、エンザがかさに懸かって攻撃してくる。
カズヤはいったん心を落ち着けると、エンザの攻撃をかわしながら冷静に観察した。
姿を現わすのは、初めにいた場所から大きくずれた真横や真後ろだ。単純に加速しただけでは出来ない芸当だ。急激に素早さを上げているわけではなさそうだ。
次に、エンザが姿を消した瞬間に周囲の兵士の姿を視界の隅に捉える。兵士の動きは止まっていない。時間を止めている訳でもなさそうだ。
カズヤは必死に攻撃を回避しながら、エンザの魔法を探っていく。
「喰らえっ!」
エンザ姿がまた消えた。
瞬時に背中に回られる。カズヤは何とかかわして距離をとった。
(……これは、近距離を自在に飛べる転移スキルじゃないか)
どのくらいの時間、どのくらいの頻度、何回使えるか分からないが、回数制限が無い近距離ワープのようなものに違いない。
斬り合いの中で、連続するだけではなく時間差で使ってくるのもいやらしい。
「逃げ足だけは上手だなあ!?」
エンザが馬鹿にしたように近付いてくる。
しかしカズヤは、近付いてくるエンザに向かって不敵に笑った。
「……お前の魔法の種は見抜いたぞ」
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