145話 決死の魔法
デオの魔法だった。
本来ならば、敵に見つからないように魔法陣を展開せずに使う予定だった。
しかしそれを恐れずに、デオは自分にできる最大の魔法を使おうとしているのだ。
魔法陣が輝きながら展開すると、まばゆい光を放ち始めた。そして魔法陣はしばらく空中に浮かんでいたが、やがて消えてなくなる。
その下にいるデオがどうなったのか、アデリーナには想像もつかない。
すると、再びハルベルト軍の魔導人形が暴走を始めた。
味方だった魔導人形が、人間の兵士に襲い掛かっている。今度は、ハルベルト軍の土魔法使いにも制御できない。
戦場は大混乱だった。
「デオ……!!」
混乱する敵陣を、アデリーナたちが無理をして横切った。再び魔導人形が制御されれば一巻の終わりだった。
しかし、混乱が収まる気配はない。
やがて、反対の丘の頂上にたどり着いたアデリーナは、激しく損傷したデオを見つけた。
「……デオ、大丈夫!?」
アデリーナがデオを抱え上げる。
しかし、デオの胸にはめ込まれた魔石は粉々に砕け散っており、活動を停止するのはもはや時間の問題だった。
「……魔法は成功しました。これでカズヤさんたちを助けられるはずです」
アデリーナは涙が溢れて何も話せない。
「アデリーナ様……、私を人間のように育ててくれて、ありがとうございました……」
腕の中の魔導人形ががくりと動きを止める。
魔導人形デオの命は、戦場で尽きたのだった。
*
デオの魔法によって、レンダーシア公国に配備されていた最後の1万体の魔導人形が参戦した。
後方からハルベルト軍へと襲い掛かる魔導人形は、大局的な戦況に大きな影響を与え、一方的だった戦力差に均衡をもたらした。
デオの決死の活躍により、ハルベルト軍が圧勝するシナリオは消え失せたのだ。
混乱のなか、タシュバーンの軍隊がエルトベルクに到着した。
すぐさま二か国で連合軍を形成する。
すでに戦闘が始まっており、北西側では魔導人形だけでなくレンダーシア軍がハルベルト軍の背後を狙っていた。
空の攻撃に対しては、エルトベルクの備えはほとんどない。
だが、今回は三か国による連合軍だ。
ハルベルト軍が誇る飛竜部隊ストームドレイクスに対しては、タシュバーンにも飛行部隊が用意されている。
タシュバーン東部の砂漠地方には、黒耀の翼に所属するリオラのような黒妖精族と呼ばれる種族や、ハルピュイアなどの有翼妖精族が数多く住んでいる。
その妖精族を編成した、”銀閃のファルコニアズ”と呼ばれる飛行部隊があるのだ。
「タシュバーンの旗を高く掲げろ! 勝利をわが手につかむのだ!!」
シデンが鬨の声をあげると、タシュバーン軍の有翼妖精族が反撃を開始した。
タシュバーン皇国の妖精部隊”銀閃のファルコニアズ”と、ハルベルト軍の飛竜部隊”ストームドレイクス”が空中で衝突した。
空の戦場は、翼の羽ばたき音と激しい叫び声で満ちていた。
ハルピュイアたちは空中から急降下しながら、手に持った剣と鋭い爪で飛竜部隊を切り裂いていく。
魔法を使える者たちは、死角を狙ってあらゆる方向から炎を飛ばした。
しかし飛竜たちの鱗は岩のように堅く、簡単には傷付かない。
鋭い鉤爪や戦斧のような長い尾だけでなく、口から放たれる強力なブレスは何匹ものハルピュイアを巻き込んでいく。
飛竜の背にのる騎士たちも、近距離から槍を振り回したり遠距離から魔法を放ったり、飛竜の攻撃を補助している。
しだいに、戦力に劣るタシュバーン軍が押されていった。
「な、なんだあれは!?」
そのとき、タシュバーンのハルピュイア部隊の背後から、ステラがコントロールするF.A.《フライト・アングラー》部隊が戦場に到着した。
空中戦で不利になることを予想したステラが、護送車で運ばれている間に救援を寄越していたのだ。
攻撃対象としては小さすぎるF.A.《フライト・アングラー》が、重力や空気抵抗を無視した動きで飛竜たちを翻弄する。
空中での戦場は激しさを増し、地上まで伝わってくるほどだった。
やがて、数で勝るハルピュイアとF.A.部隊が優勢になってくる。
一匹の飛竜にたくさんのハルピュイアが群がっていく。撤退を始めた一部の飛竜部隊に追撃をかけて、どんどんと飛竜の数を減らしていった。
空中での戦闘は、タシュバーンの有翼妖精族とボット部隊に軍配があがったのだ。
*
人工衛星落下の衝撃で吹き飛ばされたカズヤたちの護送車は、ひっくり返ったまま放置されていた。
すでに周りは混沌とした激しい戦場になっている。この場所にたどり着ける部隊は、そう多くはない。
「俺たちも外に出て、早く戦いに参加しないと……」
しかし手錠を付けられたカズヤが暴れても、護送車はびくともしない。
ザイノイドの腕力でも破壊できないほど、護送車は強固に作られていた。
すると、戦場が不意に静かになった。
何者かの出現により、ハルベルト軍の兵士がその場から一斉に逃げ出し始めた。何かに怯えたように次々と戦列を離れていく。
カズヤは一体何が起きたのか確認しようとしたが、護送車の格子窓から外の様子はほとんど見えない。
その時、不意に聞き覚えのある声がした。
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