141話 内部通信
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「だからといって、どんな依頼でも受け入れるなんて信念がない奴らだな」
エンザが言っていることにも理屈はあるが、まさに盗人にも三分の理だ。
どんなことにでも屁理屈はつけられる。
「お前たち庶民が、俺たちの崇高な使命を分かっていないだけだ。闇ギルドなんて呼ぶのが理解していない証拠だ。俺たち傭兵団のトップに出会ったらたまげるぜ……まあ、お前なんかがお目にかかることはできないがな」
そう言うとエンザは、カズヤとの会話を打ち切った。
話し相手がいなくなったカズヤは、今度はステラとの内部通信に切り替えた。
<……それにしてもフォンがいるのに、ステラと問題なく会話できるとは思わなかったな。内部通信の存在は、ザイノイドであるフォンなら知っているんじゃないのか?>
<もちろん知っていますよ。おそらくわざと見逃してくれているんだと思います。様子を見ていると、フォンは積極的にグラハムに従っている訳ではなさそうです。具体的に命令されない限り、自分から行動するつもりはないのでしょう>
<なるほどな。確かにフォンは嫌々従っているように見えた。でも、ザイノイドは自由意思で人間の中から好きな主人を選べるんじゃなかったのか>
ザイノイドには主人や仕事を選ぶ権利があるという、かつてのステラの話を思い出した。
<ザイノイドの中でもフォンのような戦闘型ザイノイドは別なのです。戦闘力が高くて暴走すると危険なので、自由意思や行動が厳しく制限されています。戦闘型ザイノイドが使用されるのは基本的に戦場なので、管理者や上官の命令に絶対服従するように作られています。それこそ、反乱でも起こしたら大変ですからね>
<そうか、そんな事情が……>
戦闘型ザイノイドというものは、攻撃力は強くても可哀そうな立場なのかもしれない。
<ちなみに俺は、どんなタイプのザイノイドなんだ?>
ステラは自分のことを情報処理型ザイノイドだと言っている。カズヤは自分が移植されたザイノイドのタイプを聞いていなかったことに気が付いた。
<マスターは土砂運搬型ザイノイドですよ。マスターの知能や身体と最も相性がよかったのです>
土砂運搬型って……!
もう少しかっこいいタイプを期待していたカズヤは、がっくりとうなだれる。
<別に悪くないですよ。腕力に限っていえば、戦闘型にも負けないくらい力持ちです>
ステラが必死にフォローしてくれる。
カズヤがワクワクしながらセドナ新市街の建築をしているのも、その名残があるのだろうか。
カズヤは思いがけず無性に悲しくなった。
それでも、この状況下でステラといつもと変わらないやり取りができていることに安心している部分もある。
<それにしても、前回のジェダや今回のグラハムといい、どうして自己中心的で共感力の無い奴が国を支配するんだ? 庶民にとってはいい迷惑だよ>
<当たり前じゃないですか。自己中心的で虐げられるものの気持ちが分からないからこそ、他人を支配するんですよ。頭のなかには支配欲と権力欲しかありません。彼らの気持ちなんか理解する必要はありませんよ>
たしかに、権力者の気持ちや考えなんて、一般庶民には一生分からないものかもしれない。
たとえ知っても愉快な気持ちにはならなさそうだ。
<俺たちも何とかここから逃げ出さないとな。アリシアたちも心配しているだろうし、エルトベルクや他の国にも迷惑をかけてしまう。ステラ、何かいい方法はないか?>
<この状態からでも可能な攻撃方法は幾らでもあります。もちろん、フォンがわざと見逃してくれているからです。マスターが攻撃に関する最大限の裁量権を私にくれるなら、この状況を打破して見せますが>
<分かった、ステラに任せるよ。でも、すぐにでも対応しないとセドナの街がまた……>
カズヤは現状への苛立ちを隠せなかった。
このまま進撃されたらセドナや周辺国に大きな被害をもたらしてしまう。 住民たちも、いよいよ逃げ場所がない。
せっかく作り上げた都市がまた台無しになってしまうのだ。
<ステラ。いっそのこと、宇宙船の場所を皇帝に教えてしまうのはどうだろう?>
宇宙船を探すために闇雲に攻撃されると、タシュバーンやレンダーシアの都市、それに復興したばかりのセドナが戦場になってしまう。
それならば、皇帝が宇宙船に直行してくれた方が被害は少ない。
皇帝に宇宙船を取られるリスクは高くなるが、その代わり周囲への影響は小さくなる。
<その方法は私も考えたのですが……宇宙船を取られてしまったら、元も子もありませんよ>
<いずれにしても、皇帝と剣聖を止めない限り同じ結果になってしまうだろ。それなら直行してもらった方が、周りへの被害が小さくなるんじゃないか>
カズヤはしばらく思案する。
その結果、カズヤは宇宙船の場所がセドナとエストラの中間地点にあることを、フォンに伝えることにした。
<分かりました、リスクは大きいですがフォンに伝えましょう>
<少し離れた場所にいるけど、フォンにはどうやって伝える?>
<簡単です。私とフォンは元々同僚ですから>
ステラはそう言うと、フォンに向けて内部通信を発信した。
その会話内容は、カズヤにも聞こえるようになっている。
<……ステラかい!? まさか直接僕に連絡してくるとは思わなかったよ>
突然、内部通信で話しかけられたフォンは、驚きを隠せなかった。
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