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014話 食糧問題

 

「ほれ、ステ坊も食えよ」


 隣ではバルザードが、もう一本の美味しそうな串焼きをステラに手渡していた。


 どうやらバルザードは、バルちゃんと呼ばれる代わりに、ステラのことをステ坊と呼ぶことにしたみたいだ。


 ステラ坊やとでもいう意味だろうか。男の子のことを意味している気がするが、ステラが気にしている様子は無い。



「いいえ、バルちゃん。私は食べる必要がないのでいらないですよ」


「へえ、食べないなんて変わってるな」


 串焼きを返されるが、バルザードは大して気にしない風に受け取ってかぶりついた。



「ステラ、動力源はエネルギーコアだと言ってたけど、味はわかるのか?」


「味覚はありますけど、ほとんど使いません」


「ええっ!? それじゃあ、食事を楽しむことはないのか?」


「ほとんどありません。逆に楽しむ必要があるんですか? エネルギーにするわけではないですし、呑み込むこともできないんですよ。分解して気体に変えて外に放出するだけですから」


 ザイノイドには食べ物を消化する仕組みは整っていないようだ。


 たしかに必要のない機能だから無くて当たり前だとは思うが……。



「そうか、それならやっぱり俺はザイノイドにはなりたくないな。食べるのが人生での大切な楽しみなんだ」


 ザイノイドの味覚の話を聞いて、カズヤの意思はますます固まった。



「本当みたいですね。食べ物を見ているだけで、カズヤさんの心拍数と血圧が急上昇していますから」


 舌なめずりするカズヤに、ステラは呆れたような視線をよこすのだった。



 市場を離れたカズヤたちが、更に街の奥へと歩いていく。


「……それにしても、お姫様がこんなに気軽に街なかを歩いて大丈夫なのか?」


「ここは私の街だから大丈夫よ。バルくんもいるしね」


 自由に街なかを闊歩するアリシアを見て、カズヤは少し心配になってきた。


 テセウスのような奴に狙われる可能性もあるからだ。



「バルくんはこの国では一番強いのよ。”雷轟らいごうのバルザード”っていう二つ名も持っていて、冒険者ランクだって最高のSだったんだから」


「今は剥奪されましたがね」


 不意に褒められてバルザードの顔がニヤける。



「冒険者ランクなんてものがあるのか。そのSっていうのは、どれくらい凄いんだ?」


「そうだな、ランクを話すと少し長くなるぞ」


 断りを入れると、バルザードは歩きながら説明してくれた。



 冒険者と呼ばれる職業には冒険者ランクというものがあって、最も初心者であるFランクからスタートする。依頼をこなすたびにF→E→Dとランクが上がっていくそうだ。


 Eランクで経験者として認められるようになり、Dランクでひとり前と呼ばれるようになる。Cランクでは一流冒険者と考えられていて、Bランクの上はAランクとSランクと続いていく。


 Aランクまでくると、国の中でも数えられるほどの人数しかいない。Sランクにいたっては、国にひとりいるかどうかというレベルらしい。



「そうなると、バルザードのSランクは別格ですごいんだな」


「おっ、やっとわかってくれたか!」


 バルザードは、嬉しそうにニヤニヤし始めた。



「冒険者ってことは、バルザードはこの国の騎士ではないのか?」


 カズヤは疑問に思っていたことを尋ねてみた。


 この国でのバルザードの立場がよくわからなかったのだ。さっきのテセウスが騎士団長と言っていたが、奴の部下のようにも見えない。



「ハハハッ、俺様が騎士なわけがないだろう。そんなにお行儀良くないぜ」


 カズヤの疑問に、バルザードは大きな声で笑い飛ばした。


「まあ色々あって、俺は姫さんに直接雇われている護衛なんだよ。だから敬意を示すのは、姫さんと陛下ぐらいだぜ」


 なるほど、それならバルザードの自由な立ち位置が理解できた。この世界の仕組みについても少しわかった気がする。



「それなら、さっきのテセウスっていう奴はどれくらい強いんだ? バルザードの方が強いんだろ」


「まあ、俺様の方が強いのは間違いないが……。奴は強いぜ。俺様でも油断できないな」


 バルザードの顔が引き締まる。



 テセウスは元Sランクのバルザードですら警戒するほど強いのか。


 騎士団長という役職は伊達ではない。


 宿敵となるテセウスの実力がわかり、カズヤは心が引き締まるのだった。




 カズヤたちは街の中を歩き回り、アリシアがニコニコしながら街の紹介をしてくれる。


 だが先程からカズヤには、少し気になっていることがあった。


 通り過ぎる住人の顔が、みな暗く元気がなさそうな感じがするのだ。瞳の輝きも弱く、どこかよそよそしくて生気がない。


 市場にはたくさんの人がいたが、人々の顔が明るいわけではなかった。服屋の店員からも似た雰囲気を感じたが、彼だけでは無かったのだ。



「なんか、みんな元気無さそうだな……」


 カズヤがぽつりと感想をもらす。


 街の人々の沈んだ表情が目に入ると、放っておけない気持ちになってしまう。



「そう、やっぱりそう見えちゃうのね。実は最近、国内で食糧不足が続いていて、少し疲れてしまっているのかも。隣国同士の戦争が続いていて、景気が悪いせいもあると思うわ」


 アリシアから笑顔が消え、我がことのように苦しそうにつぶやいた。


「実はエルトベルクはあまり豊かな国ではないの。食糧を増産できるようにお父様に進言してはいるんだけど、なかなかうまくいかないし、エストラは井戸が少ないから水不足にもなりやすいのよ」


 アリシアは悲し気な表情でうつむく。



 身近に戦争があり経済も悪いとなると、自然と気持ちが下がってしまうのはよくわかる。


 アリシアを守っていた騎士たちの鎧が古びて汚れているように感じた理由は、激戦のせいだけではなかったのかもしれない。



「お父様は私財を投じてまでも、みんなの生活を向上させようと頑張ってきたのよ。でも、二年前に底を尽いてからは、なかなか新たな施策を講じられないの」


 私財を投じてまで国民に尽くそうとするのは、なかなか出来ることではない。父親の国王も、アリシアと同じように思いやりのある君主なのだろう。



「私たちの力不足で、みんなが辛い思いをしているかと思うと胸が痛くて……」


 アリシアは民の苦しみを、自分の不甲斐なさとして悩んでいる。


 現状がどうであれ、これほどまでに民を想う統治者がいることは、国民にとって大きな救いであることは間違いない。



「ステラ。この国の食べ物って、どうにかできないかな?」


 カズヤは駄目もとで質問してみる。


 国を憂う、アリシアの力になりたいと思ったのだ。


「まだこの世界の食糧事情を調査できていないので、くわしくわからないのですが……」


 ステラが少し考え込む。



 アリシアのためだけでなく、みんなの為にも食糧不足を何とかしてあげたい。


 生きることだけに精一杯になると、おびえて日々の暮らしを守ることだけを考えてしまう。未来を良くしようとする気力も無くなり、ただ空腹に耐えるだけの生活になっていく。


 小さい頃から食べることが大好きなカズヤにとって、満足に食事ができない状況はまさに地獄のように感じたのだ。



「国全体を潤すほどの食糧は難しいと思います。無から有は生み出せませんし、大量の食糧を作るには多くの設備と時間が必要です」


 ステラの返答は至極真っ当だった。


 残念ながら超科学力を以ってしても、瞬時に15万人分の食糧を生み出すことはできない。



「そうか……それなら、今ある物だけで何とかならないかな?」


 カズヤの言葉に、ステラの手が一瞬止まった。


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