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138話 商業ギルド総帥


 会談が終わって程なくすると、ハルベルト帝国軍がエルトベルクに向かって進軍してきたことが報告される。


 その兵士の総数は、10万人にも及んだ。


「な、なんと10万もの兵力が……!? 軍事大国となれば、戦争の規模がまるで違うのだな」


 報告を受けたエルトベルク国王は、思わずため息をもらす。



 前回ゴンドアナ軍やメドリカ軍、タシュバーン軍の3ヶ国に襲われたときだって、総兵士数は21000人だった。


 エルトベルクの軍備が以前より整ったとはいえ、5000人ほどの兵士しかいない。


 今回も、厳しい戦いになりそうだった。





 ハルベルト軍の侵攻の報告があったすぐ後。


 戦争の準備を急ぐ旧首都エストラに、予想外の人物が訪れた。


「……陛下、とんでもない奴が面会を求めてきてますぜ」


 バルザードが呆れた顔で、国王や王妃、アリシアたちに報告した。


「バルくん、誰なの?」


「商業ギルドの総帥様ですぜ」



「え!? わざわざ総帥本人が出向いてきたの?」


「わずかな護衛を連れて、敵国に乗り込んできやした」


 商業ギルドは、エルトベルクを敵視して陥れるようなニュースを流しているところだ。


 そんな商業ギルド全体のトップである総帥自身が、単身でエルトベルクに乗り込んできたというのだ。


「分かったわ。とにかく私も行くわ」



 エルトベルク国王とアデリーナ王妃が待つ王の間に、商業ギルド総帥が姿を現した。


 アリシアとバルザードも待ち構えている。


 そこへ、たった10数人の護衛を引き連れて、商業ギルドの総帥が堂々と敵国へ入ってきたのだ。



「お初にお目にかかります、エルトベルク国王。私は商業ギルド総帥のマグロスです」


 マグロスと名乗った男性が、余裕たっぷりな態度で挨拶する。


 外見は若く見えるが、40代前半といったところだろうか。敵国へ乗り込んでくる度胸や落ち着きから、かなりの年配にも見えてくる。


 うすい金色の髪はきれいに撫でつけられていて、顔つきも整っている。


 値踏みするような鋭い碧眼がこちらを見つめていて、儀礼用の高級そうな服を、びしりと着こなしていた。



 対照的に、護衛として連れてきた兵士からは殺気が漏れだしている。百戦錬磨の猛者たちなのであろう、一般の兵士とは違った威圧感を放っていた。


 この護衛たちに対する信頼感があるからこそ、敵国であるエルトベルクへと乗り込んでこれたのだ。



「見え透いた挨拶などいい! お主たち商業ギルドが、エルトベルク不利の噂をまき散らしている元凶ではないのか!?」


 国王はマグロスに詰め寄った。


 今回の騒動の原因がエルトベルクの失態にあると報道しているのは、他ならぬ商業ギルド配下のメディアだ。



「確かにそうですね。しかし、エルトベルクは今まで商業ギルドに大きな損失を与えているのだから仕方ありません。戦力差から考えても、ハルベルト有利との情報を流すのは当然です」


 マグロスは悪びれもせずに、国王の質問に答えた。



 マグロスのふてぶてしい態度に我慢できず、アリシアも声をあげる。


「それだけでなく、ゴンドアナ王国との戦争中に私たちのEエルツ通貨の流通を止めたのもあなたたちでしょう!?」


「それは、あなたたちが勝手に魔石を流通させるルートを作ってしまったからですよ。そのような大きな取引は、商業ギルドを通してもらわなければ困ります」


「そんなルールは初めて聞いたわ。エストラにいた商業ギルドは、崩落が起きるとすぐに逃げ出していったけど」


 アリシアが皮肉をこめて言う。



「リスクの方が大きくなったので撤退させただけですよ。このような莫大な魔石の取り引きがあることを知っていたら残していたのですがね。いったい、どのように魔石を生産しているのですか?」


「そんなこと教えるはずないでしょう。あなたたちは、人間の魔石の取り引きすらしていると聞いたわ」


 アリシアの言葉には嫌悪感が込められている。


 以前の魔術ギルド総帥のジェダとの戦いで初めて知った情報だった。



「最近では、人間の魔石の方が高値で取り引きされていましてね。思いの外、魔術ギルドが高く買い上げてくれるのですよ」


 マグロスは平然としている。


 人間の魔石すらも、ただの商売としか考えていないのか。莫大な利益さえ出れば、その手段はどうあっても良いと思っているようだ。



「信じられないことを平気で言うのね。それで、あなたは何をしに来たの!?」


「大きな戦争が始まると聞いたからです。前回のゴンドアナ王国との戦いでは出遅れてしまったものですから、わざわざ私が出向いてきたのですよ。相手が軍事大国なので、エルトベルクはさぞお困りでしょう。商業ギルドでは魔石を利用した魔導兵器をいくつも用意しています。購入されれば少しは戦争が有利になると思いまして……」



「敵側の商業ギルドが用意した兵器を、私たちが買うとでも思っているの!?」


「商売においては商業ギルドは中立ですよ。あなたたちの敵国であるハルベルト帝国も魔導兵器を購入しているのです。甚大な破壊力をもつ魔導兵器は、対策をしなければ一撃で数百人もの犠牲を出す軍事兵器です。対抗手段として買われてはどうですか? もしくはその攻撃を防ぐための防衛兵器だけでも結構ですよ」


 両方の戦争当事国へ武器を提供する。たしかに商売だけを考えれば一番儲かる方法だった。


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