表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
136/316

136話 脱出


「エルトベルクは首都エストラが崩落し、周辺国とも争っていて国難の真っ只中だと報告がきていたな。宇宙船を探し出すついでに、攻め落としてしまった方が色々と調べやすそうだな」


 グラハムが下品な顔で、戦争の算段をたてている。


 エルトベルクで暮らしている人々の生活や気持ちなど、微塵も考えていないから安易に戦争なんて仕掛けられるのだろう。


 グラハムの頭にあるのは、権力欲と支配欲だけだった。



「最近タシュバーンやレンダーシアと同盟を結んだようだが、あんな小国どもが手を結ぼうと関係ない。この機会に一緒に滅ぼせば、アビスネビュラでの儂の序列も上がるに違いないぞ」


 皇帝グラハムがニヤリと笑う。

 

 いったい、どこまで身勝手なことを言うつもりなのか。他国や土地や国民の命を何とも思っていない。


 カズヤは、怒りが溢れてきた。



「グラハム、貴様の好きにはさせないぞ!」


「ほう、好きにはさせないというのは、一体どうするつもりなのだ? フォンの強さの前に為す術もないお前に何ができる? 力無き者は支配されるしかないのだ」


 グラハムは挑発するように、押さえつけられたままのカズヤの肩を踏みつけた。



 そして扉を開けると、部屋の外に控えていた兵士たちに大声で命令を下す。


「アリシア姫を捕まえろ! 従者が皇帝に対して暗殺を計ったぞ、人質にしろ!」


 皇帝グラハムの命令が飛ぶと、宮殿中が騒然とし始めた。




 ※


 部屋から脱出したピーナは、アリシアのところへ向かおうと雲助に乗っている。


 しかし広すぎる宮殿では、行けども行けども目的地にたどり着けない。


「ひいいっ、お化け……!!」


 半透明のピーナと雲助が廊下を飛び回る様子を見て、執事やメイドたちの悲鳴が響き渡る。


「……もう、どこにいったらいいのお!?」


 アリシアへの大事な伝言を頼まれたピーナは、広い宮殿内で迷子になっていた。



 ※


 その頃、会議を終えたアリシアは、自分に用意された部屋に戻っていた。


 しかし隣室で待っているはずの、カズヤたちの姿が見当たらない。


 平和条約の詳細をハルベルト帝国の重臣たちと詰めていたのだが、うわべばかりの話に終始して実りある会談にはならなかった。



 アリシアが部屋のなかで一息ついていると、急に廊下をバタバタと走りまわる音が聞こえてきた。


 直後に、廊下にいたバルザードの怒鳴り声も響いてくる。 


「どうしたの!?」


 とっさに異変を感じたアリシアは、脱ぎかけていた服装を整え直す。



 その用意が終わると同時に、止めようとするバルザードを押しのけながら、多くの兵士たちがアリシアの部屋の中に雪崩れ込んできた。


「アリシア姫、ご同行願います! 従者として連れて来たカズヤ・ステラ両人に、グラハム皇帝暗殺の疑いがかかっています!」



「何ですって!? 二人は今どこにいるの?」


「すでに剣聖フォン様によって捕まっています。アリシア姫、ご一緒願います!」


 兵士の言葉は、有無を言わせない勢いだった。



 カズヤとステラが捕まった……


 衝撃的な事実に、アリシアの身体が固まる。


 だがアリシアには、カズヤとステラが考えも無しにそんな行動をとるとは思えなかった。


 何か事情があるに違いない。それに帝国のことだから、疑惑自体が嘘だったり裏があるようにも感じられる。



「姫さん、この者たちの言うことはおかしいですぞ! 言いなりになってはいけません!」


 両手を広げて兵士たちの動きを押さえながら、バルザードが叫ぶ。


「アリシア姫が抵抗するなら、力づくで捕らえろという命令が出ています。者ども、捕えろ!」



「やってきやがったな!」


 襲い掛かってくる兵士たちをバルザードが弾き飛ばす。


 やわな一般兵では、バルザード相手に手も足も出ない。大怪我をさせないように気を使いながら、バルザードは飛び掛かってくる兵士を振り払った。


 しかし、どんなに投げ飛ばそうと、後から後から兵士が湧いてきてキリがない。


 ここは帝国の、それも宮殿のど真ん中だ。敵は無数にいる。



「姫さん、ここは一旦逃げたほうが良さそうですぜ!」


「でも、カズヤたちが……」


 襲われている自分よりも、アリシアは捕えられたカズヤとステラの身を案じる。



「姫さん、あいつらは不死身です。簡単に死ぬような奴らではないと、今まで何度も見て来たはずです。俺たちがここで捕まる方が、あいつらも困るでしょう。この場は逃げた方がいいですぜ」


「使節の他の皆はどうするの? 国家間の問題になったらエルトベルクが……」


「関係のない者たちは、抵抗さえしなければ殺されないと思いますぜ。それに、姫さんを捕らえようとしている時点で、すでに国際問題は起きてます。それも特大の大問題です」



 そこへ、雲助に乗ったピーナが飛び込んできた。


 大勢の兵士たちの流れに従っていたら、自然とアリシアの部屋にたどり着いたのだ。


「あっ、やっと見つけた! アーちゃん、カズ兄が逃げろって。ケンセイっていう眼鏡の人に襲われたの!」


 ピーナと雲助の一声で、アリシアの心は決まった。



「分かったわ。バルくん、逃げましょう!」


「姫さん、失礼しやすぜ!」


 バルザードはアリシアを脇に抱え込むと、バルコニー型になっている窓を壊して飛び降りた。


 読んで頂いてありがとうございます! 「面白かった」「続きが気になる」と思ってくださった方は、このページの下の『星評価☆☆☆☆☆→★★★★★』と、『ブックマークに追加』をして頂けると新規投稿の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ