134話 剣聖
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ステラが剣聖の動きを警戒しながら、カズヤに伝える。
「あの剣聖フォンと呼ばれる男は、私と同じ船に乗っていた戦闘型ザイノイドです。私以外のザイノイドは300年前の墜落で全て壊れたと思っていましたが、まだ機能している者がいたようです」
(剣聖フォンはザイノイドだったのか!?)
カズヤの心に戦慄が走る。
(そして俺たちをここに誘い込んだ……?)
カズヤの残り少ない生物としての本能が、今までに無い危険を知らせている。
気を取り直したステラは、改めて剣聖フォンに質問する。
「やはり、あなたはフォンなのね。どうして、こんなところにいるの? 他のザイノイドたちはどうしたの? ひょっとして、私のバグボットが情報を集められなかったのは、あなたの妨害のせいなのかしら」
「ボットの調査を妨害したのは、もちろん僕さ。申し訳ないけど命令だから許して欲しいな。僕たちが乗っていたバトルセクター《戦闘区画》は、300年前に本船と分離して墜落したんだ。僕以外の戦闘型ザイノイドや、他のデルネクス人は全員死んでしまったと思うよ」
「じゃあ、なぜあなたがハルベルト帝国に所属しているの? 理由を教えてちょうだい」
ステラは、かつての同僚だった剣聖フォンを呼び捨てしている。
申し訳なさそうに答えるフォンを、ステラがさらに厳しく問い詰めた。
「墜落したバトルセクター《戦闘区画》が、100年前にハルベルト1世に発見されたんだ。墜落してからすでに200年経過していたから、僕はこの星での調査作戦は終了したと判断したんだよ。
今の僕の主人は、ここにいるグラハム=ハルベルト5世陛下だ。フォンフリード=ハルベルトなんていう大層な名前をもらって、今では剣聖なんて呼ばれて戦争に利用されているんだ」
悲しそうに説明するフォンの顔を、カズヤは眺めていた。
その話を聞いて、今まで聞いていた剣聖の噂と繋がっていくのを感じた。
剣聖フォンはエルフ族なんかでは無かったのだ。機械であるザイノイドだから見た目の変化がないし、戦い方も変わらない。
その戦闘力の高さを利用することを企んだ代々の皇帝たちが、フォンの管理を引き継いでいるのだ。
ステラのような超越した技術を持っているザイノイドが一体いるだけで、この世界で敵無しになるのは当然だ。
この世界の常識やバランスを、根本から壊しかねないほどの存在だからだ。
冷酷な皇帝のどんな無慈悲な命令に対しても、剣聖が忠実でいられるのも理解できた。
恐らくどんな非情な命令にも、機械であるザイノイドは主人に逆らえずに従ってきたのだ。
彼の悲しい顔は、本心からくるものなのかもしれない。
「ところでフォン、あなたの左腕と眼鏡はどうしたの?」
「最近、視覚センサーの調子が悪くて眼鏡で調整しているんだよ。左腕は長い間酷使したから故障してしまって、自分では治せないんだ。ステラが手伝ってくれれば直せるだろうけど、今の僕たちは敵同士だからね」
剣聖フォンは、さりげなくカズヤたちと敵対していることを宣言した。
カズヤに緊張が走る。
「マスター、フォンは戦いに特化した戦闘型ザイノイドです。気を付けて下さい」
「戦闘型ってどういうことだ?」
「情報処理型の私と違って、人を殺すことが許可された機種です。戦闘力も桁外れで、私やマスターでは到底勝てません」
いつもの軽口ではないことから、本気の忠告であることが伝わる。
事態を悪化させないために、カズヤは努めて冷静に尋ねた。
「グラハム皇帝、これはいったいどういった状況でしょうか。あの名高い剣聖フォンを私たちに紹介して頂けるのでしょうか?」
「ハハハッ! 貴様らにわざわざ紹介するはず無いだろう。この黄金の荒鷲を見ろ。儂はアビスネビュラで序列第3階級にいるのだ。我々に逆らうとは、エルトベルクも馬鹿な真似をしたものだ」
グラハムが金色のバッジを見せびらかして自慢してくる。あのバッジがアビスネビュラでの階級を表すものなのか。
余計な自慢をしてくれたおかげで、アビスネビュラの階級の仕組みがおぼろげながら分かってきた。
ゼーベマンたちの話も総合すると、アビスネビュラはおそらく王族や有力者など特別な地位や権力を持つ者しか入れない組織なのだ。
ゼーベマンのように国の要職にいたり、テセウスのようにスカウトされてきた人物は第6階級にいる。
シデンのような中規模国家の王族が第4階級ということは、アリシアのような小国の王族だったら第5階級に位置するのだろう。
グラハムのような大国の王族が第3階級で、ジェダのような国家をまたぐギルド総帥が第2階級ということだ。
そうなると、第1階級にいる者がトップとして君臨しているに違いない。
「貴様たちを捕らえるように上から指示が出ている、生死は問わないとな。今までもエルトベルクで未知の技術が使われているとの報告を不思議に感じていたが、フォンの仲間なら納得がいく。お前たちザイノイドがいるのなら、墜落した本船もどこかにあるのだろう。宇宙船はどこにあるのだ、言え!」
態度をガラリと変え、すっかり本性を隠さなくなったグラハムは、カズヤたちを脅すように怒鳴りつけた。
宇宙船の存在まで嗅ぎつけているのは厄介だ。
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