133話 緑の髪の美青年
大広間を見回すが、ピーナの姿が見えない。
舞踏会で踊るまでは、カズヤの隣で美味しそうに料理を頬張っていたはずなのだが。
「あっ、ピーナ!」
半透明になったピーナが、迎賓室に飾られている高価そうな壺を触っている。ピーナの頭の高さ程もある大きな壺をのぞき込もうとしているが、いまにも倒れそうだ。
カズヤは大広間であることを忘れ、全力で駆け寄った。
壺が倒れる寸前で受け止める。
「おいおいピーナ、勘弁してくれよ! こんな高そうな壺を割ったらどうするんだよ!?」
「すごく大きいから、中に何か入っているかなって気になったの!」
壺を元の場所に戻すと、カズヤはピーナの腕を掴んで引っ張ってくる。
「さっきまで、お行儀よくご飯を食べていただろう」
「つまんなくなって、雲ちゃんと隠れんぼしてたの! そしたら地下に真っ暗な廊下があったり、せまい部屋があったから遊んでたんだよ!」
「おい、カズヤ。この城はやけに複雑な造りをしているぜ。変なところから外に出れたり、せまくて暗い通路が多すぎる。魔物でも潜んでいるかもな」
真面目な顔をした雲助が、物騒なことを言い始める。
「分かった分かった。とにかく、もうすぐ終わるからじっとしててくれ」
ピーナはカズヤの隣に大人しく座ると、特別に運ばれてきたデザートにかぶりつくのだった。
*
次の日。アリシアはハルベルト帝国の大臣達との会談があるため、バルザードと共に隣の建物へ向かっていた。
カズヤたちは留守番だ。護衛は一人までという条件が付けられていたためだ。
「お部屋から出られないなんて、つまらないよね」
ピーナは部屋の中で雲助と戯れながら遊んでいる。
取り残されたカズヤとステラとピーナは、与えられた部屋で待機していた。
「一人だけって大丈夫なのか。ここは外国だよな」
「この世界の外交の場では常識のようですから、仕方ありません」
三人が時間を持て余していたとき、部屋のドアをノックする音がした。
カズヤがドアを開けに行く。
なんとそこにはグラハム皇帝が立っていた。皇帝自ら直々に、カズヤの部屋を訪れたのだ。
「どうだねカズヤ殿、昨日のパーティーは楽しめたかな?」
「こ、これは皇帝陛下。ええ、それなりには……」
予想外の訪問にカズヤの笑顔が引きつる。
カズヤは、どうもこの人物が苦手だった。
「君たちに是非とも会わせたい人物がいるのだ。一緒に来てくれないかね」
グラハム皇帝は付いてこいと言わんばかりに、背を向けて歩き出した。
皇帝のお願いを断るわけにもいかずに、カズヤはステラとピーナに声をかけて後ろをついていった。
グラハム皇帝がカズヤたちに会わせたい人物とは、一体何者なのか。
落ち着かない表情で、カズヤは皇帝に続いて広い城内を歩いていく。
やがて、ある一室に案内された。
「さあ、ここだ」
皇帝に促されて、カズヤたちは部屋に入る。
そこには、丸い眼鏡をかけた美しい人物が待ち受けていた。
顔だけ見ればきれいな女性のように見えるが、肩幅はしっかりしていて身長も高い。珍しい緑色の真っ直ぐな髪の毛と、大人しそうな整った繊細な顔立ちだ。
身長は175cmほどで、カズヤよりも少し背が高い。物静かな様子には似合わない重厚で無骨な鎧を着ている。
手には、ついさっきまで読んでいた形跡がある本を持っていた。
そして、その表情はどこか悲し気だ。
「……あ、あなたは!? まさか、剣聖フォンフリードって……!」
その緑髪の人物を見て、初めて声を出したのはステラだ。
ステラがここまで驚くのはめったにない。
ステラの言葉を聞いて、今度はカズヤが驚いた。
(まさか、この大人しそうな人物が、あの剣聖フォンフリードだというのか!?)
カズヤは、剣聖が驚くほど美しい男性だという噂を思い出した。
「やあ久しぶりだね、ステラ。この星の周期でいうと308年振りになるかな。元気そうで僕も嬉しいよ」
その人物は、うっすらと笑顔を浮かべて答えた。
美貌だけなら女性に見えてもおかしくないが、覇気のない声は間違いなく男性のものだった。
「おい、フォン! どうだ、こいつらで間違い無いのか!?」
突如として、皇帝グラハムが部屋の扉を乱暴に閉める。
先ほどまでの友好的な態度とは打って変わり、急に声が粗野で荒々しくなる。そしてグラハムも、この人物をフォンと呼んだ。
この物静かな男性が剣聖フォンで間違いなかった。
「はい、間違いありません。この二人はどちらもヒューマノイド型のザイノイドです。ただし、僕のような戦闘型ではありません」
フォンと呼ばれた人物が目を伏せながら、か細い声で答える。
自らは話したくないが、命令だから嫌々答えているような印象だ。
「マスター、重要なことなのでよく聞いてください」
ステラが剣聖の動きを警戒しながら、カズヤに伝える。
その声は、今までに聞いたことが無い程の緊張感をおびていた。
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