132話 皇帝グラハム
カズヤとバルザードは再びアリシアたちと合流する。
そして、いよいよ招待されていたハルベルト帝国の宮殿へと向かった。
大通りを進んで行くと、前方に豪邸かと見まごうほど立派な宮殿の門が現れた。その奥に見える城は、エルトベルクと比べても豪華絢爛でまばゆいほどだ。
アリシアの一団が訪れることは伝わっていたようで、スムーズな案内で宮殿内へと通される。
皇帝と会う前には携行品の検査をされ、武器の持ち込みは制限された。カズヤとステラが持つ電磁ブレードは何に使う物か判断できずに、そのまま携行することが許された。
「よくぞ来てくれた、アリシア姫よ!」
皇帝の謁見の間で野太い大きな声で出迎えてくれたのが、この城の主であるグラハム=ハルベルト5世だった。
ハルベルト1世の時代から、剣聖フォンと共に領土を拡大させてきた張本人だ。
初めて会って対面してみると、大きな口を開けて笑う豪快で自信にあふれた男のようだ。
恰幅がよく、いかにも軍事国家の君主という風体をしている。理知的な国王という雰囲気のアリシアの父とは、真逆のタイプの為政者だ。
「この度は、お招き頂きまして光栄です。こちらは従者のバルザードです」
ピーナと雲助も付いてきているが、さすがに皇帝には紹介しない。
「おお。冒険者バルザードの勇名は遠いこの地にも轟いておるぞ。その名に恥じぬ剛健な男のようだな」
バルザードは何も答えずに頭を下げる。
そして、グラハムはカズヤとステラの方にも身体を向き直す。
「そなたたちが、カズヤ殿とステラ殿か。エルトベルクの遷都事業においては、多大な貢献をしていると聞いているぞ」
「恐れ入ります」
カズヤとステラも深々と頭を下げた。
グラハムは当たり前のように言及したが、エルトベルクの情報もしっかり手に入れている。
こちらから挨拶をする前に、カズヤとステラの名前を言い当てられるのは普通ではない。
緻密な情報網に恐れ入るが、エルトベルクにスパイを紛れ込ませているのかと不安もよぎる。
「今日はそなたたちの歓迎会だ。盛大な会になるよう奮って準備しているぞ。難しい話は明日にしよう、今日は存分に楽しんでくれ!」
大口を開けてグラハムが言うと、謁見の間から出て行った。
グラハム皇帝は戦争を仕掛ける好戦的な人物だと警戒していたが、第一印象は肩透かしだった。
すぐに家臣団が現れて、アリシアたちを大広間へと案内する。
大広間の天井に飾られた巨大なシャンデリアは、帝国が建国された数百年前から伝わるものだという。
壁にはハルベルト帝国の大きな国章が堂々と描かれており、その周囲には周辺国家の国旗が並べられている。
友好国といえば聞こえは良いが、武力で組み伏せた占領地、属国のようなものだ。国旗の大きさも、帝国と比べて小さく描かれているのは、わざとなのだろう。
大広間には各国から集められた魚や肉、果物といった名産品と料理に、美酒が用意されていた。
豪華絢爛という言葉が、この場には似合っている。
大広間全体を見下ろせる正面奥に、長くて立派なテーブルが中央に向かって置かれていて、皇帝グラハムとアリシアが並んで座っていた。
グラハム皇帝の挨拶が終わると、歓迎のパーティーが始まる。
大広間の中央には広々としたスペースがあり、そこで舞踏会も開かれるそうだ。招待客はダンスに誘われると説明され、踊りなど全く知らないカズヤはとまどった。
やがて楽団による音楽が演奏され、食事のあとに舞踏会が始まった。
主役であるアリシアは大人気だ。
次から次へと貴族の男性達が声をかけてきて、休む暇は一瞬たりともない。
さすが、王族のアリシアはこのような舞踏会に慣れているようで、落ち着いた優雅な舞いを見せていた。
ダンスの腕前も見事なものだ。綺麗な赤い髪が、踊りの動きに合わせて軽やかに揺れている。
「ねえ、カズヤも一緒に踊りましょうよ」
お誘いの男性たちの行列が一段落すると、アリシアがダンスに誘ってきた。
「い、いや、さすがに俺は……」
舞踏会が開かれることを想像していなかったカズヤは、何の準備もしてきていない。そもそも元の世界でも、このような華やかな場所は苦手だったのだ。
「いいから、いいから!」
アリシアは強引にカズヤの手を取ると、部屋の中央で踊り始める。
アリシアにリードされながら、カズヤは必死に手足を動かす。しかし案の定、無様な踊りで周囲の失笑を買ってしまった。
「マスター、他の男性の踊りを真似すればいんですよ」
少し離れた場所にいたステラは、舞踏会場ですぐに踊り方をインプットしていた。
その場で即席とは思えない完璧な踊りを披露する。
そんなステラの前には、その美貌と踊りを目当てに男性の貴族達が列を作っていた。しばらく忘れていたが、ステラも相当に美人だと言われる見た目をしているのだ。
「マスター、私がこんなに人気があるとヤキモチを焼きますか?」
ダンスを終えたステラが、楽しそうにカズヤに尋ねる。
「もう、それどころじゃないよ。こんな恐ろしい所にいると気が気じゃない。街の建設をしている方がはるかに気楽だよ」
カズヤは、舞踏会場からすぐにでも逃げ出したかった。
「……あれ、それよりもピーナはどこだ?」
大広間を見回すが、ピーナの姿が見えない。
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