131話 冒険者ギルド総帥・ルガン
この男が、全ての冒険者のトップにいる総帥――ルガンだ。
2m近くはありそうな大柄な男性だった。
胸板がぶ厚くて、革の上着を突き破りそうなほど盛り上がっている。
無精ひげを生やした白髪交じりの黒髪で、深く荒々しい顔にはたくさんの傷跡が残っていた。
「久しぶりだな、バルザード。よく来てくれた」
「ああ、8年ぶりだな。お前は何も変わってないな、ルガン」
ルガンが差し出した右手を、バルザードが握り返す。
「こいつはカズヤだ。俺様は最近、姫さんと一緒に行動することが多い」
「きみがエルトベルクのカズヤ君か、噂は聞いている。私は24代目冒険者ギルド総帥のルガンだ」
ルガンは、カズヤにも手を差し出してきた。
総帥という名前に警戒していたが、ジェダのような悪賢さは感じなかった。冒険者らしい、さっぱりとした豪快さを感じる。
「それで、俺様を急に呼び出したりして、どうしたんだ?」
「単刀直入に言おう。サルヴィア神聖王国が過去のお前の失敗を帳消しにして、冒険者ランクを戻していいと言ってきたんだ。そのうえで、お前に新たな依頼をしたいと言っている」
「……はあ!? 今さら何だってんだ。あの時色々言ってた理由はどうなったんだよ!」
突然の提案に、バルザードは戸惑いと苛立ちを隠せない。
思わず言葉も強くなる。
「まあ、お前が言いたいことも分かる。教会の奴らが言うには、8年前の魔物の件はそもそも依頼ミスで、退治する必要がない魔物だったそうだ。遺跡の破壊にも目をつむるということだ」
「なんで、あんな恐ろしい化け物を退治しなくていいんだよ!? しかも、洞窟にあったのは遺跡なんかには見えなかったぜ。あの化け物は結局どうなったんだ?」
「その後、無事解決したらしい」
「あんな化け物を退治できる奴がいるとは思えないけどな。ハルベルトの剣聖でも連れていったのか?」
「俺も知らん。とにかく冒険者ギルドとしては、天狼牙団のような優秀な君たちを頼りにしたいと思っているんだ。ランクを剥奪したことを正式に謝罪するから、冒険者ギルドにまた是非戻ってきて欲しい。君たちでなければ達成できないような依頼がたくさんあるんだ」
「どんな依頼だよ?」
「冒険者ギルドに戻ってくれるなら、すぐに伝えよう」
ルガンが話し終わると、バルザードは押し黙った。
これは大きな誘惑だった。
バルザードの過去の栄光が大きいだけに、再びSランクの冒険者に戻るというのは魅力的な話に聞こえる。
しかし、バルザードが冒険者に戻ってしまうと、アリシアの護衛は続けられない。
アビスネビュラとの対立が続いているなかでバルザードがいなくなるのは、カズヤだけでなくアリシアもかなり困るだろう。
今後もバルザードの力を借りる場面は出てくるはずだ。
カズヤは、バルザードの返事を固唾をのんで見守った。
バルザードは沈黙したまま、何かをじっと考えているようだった。
沈黙が部屋に広がっていく――
しばらくして、バルザードはやっと重い口を開いた。
「……断る。そんな話を受け入れるはずないぜ。今の俺の役目は姫さんの護衛だ。それをやめる気はない」
「冒険者ランクが戻るなんて、こんな話は二度とないかもしれないぞ」
「いらねえよ。かつての仲間も、風の噂ではそれぞれ活躍しているようだ。今さら天狼牙団に戻るつもりはねえだろうよ」
「……分かった。その話はサルヴィア教会にも伝えておこう。急に呼び出してすまなかったな」
ルガンは軽く頭を下げると、退出を促すように部屋の扉を開けた。
「ルガン。ところでお前は、姫さんがハルベルトに来ることを何で知ってたんだ?」
「サルヴィア教会が言ってきたんだ。奴らがなぜ知っているのかは分からんがな」
バルザードは納得いかない顔をしたが、これ以上問い詰めても答えは出てこなそうだ。
挨拶だけ済ませると、バルザードとカズヤは冒険者ギルド本部から出てきた。
「バル、良かったのか? 冒険者に戻るか随分悩んでいた感じに見えたけど」
「別に何も悩んでないぜ。俺様が姫さんの護衛をやめる訳ないだろう。何か裏があると思って色々考えていたんだ。どうも、俺様と姫さんを引き離そうとしている気がしてな」
「確かにそう感じるかもな。でも、そのためにわざわざ冒険者ギルド本部と総帥を動かしたのか。サルヴィア教会とアビスネビュラが繋がっている可能性はあるのか?」
「それは分からん。サルヴィア教会に言われたという建前にしてるだけかもしれん。ルガンは、そんなことをするタイプでは無いと思うが……」
バルザードが口をにごす。
「あの男が冒険者ギルドの総帥なんだな。確かに、ジェダのような嫌な感じはしなかった」
「あいつは強いぜ。おそらく俺様よりも圧倒的にだ」
バルザードよりも圧倒的に強いというのは、なかなか想像できない。
ルガンに対して悪い印象は持たなかったが、サルヴィア教の言いなりになっている可能性もある。
結局、今回の話の狙いははっきりしなかったが、意味のないことを仕掛けてくるとは思えない。何か大きな災厄に誘導されているのかもしれない。
そんな漠然とした危機感を、カズヤは心のどこかで感じていた。
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