130話 バルザードの過去
「なんでそのルガンって奴が急にバルを呼び出したんだ?」
「俺様の冒険者ランクについて話がしたいって言ってんだ。姫さんと一緒にハルベルトに来るなら丁度いいってな。姫さんが来るのを奴らが知っているのも怪しいんだが、おかしな頃合いに言ってきやがった」
剥奪されたSランクのことだろうか。
それなら、かなり大事な話のような気がするが。
「……なあ、なぜバルが冒険者ランクを剥奪されたのか訊いていいか?」
今までずっと気になっていたが聞きづらかった質問だ。
カズヤは恐る恐る尋ねてみる。
「別に構わないぜ。もう8年も前の話だからな」
バルザードは、歩きながら話し始めた。
*
当時バルザードは、天狼牙団という獣人で構成されたパーティーのリーダーをしていた。
天狼牙団は獣人のなかではトップの強豪パーティーで、数多くの依頼をこなしていた。
あるとき天狼牙団は、サルヴィア神聖王国の北西部にある田舎街から依頼を受けた。
近くの洞窟で見たこともない魔物が出たので退治して欲しい、という依頼だ。
その洞窟はサルヴィア教が管理する遺跡の一つで、許可なく入ることは禁止されていた。
今回は魔物退治ということで特別に許可されたが、いくつか細かいルールを約束させられた。
その約束とは、
・一階層よりも奥深くへは入らないこと。
・魔物を発見できなければ途中でも引き返してくること。
というものだ。
「……なんか、面倒な約束事が多いな」
「サルヴィアに入れば他にも制約が多いんだぜ。少し嫌な予感はしてたんだがな」
バルザードたちが洞窟を訪れたのは、雪が舞う寒い時期だった。
そこは雪と氷で覆われた洞窟で、外と繋がっている場所では雪が積もっていた。
そこで予想外の事故が起こってしまう。洞窟内を探索しているときに雪崩が起こったのだ。
天狼牙団の仲間が巻き込まれて、奥底へと滑落してしまう。
一階層よりも奥深くへ入るのが禁止されていたのは分かっていたが、仲間を助けるためにはやむを得ない。
バルザードたちは約束を破り、更に奥へと入っていった。
そしてそこで、見たこともない変わった人工物を発見したのだ。
地面に埋められていたものが、雪崩の影響で外に露出してしまったようにも見えた。
「洞窟の奥なのに人工物があったのか。どんな物だったんだ?」
「何かは分からないんだが、馬や家畜くらいの大きさの物がゴロゴロ転がってるんだ。周りには小さな残骸なんかも落ちていたし、材質なんかは見たことがない。ただ半分以上は雪にうまっていたし、風化していたからよく分からなかった」
「その洞窟はサルヴィア教の遺跡なんだよな」
「そうなんだが、住居や建物では無かったから遺跡の一部とは思わなかったな。人が作った物であるのは間違いないと思うんだが……」
そして、バルザードたちが無事に仲間を発見して洞窟から脱出しようと試みたとき、さらなる事件が起きた。
今までに見たことがないような、とんでもない化け物と出会ってしまったのだ。
「あいつは、今まで出会ったなかで一番恐ろしい魔物だったぜ。巨人みたいにでかいうえに知能が高いんだ。あれ以上のヤバい奴には、今まで出会ったことがない」
バルザードたちでは全く手に負えず、全員で必死に逃げ出した。
当時、獣人のなかで最強パーティーだった天狼牙団が、全く手を出せないほどの強さだったのだ。
「その経緯を冒険者ギルドに報告したら、教会が騒いで文句を言ってきたんだ」
サルヴィア教会は神経質にも、天狼牙団の落ち度を事細かに指摘してきた。
・依頼されていた魔物を退治できなかった任務未達成のペナルティ
・地下奥深くへ行かないという約束を破ったルール違反
・雪崩を引き起こし、宗教的に貴重な遺跡の破壊
「責任をとって、リーダーである俺の冒険者ランクの剥奪と、パーティーの解散を要求してきたんだよ」
このことが原因で、冒険者ギルドはリーダーであるバルザードの冒険者ランクの剥奪と、パーティーである天狼牙団を解散せざるを得なくなったのだ。
「なんか厳し過ぎないか? 任務未達成やルール違反くらい、冒険者をやってたら割とありそうだけど」
「俺様も当時はかなり厳しいと思ったな。でも不甲斐なく任務に失敗したうえに遺跡まで破壊して、魔物には手も足も出ずに逃げ出したんだ。仕方がないと諦めたよ」
カズヤには、バルザードたちが洞窟の奥深くまで入ったことに、サルヴィア教会がヒステリックになっているようにしか感じなかった。
その冒険者ランクの剥奪について、ルガンという男は今さら何を言いたいというのだろうか。
*
バルザードの話を聞いているうちに、カズヤたちは冒険者ギルド総本部に到着した。
巨大な首都の中でも存在感を発揮するほど、高くてがっしりとした石造りの建物だ。多少の魔物に襲われても跳ね返せそうなくらい重厚な造りだった。
バルザードが慣れた足取りで中に入ると、受付の女性に名前を告げる。
そのまま奥の部屋へと案内された。
女性の案内で廊下の突き当りの一番立派な扉が開けられると、なかには大柄の男性が待っていた。
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