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013話 街鳴り

 

「な、なんだって!? 衛星って……、そんなこともできるのか!?」


 衛星を打ち上げるなんて、もっと大ごとだった気がするのだが。



「本来は調査を開始した300年前に宇宙から放出する予定だったのですが、その前に墜落してしまったんです。衛星が3機ほどあれば、おおまかな惑星の地形や都市を把握できます。必要があれば攻撃も可能です」


 宇宙から攻撃できるなんて、想像するだけでも恐ろしい。


 だが、衛星があれば敵や魔物の監視だったり、天候予測にも使えるかもしれない。


 この世界には存在しない手段を持っておくのは、メリットも大きいだろう。



「とりあえずわかった、許可するよ。ただ、ここは宇宙船からかなり離れているけど大丈夫なのか?」


「このくらいの距離であれば遠隔で操作できます。情報がそろい次第報告します」


 衛星打ち上げという大事業を、ステラはあっという間に終わらせる。



「衛星を使えるということは、世界中のどんな場所でも調べられるようになるのか?」


「いいえ。いくつかのボットたちから、この世界で侵入できない場所があるという報告がきています。おそらく”魔法障壁”と呼ばれる防御魔法がかかっている場所には入ることができません。不思議なことに、この世界では科学技術が魔法の一種として扱われているようです」


 魔法障壁という名前からすると、侵入や攻撃を防ぐための魔法ということか。


 ブラスターの光線が、魔法と認識されていることと同じ理由かもしれない。



「その魔法障壁は、通り抜けることはできないのか?」


「何かで覆われているように守られていて通り抜けられません。ただ、通過している人もいるようなので、何かの暗号や魔法が必要なのかもしれません」


 カズヤはステラの持つ科学力に驚いていたが、この世界にはそれを以ってしても理解できない魔法が存在する。



「そっか、この世界にはそんなものが。ステラでもわからないことがあるんだな」


「私たちザイノイドは、物質や運動を観察するところから考えます。しかしこの世界の魔法は、目に見えない想像力から炎などの物質を具現化します。出発点が真逆なので理解するのが難しいのです。最後には同じところにたどり着くとは思うのですが……」


 ステラなりに、何とか魔法を理解しようと努力している。


 この世界の仕組みを理解するには、まだまだ時間がかかりそうだった。



 *


 エストラの街を歩き続けていくと、やがて向こうの方から騒々しい街の喧騒が伝わってきた。


 落ち着いた店舗が集まったところから、人ごみが多い雑然とした市場にたどりついたのだ。


 市場には多彩な露店や商店が立ち並んでいていて、鮮やかな色彩の布、奇妙な形状の果物や野菜が並べられている。


 そこでは人々が、思い思いに買い物をしていた。



「おっ、市場か。どんな物を売ってるのかな」


 食べることが好きなカズヤは、異国の野菜や果物などを見るとテンションが上がる。


 カズヤがワクワクしながら市場に入ろうとした、その時。



 ボオオオオーーーッッ



 突如として風が吹きすさぶような大きな音が聞こえてきた。


 街全体に低く響き渡るような音だ。しかし、周りを見ても風は吹いていない。正体不明の音が、街中に広がっていく。



 不思議そうな顔で辺りを見回すカズヤを見て、アリシアが笑って説明してくれる。


「エストラ名物の『街鳴り』よ。夕方近くになると、どこからともなく聞こえてくるの。原因はわからないんだけど、しばらくしたら鳴り止むわよ」


 異世界にはそんな現象もあるのか。


 風が吹いていないのに、音だけ聞こえてくるのが不思議だった。



「カズヤさん、やはりこの街は何かおかしいです。風の音が、なぜか地面を伝わって聞こえてきました」


「そうだったのか、俺はまったく気づかなかったけど……」


 ステラが訴えかけるが、カズヤは自信なく答える。


 この世界に来て間もないので、まだまだわからないことの方が多い。



「そうそう、二人とも今日の夜は楽しみにしていてね。王宮で晩餐会を開いてもらうように頼んであるから。ぜひお礼がしたいの」


「お、王宮で食事だって!?」


 思いがけない申し出に、カズヤは絶句する。



 一般庶民のカズヤにとって、王宮へ行くだけでもとてつもなくハードルが高い。ましてや食事までするなんて、緊張で食べ物が喉を通らないような気がした。


 元の世界でさえマナーに疎かったのに、この世界のしきたりなんか何も知らない。



「お父様も、私を助けてくれたお礼を言ってくれるはずよ。ここ数年は体調を崩してしまっているから、長い時間は無理だけど」


「アリシアのお父様ということは、この国の王様か……」


 カズヤは、よりいっそう緊張感が高まってきた。



「陛下は民の話に真剣に耳をかたむけたり、困窮した現地を何度も訪れるなど、国民の信頼も厚く慕われている。お前は姫さんを助けたんだから、何も心配することはないさ」


 顔色が変わったカズヤを見て、バルザードが励ましてくれる。



「それにしても、ちょっとお腹がすいたわ。夜まで時間があるから、少しくらいなら大丈夫よね。バルくんお勧めある?」


 アリシアは食べ物の屋台が並ぶ方に、ふらふらと吸い込まれていく。


 屋台の前を行き来して、何を食べようか悩みはじめた。



「姫さん、それならボーボ鳥の肉が一番美味いですぜ。柔らかくて舐めるように軽く噛むと、中から肉汁が溢れてくる。薬草の香りが口の中に広がってくるのが最高ですぜ」


 狼顔のバルザードが、ニヤリとしながら勧めてくる。


 本当に美味そうに聞こえてくるから不思議だ。本格的な食レポを聞いて、カズヤもよだれが出そうになる。



 ボーボ鳥の屋台を見つけると、バルザードが注文して支払いを済ませてくれる。


 その屋台を切り盛りしているのは、カズヤの目から見て小学生くらいの少年だ。カズヤは屋台の少年が料理する様子を興味深く見守った。


 鉄板の上に串焼きを乗せて何かを唱えると、鉄板の下にある木の枝に火がついた。



「おお、すごい! 君も魔法が使えるのか」


「ただの生活魔法だよ。お兄ちゃん、使えないの?」


 屋台の少年は不思議そうな顔で、カズヤに尋ねてくる。



「カズヤ、着火の魔法くらいなら誰でも使えるわ。水をちょっと出したり風を起こしたりする程度の生活魔法は、ほとんどの人が使えるんだから」


 アリシアが串焼きを手にしながら教えてくれる。


「なるほどな、普段の生活から魔法を利用してるんだな」


 この世界での魔法の普及具合に、カズヤはひとしきり感心した。



 すると思いがけず屋台の少年が、串焼きを一本さし出してきた。


「魔法が珍しいお兄ちゃんに、おまけしてあげるよ。久しぶりに褒められてちょっと嬉しかったんだ」


「いいのかい?」


 少年の笑顔につられて、カズヤは串焼きを受け取った。



 この機会にカズヤは、魔法についてアリシアに聞いてみることにした。


「アリシア、この世界の魔法の仕組みを簡単に教えてくれないか?」


「魔法の仕組み……? うーんと、呪文を唱えて腕に紋様が浮かんできたら、体内の魔力を相手にぶつける感じかしら」


「その魔力って、誰にでもあるものなのか? 俺の身体には魔石が無いみたいんだけど」



「魔石が無い人に出会ったのは初めてだから、私にもわからないわ。魔力が少ない人は簡単な魔法しか使えないけど」


 魔力が少ない人は簡単な魔法しか使えない。


 ということは、魔力が無い人は魔法を使えないということではないのか。


 自分の分析が当たっているような気がして、カズヤは肩を落とした。せっかく異世界に来たというのに、魔法が使えないのは残念すぎる。



「魔法について詳しく知りたいなら、晩餐会の時にでも私の研究室に来てみる? もう少し詳しく説明できると思うわ」


「本当か!? ぜひ教えて欲しいな」


 思いがけない提案に、カズヤは胸をはずませた。


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