126話 祭りの終わり
「カズヤ、あそこよ!」
アリシアが指さす方向に、バニラスが行き場を失って立ち止まっている。そこは先端が崖になっている街の高台で、道が行き止まりになっていた。
追い詰められて逃げ場をなくしたバニラスを、カズヤがやっとのことで捕まえる。
「ふう、手間をかけさせやがって」
「もう逃げ出しちゃ駄目じゃない」
アリシアが、抱きかかえたバニラスの頭を優しく撫でる。
カズヤはザイノイドになったとはいえ、俊敏で小さな魔物を追い掛ける難しさを実感していた。
「わあ、カズヤ見て、ここの景色……」
気が付くとアリシアが目を輝かせて、崖の向こうの景色を眺めている。
そこには光り輝くセドナの美しい夜景が広がっていた。空には星たちが不思議な軌跡を静かに描いている。
いつもよりお祭りの灯りが増えていることもあり、キラキラした幻想的な光景をつくりだしていた。
「ここは街の夜景を見る穴場なんだな」
カズヤとアリシアは、二人並んで見入ってしまう。
するとカズヤはその場所の暗闇に紛れて、たくさんのカップルがいちゃついていることに気が付いた。
あらためて見回すと、目のやり場に困るほどだ。
カズヤたちが慌ただしく駆け込んで来たことに、誰も気を止めていない。二人だけの世界を楽しんでいた。
「これは……ちょっと邪魔しちゃ悪いな」
しかしアリシアは気にも留めずに、セドナの夜景を見入っている。
「とてもきれい……。セドナにこんな場所があるなんて知らなかった。また、ここにカズヤと見に来れるといいわね」
「そうだな。アビスネビュラの危機が去って、平和になったらかな」
「……えっ、そんなに先の話なの!?」
カズヤの返答に、アリシアは明らかに落胆した表情を浮かべる。
少しだけ機嫌をそこねながら、アリシアはバニラスを抱えて魔物カフェまで戻っていく。
カズヤは自分がどこを間違えたのか分かっていなかった。
「あれ、マスター。何処に行ってたんですか?」
ステラは魔物に夢中で、カズヤたちが外に出ていったことにも気付いていなかった。これではいくら内部通信をしたって意味がない。
いつまでも遊びたがるステラを説得して、みんなは魔物カフェを後にするのだった。
カズヤたちは再び屋台巡りを続け、他の屋台や食事を楽しんだ。
やがて祭りの灯が少しずつ消えていく。
その様子を、アリシアが寂しそうな顔で眺めていた。
「今までの星祭りで一番楽しかったわ。終わってしまうのが残念ね……」
「こういう時は、記念写真をとったりしたんだよな」
カズヤは、日本での祭りのことを思い出した。
「撮りますか? 立体的なホログラムになりますけど」
ステラの提案に乗っかって、最後にみんなで記念ホログラムを撮影する。撮った映像は3次元ホログラムとして保存された。
映像となった3次元ホログラムを実寸大で確認すると、まるで自分たちを周りから覗き込んでいるような不思議な感覚に襲われた。
「自分の背中が見えるなんて不思議。とっても素敵な思い出ね」
アリシアの口から、満足げなため息がもれる。
さすがエルトベルクの一年で最大のお祭りだ。
カズヤたちは星祭りを十分に堪能したのだった。
*
星祭りから数日後。
カズヤは新しい首都となる、セドナ新市街を見渡す城壁の上に立っていた。
「おお、ただの荒れ地だった頃と見比べると、大違いだな」
目の前には新たに完成した街並みが広がっている。
旧首都エストラを模して作った町だったが、道路の幅を広くしたり井戸を増やしたりと、利便性は高められている。未来への希望を感じさせる造りだった。
そんな街の様子を見ていると、この新都市もかなりの部分が完成してきたことが実感できた。
エルトベルクの新たな首都の名に恥じない、完全な都市機能を発揮する日も近い。住む人々にとっては自慢の街になりそうだ。
そして、カズヤとステラが作り出したトラックによる住民の移動も順調に進んでいた。旧首都エストラからトラックに乗って、住民たちが次々と移住してきている。
エストラに残ることを選んだ人たち以外は、セドナに移住することになっていた。
引っ越してきた住人もこの街に慣れてきたのか、行き交う人々の顔も明るく感じられる。もはや足下の地面が崩落する危険におびえて生活する必要は無かった。
エストラからセドナへの遷都作業は、ゴンドアナ王国との戦いで一度後戻りして以後は、順調に進んでいる。
そこには、エルトベルク王国と周辺国との関係性が変わってきていることも関係していた。
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