123話 仮装
エルトベルク王国の新首都――セドナの旧市街は、いつもと違って賑やかで楽しそうな雰囲気に包まれていた。
旧市街を歩く人々の衣装も普段とは違っていて、みんな思い思いの衣装を身につけている。
「……それにしても、この世界にもハロウィンみたいなお祭りがあるとは思わなかったよ」
「マスター、何ですか"はろうぃん"って?」
そう言いながらカズヤは、ステラが映し出したホログラムで自分の衣装を確認している。
カズヤが身に着けているのは、ステラが作成したばかりの昔の日本の侍が着ていた衣装だ。
領主館の広々とした玄関で、皆でお祭りに行く衣装の最終チェックをしていたのだ。
「それにしても、あれだけアリシアにお祭りのことを念押しされていたのに、今日まで全く準備していないなんて信じられません。マスターの物忘れが悪化してるんじゃないですか?」
「いやぁ、こんなに本格的なものだとは思ってなくてさ」
ステラの苦情を、カズヤは笑って聞き流す。
今日のお祭りと衣装の準備については、以前からアリシアに何度も伝えられていた。
しかし、こんなに大きなお祭りだと思っていなかったカズヤは、何も準備しないまま当日を迎えてしまったのだ。
お祭りの規模と本気度を知ったカズヤは、慌ててどんな衣装を着るのか悩んだ結果、侍の衣装を着たいと言いはじめた。
しかし、街の服屋はすでに予約でいっぱいだ。
困り果てたカズヤを見て、仕方なしにステラが協力を申し出たのだ。
ステラはカズヤの要望を正確に聞き出すと、すぐさま布地と針と糸を持ち出して瞬時に衣装を製作してしまった。
ステラが作成した袴は二股に分かれていて履きやすいうえ、それぞれに足を入れられるので歩きやすくなっている。
上半身には鮮やかな濃い水色をした、長袖の羽織りをまとっている。腰には帯が巻かれていて、刀の代わりにいつもの電磁ブレードを差していた。足には足袋と草履を履いている。
まさにカズヤのイメージ通りの格好だった。
カズヤはホログラムを見ながら至極満足げに微笑んでいたが、衣装をまとっている中身はいつもと何も変わらない。
短い黒髪は無造作にはね返っていて、黒い目はどこかぼんやりしていて地味でぱっとしない顔立ちだ。
しかし物事に取り組む姿勢はひたむきで、どこか優しさと寛容さが感じられる。言葉よりも堅実に行動で示す態度は、周囲からの信頼も厚かった。
「ステラはいつもと同じメイド服なのか?」
「この服装は譲れません。でも、いつもとは違いますよ。まさか気が付いていないんですか?」
女性の身なりの変化に鈍いカズヤに呆れながら、ステラは軽く息を吐いた。
ステラはいつものメイド服を身にまとっているが、流れるような美しい青髪の上には黒猫の耳飾りがのっている。腰には猫型の尻尾が揺れていた。
最近ステラが好んで着ているメイド服は、スカートの丈が膝上くらいで、身体の細いラインが強調されているタイプだ。
白いフリルやレースには清潔感があり、ステラの人形のような非現実的な美しさを際立たせていた。
「まったくもう、カズヤったら。ステラが居なかったらお祭りに間に合わなかったわよ。こうなりそうだから、早目に伝えておいたのに……」
アリシアは、カズヤに向かって口を尖らせる。
そのアリシアの装いも、いつもとはまるで違っていた。
ステラを彷彿とさせるメイド服を着ているのだが、色は赤と白を基調としている。
赤いメイド服に負けないくらい綺麗な赤髪は、まるで夕焼けに照らされたように明るく輝いている。
同じように赤みを帯びた瞳には、燃えるような熱意が宿っていた。
両腕の指先から肘にかけて大きな火傷の痕が見えるが、すでにアリシアは隠そうともしていない。
幼少期から付き合ってきた魔力過剰症を乗り越えて、その経験を活かしてきたという自負心に溢れているからだ。
動くたびに赤いメイド服のスカートの裾がふわりと揺れ、その動きや仕草には王族としての上品さが感じられた。
「アリシアがそんな服装をするなんて意外だよ」
「絶対似合うからってステラに勧められたんだけど、少し変かしら?」
アリシアは少し自信なさそうにクルリと回転し、自分の衣装を見回した。
「いや、本当にぴったりだよ。王女様がメイド服を着るのが意外でさ」
「今日は、特別な日だからね」
カズヤに褒められると、アリシアは頬を赤くして照れくさそうに笑った。
「ピーナはお祭りなんて初めてだよ! すごく楽しみ!」
アリシアの隣ではエルフ族の子どもであるピーナが、目を輝かせて飛び跳ねていた。
長い間スクエアと呼ばれる収容所にいたピーナは、お祭りなんか見たこともない。
脱出後はしばらくゴンドアナ王国に滞在していたのだが、逃亡中は参加する余裕なんかなかったのだ。
一緒に脱出してきた家具職人のムルダはセドナの旧市街に住んでいるが、ピーナは以前のスクエアの時と同じように、カズヤと一緒に領主館に住んでいた。
そんなピーナもお祭りに備えて、魔物を模した上下つなぎの着ぐるみを着ていた。
エルフ耳の尖った部分は布地で柔らかく隠されていて、魔物の口が大きくあいた部分にピーナの顔がおさまっている。
「ピーナ、それは何ていう魔物なんだ?」
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