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120話 犠牲

 

「くそ、役立たずめ。私がとどめを刺してやる。我らに逆らったら、命が無いことを思い知れ!」


 ジェダが魔法を唱え始めた。


 それは今まで見たどの魔法よりも強大な魔力が集まっていた。魔術ギルド総帥として世界に君臨する、ジェダの破壊的な魔力が込められていた。



「……死ね、シデン!」


 ジェダの極大魔法がシデンを襲う。


 辺りを強烈な光が包み込んだ。




 しかし、その魔法はシデンに直撃しなかった。




 その魔法は、イグドラの盾と身体によって防がれた。




 魔法は盾を貫通し、イグドラの身体を焼き尽くす。




 咄嗟にシデンの前に飛び出したイグドラが、ジェダの魔法を防いだのだ。




「イグドラ、お前……」


 シデンが驚いた表情でイグドラを見つめ、倒れたイグドラの手を握る。


「黒耀の翼で、盾役は俺の仕事だろう。シデン……」


 息も絶え絶えのなか、イグドラが笑う。



「……すまない、シデン。俺は図体ばかりでかくなったが、心は子どものように臆病だった」


 イグドラは自分の情けなさに、涙を浮かべているように見えた。


「始めはアビスネビュラの権力を恐れて奴らの支配下に入った。でも、お前らと一緒に行動して、恐れる物は何も無いねえと学んだはずなのにな。最後の最後で、臆病心が悪さをしやがった……」



 イグドラの腕がだらりと垂れ下がる。


「シデン、許してくれ。お前ならできる。アビスネビュラに負けんなよ……」


「……イグドラ」


 最後の一言を言い終わったイグドラは、そっと目を閉じた。



「シデン様、イグドラは……」


 リオラが恐る恐る声をかける。


「ああ、心臓が止まってしまえば魔法は効果がない」


 シデンが立ち上がってジェダに向かう。



「奴の遺志を継いでやる。何度でも言おう、タシュバーンはお前らの言いなりにはならない。我が国に刃を向けたことを、絶対に後悔させてやるぞ!!」


「くそ、イグドラの奴め。最後の最後に裏切りおって。最後まで役に立たなかったな」


 ジェダは冷酷にイグドラを使い捨てた。



「黒耀の翼め、お前らを殺すために特別な人形を用意してやる」


 ジェダが大きな魔法陣を生み出す。


 すると、サークルの建物を破壊しながら、地下から巨大なドラゴンが姿を現した。


 その身体の一部は岩や金属で覆われていて、奇怪な動きをしている。まともな生き物の動きではなかった。



「ドラゴンゴーレムとでも呼んでやろうか。ドラゴンと魔導人形を融合させた未知の魔物だ。どれだけの戦闘力があるのか、お前らで試してやろう!」


「俺たちを指名のようだな。イグドラの借りは返してもらうぞ!」


 シデンたちは、ドラゴンゴーレムに向かっていった。



 *


 その間にも、サークルから出ていった魔導人形たちはエルトベルクに向けて行進を続けていた。


 この2ヶ月間、エルトベルクへの直接の侵略こそなかったが、やはりアビスネビュラは裏で攻撃する手段を練っていたのだ。



「マスター、レンダーシアの騎士団が、魔導人形たちへ攻撃しています!」


 ボットが捉えた映像を、ステラが報告する。


 カズヤたちとの戦いが、彼らの気持ちを少しでも変えたのかもしれない。自国の首都が破壊されるのを見て、レンダーシアの騎士団も我慢できなかったのだろう。


 レンダーシア軍が、支配者であった魔導人形への反撃を始めたのだ。



「リナ、あの魔導人形の行進を止めるにはどうしたらいい?」


「ジェダが首から下げている”強奪のアミュレット”を奪えば、魔法の効力は無くなるわ。あれさえピーナに取ってきてもらえば……」


「……ピーナに!?」


 たしかに、サークルにたどり着いてからピーナの姿を見ていない。



「カズヤ、あそこ!」


 アリシアが指を差した先に、ジェダにしがみつく半透明のピーナの姿があった。雲助がピーナの身体を必死に押し上げている。


「ピーナにお願いしていたの。あのアミュレットさえ無くなれば、3万体の魔導人形を支配する魔法は使えなくなるはずだって」



「な、なんだこのガキは!?」


 半透明になったピーナが、幽霊のようにジェダの首にしがみついている。そして、短い手を頑張って伸ばすが、なかなかアミュレットをつかめない。


「デオちゃんを、いじめないで!」


「このガキが、どこかへ行け!」


 ジェダは必死でピーナを追い払おうとするが、どんな攻撃もピーナの身体をすり抜けてしまう。



「ええい、邪魔だ!」


 いらだったジェダが大きく飛び下がる。


 ピーナの身体がジェダから離れていく。だが、ピーナの指が引っかかっていた。


 ジェダが離れていく勢いで、ひもが引きちぎられる。


 ピーナの手には、しっかりと強奪のアミュレットが握られていたのだ。



「デオ! ジェダの封印が解けたわ。あなたの魔法で魔導人形たちが街を壊しているの。これは、あなたが望んでいる現実なの?」


「現実は変えられる……僕は無益な破壊を望みません」


 デオが自らの意思で魔法を唱える。


 すると行進を続けていた魔導人形たちの動きが、一斉にピタリと止まった。



「デオめ、なぜ魔導人形を止めた!? エルトベルクを焼き尽くすのだ!」


「一方的な侵略は望みません。なぜ自分たちの街を壊してまで他国を破壊しに行くんですか? 僕には全く理解できません」


「このポンコツめ、命令が聞けないなら壊してやる!」


 ジェダがデオを破壊しようと魔法を唱える。



 だが先回りしたカズヤが、魔法を使わせないようにジェダの攻撃を防いでしまう。


「無様だな、ジェダ。お前より、デオのほうが余程まともな人間に思えるぜ」


「くそ、お前らを皆殺しにしないと気がすまぬわ!」



 カズヤの防御を振りほどいたジェダが、すぐさま強大な魔法を唱える。


 ジェダの腕から放たれた魔法は、轟音と光なって襲い掛かってきた。詠唱時間も短い破壊的な魔法を、たやすく連発してくるのだ。



 ジェダから飛んできた魔法を、アリシアが必死で跳ね返す。


「ねえ、総帥さん。こんな魔法は魔術ギルドでは教えていないはずだけど?」


「愚民どもに全ての魔法を教えるはずがないだろう。この秘儀が使えるのは、選ばれし者だけだ」



 やはり特別な魔法は、自分たちだけで独占している。


 アビスネビュラに忠誠を誓う一部の魔法使いにだけ、みんなが契約している魔法とは別の魔法が使えるのだ。


「期待はしていなかったけど、想像通り魔術ギルドは腐敗しているのね」


 諦めたようにアリシアが大きく嘆息した。



 ステラがブラスターを、より長くて大きなライフルに変形させる。


 ジェダに狙いを定めると、瞬時に発射した。


 しかし、ジェダはレーザー光線を防ぐことなく余裕をもってかわしてしまう。まるで、発射する方向を予期しているかのように光線をかわしている。



「……マスター、こんなことは初めてです。まるで私の攻撃が予測されているみたい」


 攻撃がまるで当たらないことに、ステラは動揺を隠せなかった。


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