118話 裏切者
ジェダは首に掛けていた魔導具を握り締める。
「相手の魔法を奪う”強奪のアミュレット”……。ジェダ、やはりあなたがアーティファクト《古代神器》を使っていたのね……!」
ジェダの首飾りを見て、アデリーナの苦悩に満ちた声がにじみ出る。
ジェダが魔法を唱え始めると、強奪のアミュレットと呼ばれた魔導具が激しく光り始めた。
短い魔法を唱え終わった途端。
眼下の魔導人形が、一斉に頭をあげた。
3万個の頭が一斉にぐるりと回転し、6万個の虚ろな瞳が命令をくだしたジェダの方を静かに見つめていた。
見たくもない恐ろしい光景だった。
たった一つの命令で、3万体もの魔導人形が一斉に動き始めたのだ。
すると壁の端に居る魔導人形が、広場からサークルの外へ繋がっている大きな門を開け放つ。
そして、整然とした動きで3万体の魔導人形の行進が始まった。10列に並んだ魔導人形は、規則正しい動きでサークルの門を抜けていく。
このままエルトベルクに進撃するつもりなのだ。
首都の北側にあるサークルから南方にあるエルトベルクを目指すと、魔導人形たちは自然と首都のど真ん中を行進することになってしまう。
魔導人形の行進を見た市民は、あわてて逃げ惑う。魔導人形は邪魔する建物を容赦なくなぎ倒し、街を破壊しながら行進を続けた。
「何ごとじゃ!? めちゃくちゃな数の魔導人形が街を破壊しているぞ」
そこへ、門番の魔導人形を倒した黒耀の翼が部屋の中へ入ってきた。魔導人形の行進に驚いたゼーベマンが、顔を真っ赤にしている。
「戻ってきたか、シデン」
ジェダは、入ってきたシデンを呼び捨てにしながら向き直った。
「シデン、お前のエルトベルクでのおかしな行動は私の耳に入っている。お前がここにいる理由も、自国の魔導人形が心配だからという詭弁は通用しないぞ。私に逆らうということは、アビスネビュラに逆らうということだ!」
激昂したジェダの声が、部屋に響き渡る。皇太子であるシデンと言えども、自分に逆らう真似は許さないつもりなのだ。
「ジェダ、まさかお前がこの国にいるとはな。まともな国にならなくて当然だ」
「立場をわきまえろ! アビスネビュラの序列を忘れたのか。お前は我々の指示に従って動けばいいのだ」
ジェダは、シデンを完全に見下している。一国の王族よりも、国家を股にかけるギルドの総帥の方が立場が上なのだ。
「勝手に順位をつけたのはお前たちだがな。俺に命令する前に、お前たちアビスネビュラが何を考えているのか教えろ。話はそれからだ」
シデンはジェダに説明を求める。
「簡単なことだ。私たちの目的は、全ての人間たちを魔導人形で管理することだ。現在の支配はまだ手ぬるい。死なない程度に生かして、抵抗できないように支配してやる。もっとも効率のいい方法でな」
ジェダが得意げに説明する。シデンの眉がピクリと動いた。
「そこにはタシュバーンも含まれているのか?」
「当然だ。だが、お前やアビスネビュラに入っている者たちは見逃してやろう。誇りを捨てて頭を下げる者には、息だけできるように飼い慣らしてやる」
シデンは呆れたように鼻で笑った。
「そんな指示を俺が受け入れるとでも思ったのか。俺が民を見殺しにして、自分だけが救われるのを喜ぶ男とでも思っているのか。……馬鹿にするな!!」
タシュバーンの民を物扱いされ、シデンは激昂する。
「お前たちのくだらない考え方はよく分かった。そんなものに俺が従うと思うなよ」
「……シデン、どうやらエルトベルクの悪い影響を受けたようだな。我々アビスネビュラに逆らうなら容赦しないぞ」
ジェダは、シデンの後ろにいる人物へ声をかけた。
「イグドラ、お前の任務はここでお終いだ。シデンを殺せ」
「……なに、お前……!?」
シデンの驚愕する声と、武器を持つ音が聞こえる。
突然の展開に、カズヤはあわてて振り返る。
なんとそこには、腹部から大量の血を流すシデンと、血に濡れた剣を持つイグドラが立っていたのだ。
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