116話 サークル
レンダーシア軍との衝突を回避したカズヤたちは、サークルという施設があるレンダーシアの首都へ向かった。
サークルは首都の北側に位置しているので、ホフラン騎士団長が言うように北の森を抜けていく方が近道だった。
カズヤはその移動中に、気になっていたことをアデリーナに尋ねた。
「リナ、スクエアで一番偉かったギムを牢屋に閉じ込めてきたんだ。全てが終わったら魔導人形との関係を考え直さなければいけない。どうしたらいいと思う?」
「そうね、自我を持たない魔導人形は今まで通りで問題無いと思うわ。でも、自我に目覚めた魔導人形は、生まれたばかりの赤ん坊と同じよ。彼らは自分たちを作った人間を見て、この世界を学んでいるの。だから、自我を持った魔導人形たちとは、しっかり話し合わなければいけないわ」
人間たちは、魔導人形に平和な世界を見せることが出来ていない。そんな世界を見たら、攻撃的になるのも無理はないということか。
逆を言えば、愛情を持って接すれば、デオのように優しい心をもつ魔導人形も生まれてくるということだ。
「魔導人形も悪い奴らだけじゃないのか。敵の中にも、探せばいい奴がいるってことか……」
横で会話を聞いていたバルザードが、納得したようにつぶやいた。
魔導人形を一括りに考えるのが間違っているのかもしれない。自我と知性を持った存在なら、一人ひとり個性は違うはずだ。
「人間に造られた存在という意味では、魔導人形とザイノイドに違いを感じません。ある程度の知能を持てば自我を持つ可能性だってあります。そのなかには、創造主である人間に歯向かう者もいれば、協力してくれる者もいるはずです。そのような味方を沢山作るべきではないですか」
魔導人形の話になると、ステラの言葉も熱を帯びる。
「そうね、カズヤ。残念ながらレンダーシア公国は、攻撃的な魔導人形が支配しているわ。私たちがスクエアにいた時のように、魔導人形が人間の生活を監視しているのでしょうね」
レンダーシア公国全体が奴隷施設だったスクエアのように監視されている。
アデリーナの恐ろしい推測に、カズヤは声が出なかった。
*
首都に到着したカズヤたちは、何食わぬ顔で冒険者として街の中へ入った。ホフラン騎士団長の言う通り怪しまれることはない。
街の様子を一見すると、エストラやセドナと変わりはなかった。
だが、街角や通りのあちこちに魔導人形が憲兵のように立っていて、市民の行動を見張っている。ここでの暮らしが魔導人形に支配されているのは間違いないようだ。
カズヤたちはそのまま街の通りを抜けると、街の北外れにサークルと呼ばれた収容所を見つけた。
「ここがサークルとかいう施設だな……と、思ったら魔導人形が出てきたぞ。奴らをだますのは無理そうだな」
サークルの入り口から、またもや金属製の魔導人形の兵士が現れる。
人間の兵士とは違い、魔導人形はカズヤたちを見逃してくれない。ここまで情報が伝わる速度が早いとなると、収容所ごとに連絡する手段があるのだろう。
「カズヤ、俺たちが奴らの相手をしてやる。お前たちは中へ入れ!」
「すまない、頼んだ!」
シデンの言葉を受けて、カズヤたちはサークルへ突入した。
デオを探しながら、サークルの中を走り回る。
収容所の中では、襲ってくる魔導人形と協力的な魔導人形の2種類に分かれていた。特にアデリーナが制作した魔導人形たちは、大好きな彼女に逆らいたくないのだ。
「あなたたち、デオはどこにいるの?」
「ア、アデリーナ様……デオは3階の特別室に囚われています」
一部の魔導人形の協力を受けられたので、デオの捜索はかなり楽になった。
やはり全ての魔導人形が敵ではないのだ。味方になってくれる者は大切にしなければならない。
3階まで一気に駆け上がると、デオが囚われている部屋をすぐに特定できた。
突入すると、強固な鉄格子の中に囚われたデオがいた。
「デオ、私よ!」
「アデリーナ様! それに、カズヤさんやピーナさんまで!」
デオの受け答えは人間のように自然で違和感がない。今まで出会ったどの魔導人形よりも人間らしく、そして昔のように穏やかだった。
カズヤの怪力で鉄格子をねじ曲げて、デオを助け出す。
「アデリーナ様、私の魔法が……私の魔法が、あの男に奪われて悪用されているのです!」
「やっぱりそうだったね、誰がやったかは想像つくわ。私をさらった張本人ね」
「魔術ギルドの総帥です。彼が私の魔法を奪ったのです!」
「……総帥? そいつがリナを誘拐したのか!?」
聞き慣れない言葉に、思わずカズヤがつぶやく。
「そうよ、その男が全ての魔術ギルドのトップにいる人間よ。国や街にある全ての支部のギルド長を束ねていて、アビスネビュラの中でも第2階級という高い地位にいるわ。王族よりも遥かに上にいる男ね」
ゼーベマンが第6階級、シデンが第4階級だと言っていた。
国のトップの王族よりも、国家をまたぐ組織のトップの方が立場が上だということか。
「そんなに偉い奴がいるのか。何ていう名前なんだ?」
しかしカズヤたちの会話は、扉を乱暴に開ける音で遮られた。
奥から長い漆黒のローブを羽織った、白髪の男性が部屋に入ってくる。
「お、お前は……!!」
カズヤは、その男の顔に見覚えがあったのだ。
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