114話 乱取り
カズヤは小声でぼやきながらも、意を決して呼びかける。
「ここは魔導人形たちの施設だろう。レンダーシア軍の物ではないはずだ」
「何を言ってる。魔導人形の施設だからこそ、我が国の物で間違いない」
「その言い分だと、レンダーシア公国が魔導人形に支配されたという噂は本当なのか?」
「……我が国は、魔導人形の指示に従わなければいけない。今はそのような仕組みになっているのだ」
カズヤの問いかけに、返答している騎士が苦々しい表情になる。
「魔導人形が支配しているなら、この国の君主はどうなったんだ?」
「公爵様は国民のために自ら身を引いてくださったのだ。その意思を尊重するためにも、我々は魔導人形たちの指示に従うしかないのだ」
「もしこの場を引いてもらえるなら、俺たちがその支配に風穴を開けてやる。だから、ここはいったん軍勢を引いてくれないか?」
「無理な要求だ。人間ではとても奴らには勝てないのを知らないのか? 魔導人形は疲れを知らず昼夜問わずに攻め込んできて、我々は成すすべもなく敗北したのだ。奴らは恐ろしい、これ以上被害を出さない為にも従う方が上策なのだ……」
騎士が悔しそうな表情で返答する。
「確かに、魔導人形は恐ろしいが、ここにも疲れ知らずの人間がいると言ったらどうする? 俺たちの強さを信用して、道を空けてくれないか」
「馬鹿な、我が国に侵入してきたお前たちの、いったい何を信用するというのだ? お前らが魔導人形より強いとでもいうのか? とてもじゃないが信じられない。人間なんかでは魔導人形を止めることはできないぞ!」
「強さを証明して欲しいのなら見せてやるよ。この中から腕自慢の奴を出してくれ」
「……ちょ、ちょっとカズヤ。逆に相手を挑発してどうするのよ。レンダーシア軍とは戦いたくないんじゃなかったの?」
アリシアの耳には、売り言葉に買い言葉のように聞こえている。慌ててカズヤを止めようとする。
しかし、アデリーナがそれをそっと押しとどめた。
「ちょっと様子を見てみましょう。カズヤなりの考えがありそうよ」
アデリーナは、カズヤの行動の意図を見抜いたように推移を眺めていた。
「俺の名前はカズヤだ。ひ弱そうな俺を倒すなんて簡単に見えるだろう? だけど意外と強いんだぜ。少なくても俺は、魔導人形なんかに負けるつもりはないぞ」
カズヤの名前を聞いたレンダーシア軍の中に、さざ波のような戸惑いが広がった。
「……何、カズヤだと? ゴンドアナ王国を退けた、あのエルトベルクのカズヤのことか?」
「民衆の前で、あのテセウス騎士団長を倒したという噂の……」
「奴は、もっと大柄な将軍だという話ではなかったのか?」
前回のゴンドアナ王国との戦いで、弱小だったエルトベルクが全ての周辺国の進軍を退けたという噂は、すでに多くの国に広まっていた。
そのなかでも、カズヤの噂が脚色されながら広まっている。ムルダもその噂を耳にしたからこそ、セドナにやって来たのだ。
「面白そうだな、俺も参加してやろうか。レンダーシアのような三流騎士団なら、俺の助太刀は必要無さそうだが」
黙って様子を見ていたシデンも、カズヤの意図を理解したのか、挑発するように一歩前に出る。
「や、奴はシデンだ! タシュバーンの黒耀の翼だ!」
黒耀の翼の勇名は、当然のように周辺国に轟いている。シデンの参戦に、レンダーシア軍に動揺が広がった。
「それなら俺様も参加させてくれ。元Sランクのバルザードだ、名前くらいは聞いたことがあるだろう?」
「雷轟のバルザード……。なんで奴らがこんな所に」
カズヤとシデン、バルザードの三人が、レンダーシア軍の前に立ちはだかった。
「くそ、ここまで侮辱されて我慢できるか! レンダーシアの誇りを見せてやる!」
そう叫ぶと、一人の騎士がカズヤに向かって突撃してきた。
走り込みざまに強烈な横殴りの一撃をカズヤに加える。
しかし、カズヤは片手で軽々と受け止めてしまう。そして、軽く足を払うと騎士は身体ごと吹っ飛んで地面に倒れた。
「どうした? 他にも来ないのか」
「馬鹿にしおって、奴らを調子に乗せるな!」
軍の中から次の騎士が飛び出してきて、カズヤに剣を振りかぶる。
しかし、それも軽くかわされると足払いで倒される。カズヤの前に手も足もでない。
「一人ずつでなくてもいいんだぞ。束になってかかって来いよ!」
カズヤの挑発を受けて、5人の兵士が一度に襲いかかってくるが、カズヤは軽くいなしてしまう。
当然のように、レンダーシアからは息一つ乱れていないように見える。
「黒耀の翼の名前を聞いて尻込みしているようじゃ、やはりレンダーシアの騎士団は大したことないな」
「どうした、俺様の方が空いているぞ? レンダーシアに力自慢はいないのか」
シデンとバルザードの挑発を受けて、多くの兵士が一斉に襲い掛かってくる。しかし、二人を相手にあっさりと破れてしまう。
まるで3人の師範を相手に、乱取りをしているかのような絵面が生まれていた。
「……これって、どういうこと? カズヤたちは何がしたいのかしら」
それを見ていたアリシアは、戸惑った表情を隠せなかった。
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