110話 母親
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第1章の出だしの時系列を整えて、主人公の活躍を少し増やしました。話の本筋はそのままで第2章以降には影響がないので、特に読み直さなくても大丈夫なようになっています。
カズヤは耳にした瞬間、雷に撃たれたように硬直する。
目の前にいるアリシアと、記憶の中のリナがフラッシュバックのように重なった。
……似ている。
記憶の中のリナと、アリシアがとても似ているのだ。
リナもアリシアのような赤毛赤目の、品のいい親切な魔法使いのおばさんだ。
機嫌のいいときは、自分のことをお姫様なんて冗談を言っていたこともある。
それに見た目は柔らかくても心の芯は強く、スクエア内の生活にも決して弱音をはかなかった。
カズヤが散々お世話になっていたあのリナが、アリシアの母親だったというのか!?
「まさか、そこにお母様がいるの!?」
カズヤの記憶が蘇ってからまだ日が浅いとはいえ、なぜ気が付かなかったのだ。
そういえば以前に、エルトベルクには優秀な魔導人形があると、アリシアが言っていたことを思い出した。
あの魔導人形たちの原型は、リナが作ったのだ。
「あなたの母親のことなんて、私にはどうでもいいわ。魔術ギルドに反抗するのも好きにすればいい。ただアリシア様とはいえ、私に歯向かうのは許さないからね……!」
ベルネラが杖を構える。
「アリシア、落ち着くんだ。こいつを倒してから、ゆっくり探せばいい!」
動揺を隠せないアリシアに、カズヤが声をかける。
「あなたたちには、どんな魔物がお似合いかしら。こんなのはいかが……?」
ベルネラの身体が怪しく光り始めると、人間だった姿が変形しはじめる。
徐々に身体が大きくなると両足が一つにくっついていく。下半身が蛇のように一つにまとまると、長く伸びて虫のような形をした細い足が無数に生えてきた。
ベルネラの身体から大きな顎の甲殻類のような巨大な頭が生えてくる。
そのムカデのような魔物の背中に、ベルネラの上半身がくっついた奇怪な姿に変身した。
「……な、なんだ、こいつは気味が悪い。これが奴の魔法なのか!?」
「ベルネラは自在に魔物に姿を変えられるの。だから魔女と呼ばれているのよ」
巨大なムカデの身体を大きく横にくねらせながら、背中から生えたベルネラの上半身がこちらを見つめている。
「アリシア様以外には興味がないの。あなたたちは、こいつらの相手をしていなさい」
ベルネラが近くにあった扉を魔法で壊すと、中から金属でできた軍事用の魔導人形がぞろぞろと飛び出てきた。
「うええ、あのお姉ちゃん、気持ち悪い!」
一番後ろで見ていたピーナの叫び声が聞こえてくる。
「ピーナは広場から逃げていろ! 俺とステラで魔導人形の相手をする。魔女はアリシアとバルに任せたぞ!」
ピーナが身体を半透明にして広場から逃げ出したのを確認すると、カズヤとステラは魔導人形へ攻撃を開始した。
アリシアとバルザードは、ベルネラへと向かっていく。
ムカデは身体をくねくねと動かしながら素早く移動してくる。あらゆる場所から不規則に、鉤爪状の足の攻撃が飛んできた。
無数の足から繰り出される攻撃は鋭く重い。一撃でもアリシアが喰らったら大怪我は免れない。
バルザードが攻撃を防ぎながら、アリシアは魔法を詠唱する。
「虫だから炎に弱いでしょ? ファイア・バースト《炎風爆烈旋》!」
アリシアの唱えた強力な炎がムカデに直撃する。
だが、炎が固い甲羅の上を滑るように弾かれてしまう。
無数の足が地面の上をかきむしりながら、すばやく位置をかえて足や大あごを飛ばしてくる。
その合間に、上半身のベルネラが唱えた魔法がアリシアとバルザードに襲い掛かる。
炎の魔法をかわしたかと思うと、次には雷が空から降ってくる。足元は氷の魔法で滑りやすくされ、不意をついて無形の風魔法が飛んでくる。
ベルネラは極大の魔法を続けざまに唱えてくる。
「ああ、楽しいわ! 全力でこないと殺しちゃうからね!!」
足や大あごの攻撃はバルザードが防ぎ、魔法の攻撃はアリシアが魔法障壁を作り出してかろうじて避ける。
ムカデの身体をくねらせながらランダムに飛んでくる攻撃を、バルザードがはじき返しながら反撃する。
しかし、ムカデの鱗のような皮膚は頑丈で、綺麗に当たらないと槍が表面を滑ってしまう。
「くそ……、つるつると厄介な鱗だぜ!」
バルザードの槍では、なかなかダメージを与えられない。
そして、ムカデの攻撃に気を取られていると、上半身から魔法が飛んでくる。
「本当に厄介な相手ね……!」
ベルネラが魔女と恐れられている理由が、嫌という程分かった。
属性など関係なく、複数の魔法をたやすく操ってくる。しかも短い詠唱で、強力な魔法を次々と連発してくる。
これが魔術ギルドのSランクなのか。
カズヤとステラは大量の魔導人形に手を焼いて、なかなか助太刀に向かえない。
金属製の魔導人形たちは頑丈で、電磁ブレードをきれいに直撃させない限り、なかなか行動不能にできないのだ。
疲れや恐れを知らない人形たちが、無表情で突進してくる。
手数の多さは敵の方が勝っていた。このままでは4人共追い込まれてしまう。
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