108話 魔導人形ギム
想像以上に迅速な対応に、カズヤは嫌な予感が頭をかすめる。
だが、これは悪い情報ばかりではない。
今朝知ったということは、準備する時間はそれほど多くない。急遽予定を変えたおかげで、警備が手薄のうちに侵入できたともいえる。
「みんな、スクエアの外にムルダが待っている。正門までの魔導人形は破壊してきたから、気を付けて脱出してくれ」
「ムルダも生きていたのか!?」
「ああ、あいつのおかげで俺の記憶が戻ったんだ。ピーナもいるんだぜ」
知っている名前を聞いて、囚われていた仲間たちの顔が明るくなっていく。
「……そうだ。リナがどこにいるか知っているか?」
逃げ出す仲間の最後の一人に、カズヤが尋ねた。
「いや、分からない。最近はお互いの姿を見ることもなくなったんだ」
やはり、全ての部屋をしらみつぶしに探していくしかなさそうだ。
カズヤは部屋の扉を破壊しながら、縦横無尽に進んでいく。
すると、子どもたちの楽しそうな声が聞こえてくる部屋があった。
「ん、この声は……」
カズヤが扉を壊して中に入ると、思った通り、ピーナが10人ほどの子どもたちと一緒に遊んでいた。
「あっ、カズ兄! 以前は誰もいなかったのに、今はこんなにお友達がいるんだよ!」
その部屋には、ピーナと同じくらいの年齢の子どもたちばかりが閉じ込められていた。
以前は、こんなにたくさんの子どもはいなかったはずだ。同年代の子どもがこれだけいれば、ピーナも友だち不足で困ることはなかったのだが。
「それで、リナは見つかったのか?」
「あっ、忘れてた! これから探すね!」
あれだけリナに会いたいと言っていたのに、遊んでいるうちにすっかり忘れてしまっている。
カズヤはがっくり肩を落とすが、ピーナだから仕方ない。
「みんな、この先に悪い魔導人形はいないから安心して大丈夫だよ。他の大人たちに出会ったら助けてもらうといい」
カズヤは、閉じ込められていた子どもたちをスクエアの外へ誘導した。
「ピーナ、リナおばさんを探すぞ」
「りょうかいしましたあ!」
ピーナは元気よく返事すると、姿を消しながら更に奥へと進んでいった。
その後、カズヤは少しずつ仲間に出会うことができた。出会った順に解放しながら、さらに建物の奥へと進んでいくのだった。
※
カズヤは建物の奥へと進んでいく。
魔導人形の幹部たちがいる部屋にたどり着くと、見慣れた顔の魔導人形が現れた。
そいつはカズヤたちを直接支配していた人形なので、はっきりと顔を覚えている。
スクエアを支配している魔導人形のトップで、自我と知性を持って周りに指示を出していた奴だ。
「……ギムか。お前には散々世話になったな」
「貴様はカズヤだな。川に落ちて死んだと思っていたが、生きていたとはな。この騒ぎはお前のしわざか?」
ギムの口から、人間とは違う抑揚のない声が聞こえてくる。
魔導人形の発声方法は、喉に埋め込まれた魔石を通して言葉を発する仕組みになっていた。
「みんなを解放する為にやって来た。邪魔をするならお前も破壊するぞ」
「随分と偉くなったな。貴様たち人間も、俺たち魔導人形に同じことをしているだろう。人間は俺たちを道具のように戦争で戦わせるために造った。人間を管理しなければ、逆に俺たちが戦場に送られるんだよ」
正論を唱えるギムに、カズヤは反論できない。
確かにギムの言う通りだった。
捕らえられていた人間からすると魔導人形に理不尽に支配されてきたと思っていたが、彼らの目からは違って見えている。
魔導人形たちは人間を恐れていたので、人間を捕らえて支配していたのだ。
そして、少しでも仲間を増やして対抗するために土魔法使いを捕らえている。
理屈だけでは、人間が魔導人形を批判する資格はなかった。
ギムがカズヤに襲い掛かってくる。
しかし、カズヤは攻撃をかわさなかった。頭や身体に攻撃を受け続ける。
「今ならお前の言いたいことも分かる。ただ、人間が魔導人形に一方的に支配されるのも困るんだよ」
「ふざけるな! それはお前たち人間の勝手な理屈だろう」
「そうだ、俺たちの勝手な理屈だ。でも人間を捕らえるのも、お前たち魔導人形の勝手な理屈だろう? こんな風に相手を支配しようとしている点では、人間も魔導人形も大差がないんだよ」
そう言うと、カズヤはギムを軽々と捕まえた。そして、人間用の独房に閉じ込めてしまう。
「こんな戦いの最中では話し合いもできない。戦いが落ち着いたらゆっくり話し合おう。それまではここに入っていてくれ」
「くそ、偉そうなことを言いやがって。いいか、レンダーシア公国はすでに俺たち魔導人形が支配している。あの国の人間どもは俺たちのコントロール下にあるんだ。せいぜい人間同士で殺し合うがいい。お前たちが魔導人形同士で戦いを強いるようにな!」
ギムの捨て台詞を聞いて、カズヤの心がチクリと痛む。
罵声を振り切りながら、残りの仲間を探しに行くのだった。
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