106話 失敗
「シデン。予定をかえて、ここからウィーバーを使って一気に進みたいんだけど大丈夫か?」
「構わん、お前が雇い主だ。あの乗り物なら森のなかを直進できるだろう」
黒耀の翼に2台のウィーバーを渡し、カズヤたちで2台つかう。
カズヤとピーナとムルダの組と、ステアとアリシアとバルザードの組に分かれた。
ウィーバーに乗ると、あっという間に距離を稼ぐことができる。特に初めて乗ったムルダが一番驚いていた。
「これは凄い乗り物だな! この調子ならスクエアまであっという間だぜ」
ムルダにとっては、スクエアは出来れば近付きたくないくらい恐ろしい場所に違いない。しかし捕らわれた仲間を救うために、勇気をふり絞ってここまでやってきたのだ。
ムルダの言う通り、カズヤの目にも遠くの方にスクエアの外観が見えてきた。
あらためてスクエアを外から見ると異様な雰囲気を放っていた。
20mはある高い石の壁が続いていて、上から見ると口の字の形をした正方形の入れ物になっている。
その形から”スクエア”と呼ばれているのだ。
「よく、こんな場所から脱走できたな……」
不気味な建物を見つめながら、思わずカズヤがつぶやいた。
「やはり、目の前にあるはずなのに衛星やボットから情報を得ることができません。この建物全体が魔法によって隠されています」
スクエア全体が認識阻害の魔法で覆われているようだ。
「どうやって攻め込むつもりだ?」
目的地にたどり着いたことを知ったシデンが、カズヤに確認する。
「この時間帯は1日に一回だけの食事の時間で、管理しやすいように全員を一か所に集めているはずなんだ。皆がまとまっている方が助けやすい。こちらの存在は、まだ気付かれていないから、奇襲して助け出そうと思っているけど……いや、なんか様子がおかしいぞ!」
カズヤの思惑はあっさりと裏切られる。
カズヤが説明している最中に、スクエアの建物の方から、たくさんの魔導人形が出てきたのだ。
人間よりもはるかに大きい5m以上もある魔導人形から、子どもくらいの高さの魔導人形までいる。
しかも、それらは全部金属製でできた軍事用の魔導人形だった。カズヤがスクエアにいた時には一度も見たことがないタイプだ。
スクエア内にいる人たちは、土魔法使いや職人、生活を手助けする人たちなので戦闘力は高くない。
それに軍事用の魔導人形が、スクエアにいるのは見たことがない。
まるで待ち構えていたかのような手際の良さだった。
「どうして、こちらの行動がバレたんだ!?」
ただでさえ、今朝思いついたように予定を変更してウィーバーに乗ったのだ。
こちらを監視する者がいたとしても、振り切ってしまう程のスピードだったはずだ。
「私とリオラの魔法で、気づかれにくくしたはずなんだけど……」
敵の対応の早さにアリシアも驚いている。
レンダーシア公国に入ってからは、アリシアとリオラが、メンバー全員に姿を見えにくくする認識阻害の魔法を使っていた。
それなのに、こうも簡単に見つかってしまうとは想定外だ。
「ボットたちの情報でも、こちらの動きを監視している敵はいなかったはずですが……」
珍しくステラが自信無さそうに答える。
しかし、ステラの情報網で分からなかったのなら仕方がない。ステラ以上の監視方法は、この世界には存在しないのだから。
「それとマスター、さらに悪い報告があります。レンダーシア公国の軍勢がこちらに向かっています。急がないと人間の軍勢とも戦わなければいけなくなります」
「なんだって!? なぜレンダーシアの人間が魔導人形の味方をするんだ?」
レンダーシア公国が、スクエアを守るつもりなのか。
人間が魔導人形を助けると言うことは、すでにレンダーシア公国が魔導人形に支配されているという予想も、あながち間違っていないのかもしれない。
それにしても、なぜこのタイミングなのか。まるでこちらが攻撃するのを分かっていたかのようなタイミングだ。
「敵が目の前に出てきたんだ、理由を探すのは後回しだぜ。見つかっちまったら作戦を変えればいいだけさ」
槍を構えたバルザードが、異変を楽しむかのような口調で忠告する。
「バルの言うとおりだな、目の前の敵に対応しよう。でも外の敵だけじゃなくて、魔導人形を引き付ける役と、なかに突入する役に分かれた方がいいな」
「それなら囚われた人間を知っているお前たちが、建物に入った方がいい。こいつらは俺たちが相手をしよう」
そう言うと、シデンたち黒耀の翼はウィーバーから飛び降りた。
「人形ふぜいが、黒耀の翼に立ち向かうとは笑わせてくれる。その蛮勇を打ち砕いてやるぞ!」
シデンが号令をかけると、黒耀の翼の4人は金属製の魔導人形へと突撃していった。
彼らが防いでくれているうちに、スクエア内に突入しなければならない。そして出来れば、レンダーシア軍がたどり着く前に救出しておきたい。
「いまさら突入方法を変更する時間は無い。ステラ、準備はできているか?」
「いつでも攻撃できます」
「よし。みんな衝撃に備えてくれ、派手にいくぞ!」
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