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104話 宿場町の夜

 

 カズヤが再度尋ねると、ゼーベマンは渋々といった風に答えてくれた。


「アビスネビュラは、この世界を絶対的に支配するためにあるのじゃ」


「もう十分支配しているだろう?」



「より強固に支配するためじゃ。お主らエルトベルクの反抗を見て、さらに考えを固めたらしいぞ」


 ゼーベマンがいやらしく笑う。カズヤは自分たちが原因になってしまったことに気まずさを感じた。



「カズヤ、こんなことに責任なんか感じちゃ駄目よ。そもそも国の上から、更に支配しようとしていること自体が間違ってるんだから」


 横から聞いていたアリシアがフォローしてくれる。



「それにしても、どうやって、より強固に支配するんだよ?」


「その為に色々な命令が飛んでくるのじゃろう。指示されたもの以外は、儂に聞いても分からんわい」


 ゼーベマンはそっぽ向いてしまった。


 どうせ指示されたこと以外はよく知らないのだろう。これ以上聞いても何も出てこなそうだった。



 ※


 今日の目的地である国境沿いの街が見えてくる。


 ここで一泊して、明日には国境を越えてレンダーシア公国に入る予定だ。ここはまだタシュバーン皇国内なので、シデンがいれば問題ないはずだ。



 レンダーシア公国に入ったら目立つので、旅の途中で他の街に立ち寄るのはやめておく。


 ウィーバーに乗るのも目立つので、街道を歩いて進んでいこうと考えている。黒耀の翼もここで馬を手放していく予定だ。



 案の定、カズヤたちが街の城門に近付くと、黒耀の翼の存在に気が付いた兵士たちが直立不動になる。


 シデンたちに頭を下げると、ギルドカードすら確認せずに全員街の中に入れてくれた。


 それに続いて、カズヤたちが城門をくぐる。これではどちらが雇い主か分からない。



「俺たちが泊まる宿は決まっている。お前たちも適当に選ぶといい」


 そう言い残すと、シデンたちは街の喧騒のなかに紛れていった。



「そう言われても、この街にはじめて来たからなあ……。ステラ、いい宿屋は分かるか?」


 通常、ザイノイドにとって睡眠は必要ないのだが、人間の時の生活リズムが強く残っているカズヤは、心を休めるために少しだけでも眠っておいた方がいい。


 それに、いくら寝ないからといっても、カズヤとステラが一晩中、宿の外で待っているのもおかしな話だ。



「すでにこの街はボットで下見してあります。道なりに進んだ左手に小綺麗な宿屋があるので、そこにしましょう。かわいい猫ちゃんがいるのでお勧めです」


 猫の存在で宿屋を決めた気がするが、そこには触れないでおく。



 ステラに言われた通り進むと、たしかにこじんまりとした居心地の良さそうな宿屋があった。


「部屋はどういう組み合わせにする?」


 受付で空室を確認すると、カズヤが念のために確認した。



「野宿する訳じゃないんだから、男女別でいいんじゃない?」


「姫さんにはステ坊もいるし、隣の部屋なら大丈夫だと思うぜ」


 アリシアの返答を聞いて、バルザードは警備をふくめて確認する。



 カズヤとバルザード、アリシアとステラとピーナの組になるように部屋をとる。


 その日は宿屋で食事をとると、明日の準備を済ませて皆はすぐに眠りについたのだ。



 ※


 そんな夜遅く。


 たった一人で宿の外に出ているカズヤの姿があった。


 手持ち無沙汰のように、宿の前を行ったり来たり歩いている。シデンの知り合いでも無ければ、捕まっていてもおかしくはない不審な行動だ。


 バルザードが寝込んだのを見て、静かに部屋から出てきたのだ。



 カズヤは、ザイノイドになってから夜一人になるのが苦手になっていた。


 起きてばかりいると、考えなくてもいいことが次から次へと襲ってきてしまうのだ。


 そもそも、眠る時間も仮眠程度で短くてよくなった。だからセドナにいるときも、夜中でも建設現場で建築用ボットと一緒に働いていることが多かった。



 やがてうろうろ歩き回ることをやめると、宿の入り口の前の軒先に腰かけた。


 夜空を一人で眺めてみる。


 日本にいた頃よりもたくさんの星が見え、きらきらと輝いている。聞き慣れない虫の音が昔の生活を思い出させ、郷愁の念にかられてくる。



 宿の入り口先でカズヤが一人でたたずんでいると、ステラが横にそっと座った。


「どうしたんですか、マスター? 元気がなさそうに見えますよ」


「まあ、ちょっとな……」


 普段はツンとした態度のステラが、優しく気遣ってくれる。それだけカズヤの顔に悲壮感が現れているのだ。



 しばらく二人で宿屋の入り口に腰かけた。


 やがて、カズヤがぽつりぽつりと独り言のように話し始める。その口調はいつもとは違う、気弱さと不安がにじみ出ていた。



「……最近、ザイノイドになった自分が恐ろしいんだ。前回の戦いでも多くの人を殺してしまった。そのことに段々慣れてきて、殺すことにためらいが無くなってきている自分がいる。


 確かに力が無ければ大切な人を守ることはできない。でも、殺すことが当たり前になって感覚が麻痺してしまったら、大切な人すらも軽んじてしまいそうなんだ。自分には、まだ人間の心が残っているのか不安になってしまう……」



 カズヤはひと息に思いを吐き出した。


 前回のアビスネビュラとの戦争は、一般人だったカズヤの心に大きな傷を残していた。自分が殺戮マシーンになってしまったことに、たまらなく嫌気がさすのだ。


 しかし、アビスネビュラに対抗したり、自分の大切な人を守るためには武力が必要なことも理解している。


 その板挟みで葛藤し、苦しんでいたのだ。


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