103話 アビスネビュラの情報
リオラは褐色の肌で、背中には大きくて美しい黒い翼がついている。
グラマラスな身体をまとっている服装の布地が少なめなので、目のやり場に困ってしまう。
「いいえ、どういたしまして。必要があればいつでも使います。魅了の魔法と間違えないように気を付けますね」
冗談めかして妖しく笑う。この手の冗談に慣れていないカズヤは返答できずに固まってしまった。
「マスター、この女性は危険です。不用意に話しかけないでください」
後ろにいたステラがあわてて遮った。
気を取り直すと、続いて黒耀の翼のイグドラにも挨拶する。
「イグドラだったよな、今回はよろしく頼む」
重戦士のイグドラは、余計なことを口に出さないといった武人風情だったので、他のメンバーほど話していなかった。
「ああ、今回はお前たちが雇い主だから、適切な指示を出してくれ。ただし、馴れ合うつもりはないぞ」
こちらを見ながら、軽く念を押されてしまった。
「ピーナちゃん、この前の話は考えてくれかな? タシュバーンに来れば、毎日おやつが食べ放題じゃぞ」
いつも余計なことを言ってくるゼーベマンにはカズヤから挨拶するつもりは無かったが、相変わらず勧誘がしつこい。
「ピーナ、あのしつこいお爺さんにイタズラしてきな」
うんざりしたカズヤは、こっそりとピーナにささやいた。
ピーナは二コリと笑って雲助にまたがると、姿が透明になって消えてしまった。
「なんじゃ、姿が見えなくなったが、どこ行ったのじゃ? ……い、痛たたっ! こら、髪の毛を引っ張るな!」
何もない空間に向かって、ゼーベマンの髪の毛が引っ張られている。
「お、おお終わったか……、痛ててて、今度は髭か!」
髪の毛が終わったかと思うと、今度は髭を引っ張りだした。前方にまわったピーナが半透明になって見えている。
透明になったのに、意図した物を掴むことができる。ピーナの魔法が特別である所以だった。
ひととおりイタズラして気が済むと、ピーナはカズヤのウィーバーに戻ってきた。
「余計な勧誘は止めてもらおうか。ピーナは、うちの冒険者パーティーの大事な一員なんだ」
「わ、分かったわい。それにしても、年寄りの髪の毛を引っ張るなんて、しつけがなっておらんぞ」
観念したゼーベマンが、ぶつぶつ独り言のように文句を言っている。
「それよりも、ゼーベマン。アビスネビュラについて、知ってることを教えてくれよ」
「そんなこと聞かれても答えるはずがないじゃろう。そもそも、小僧なんかに教えるつもりはないのじゃ」
黒耀の翼と行動を共にする貴重な機会に、少しでもアビスネビュラの情報を手に入れておきたかったが、へそを曲げたゼーベマンは答えてくれない。
「マスター、アビスネビュラには階級があるようですよ。そこのお爺さんは第六階級だそうです」
話を聞いていたステラが、横から口をはさんでくる。
「なんじゃと、お主なんで知っておるのじゃ!?」
「私が黒耀の翼にいる時に、得意げに教えてくれじゃないですか」
「そうじゃった……お主が仲間になったと思って、浮かれて教えてしまったのじゃ」
前回の戦いの最中に、ステラは一時的に黒耀の翼に入っていたことがあった。その時にゼーベマン自ら話していたのだ。
機密情報をまんまと漏らすとは、予想通り間抜けな爺さんだ。
「そうなるとシデンは何階級なんだ?」
カズヤは話の流れでシデンに振ってみる。
「俺は第四階級だ」
少し前を飛んでいるシデンが素直に教えてくれる。どうやら隠す気はないらしい。
「そうなると第一階級の奴が一番偉いんだな。アビスネビュラのトップは誰なんだ?」
「何でお前に教えなきゃいけないのじゃ!」
「トップはどこかの国の王様なのか? でも、そうするとシデンの第四階級というのが低すぎるか。ゼーベマンの第六階級というのはどれくらい偉いんだ?」
「失礼なことを言うな。アビスネビュラに入ること自体が凄いのじゃ。第六階級とは言っても、選ばれた者しか入れんのじゃ」
たしかに、この爺さんはタシュバーン皇国では伯爵だったはずだ。シデンと同じパーティーにいることも評価されているのかもしれない。
「そもそも第六階級の人間が、トップの人間を知っているのか? この手の組織が上下に風通しがいいとは思えないんだが」
「ぐぬぬぬぬ……」
ゼーベマンが分かりやすいように黙りこくってしまう。
やはり知らないのだろう。ある程度の階級にならない限り会うことはできない、とかはありそうだ。
「シデンは知っているのか?」
「知らん。興味もない」
「行動を命令されたりするのか?」
「ときどき指示を伝えに来る奴がいるが、興味がない限り相手はしない。まあ、今の俺は皇太子にすぎんからな。国を左右できる立場にない。今のうちに囲い込みだけして放置されている可能性が高い」
シデンは包み隠さず全部教えてくれる。
「アビスネビュラの目的は何なんだ?」
「知らん。その手の話は爺の方が詳しいだろう」
「若~、無茶ぶりせんでください~」
話を振られたゼーベマンが泣き言をいう。
カズヤが再度尋ねると、渋々といった表情で答えてくれた。
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