102話 出発
微妙な空気で皆が黙りこくっていると、バルザードが口を開いた。
「姫さんの特徴から、"真紅の覇杖"なんてどうだ」
「……お、カッコいいな!」
真紅はアリシアの髪や目の色、覇は王族、杖は魔法使いをイメージしているのだろう。
皆を見回すが、特に異論がある人はいなそうだ。
「じゃあ、”真紅の覇杖”にしよう」
「ピーナも、しんくのはじょうに入りたい!」
「……え、大丈夫かなあ?」
ピーナの実力はよく分かっているが、なんとなくカズヤは心配になる。
「今回はいいんじゃない。メンバーの変更はいつでも出来るし、国境を越えるときの理由にもなるし」
今回は収容所の解放が目的だからピーナにも関係がある。戦力としてもピーナがいてくれるメリットは大きい。
「アリシアがそう言うなら、入れてもいいかな」
ステラやバルザードからも反対は無かったので、ピーナをパーティーに入れることにする。
出発前までに、バルザードが、セドナの冒険者ギルドで登録を済ませてくれることになった。
「それじゃあ改めてよろしくね、ピーナちゃん。私はアリシアよ」
「アーちゃん、よろしくね!」
改めてアリシアが挨拶をしてくれる。
「知ってると思うけど、彼女がステラだ」
今度はカズヤがステラを紹介する。
「よろしく、スーちゃん。それで、どっちがカズ兄のお嫁さんなの!?」
ピーナからとんでもない攻撃が飛んでくる。
その場の空気が一瞬で凍りついた。
アリシアとステラからギラついた視線が飛んでくる。答えを間違えると命に関わる。
「おいおい、ピーちゃん。こんな綺麗な人たちがカズヤのお嫁さんな訳ないだろう。お情けで一緒にいてくれるんだよ」
雲助も余計な推測を付け足してくる。
「……そ、そうだな。二人は大切な仲間だから、お嫁さんとかではないんだよ」
「カズ兄は、お嫁さん作らないの?」
「まあ、そんな年齢じゃないしな……」
「お嫁さん欲しいって、いつも言ってたじゃない。変なのお!」
アリシアとステラは笑っていた。
どうやら、生きて乗り越えられたようだ。出発前にカズヤの体力が全て無くなりそうだった。
※
出発当日、黒耀の翼が馬に乗ってセドナにやってきた。
剣士のシデン、魔法使いのゼーベマン伯爵、重剣士のイグドラ、魔法使いのリオラの4人だ。
レンダーシア公国までの距離を考えて、今回の移動は馬を選択したようだ。
目的地のレンダーシア王国までは、セドナの街から一度タシュバーン皇国のなかを通って行く。
徒歩だと数日かかるが、馬に乗れば今日の夜までにはレンダーシアの国境に着けるはずだ。
「その後、その馬はどうするんだ?」
「これは借り馬だ。国境の街で置いていく」
カズヤたちはウィーバーに乗って行くつもりだが、レンダーシアの国境を越えたら目立つので使えない。そこからは歩いて進むつもりだった。
「逆に、お前たちはどうするんだ?」
「いつもの乗り物だよ。ある程度一緒に進まないと意味が無いから、今日の目的地くらいは決めておこうか」
カズヤがそう言って、ウィーバーの方を指さした。
「あれか……俺も乗せろ」
「……は?」
シデンの目がウィーバーから離れない。言っていることがよく分からない。
「乗り方を教えろ。俺もあれに乗る」
どうやらウィーバーが気になっていたようだ。
科学の結晶に触れさせるのが少し心配だが、かたくなに運転したいと主張している。珍しい乗り物に乗りたがるのは男のサガだろうか。
念のためにステラの方をちらりと見る。
「今回持ってきたウィーバーは4台です。手分けして乗れるなら構いませんが」
ステラ的には問題無さそうだ。
シデンには、前回のタシュバーン軍の侵攻を止めてくれた借りがある。この程度の頼みなら断れない。
カズヤはウィーバーの乗り方をシデンに教える。いきなりカズヤでも運転できたのだ。
シデンはすぐに軽々と乗りこなした。
「そうじゃあ、残りの3台に手分けして乗り込もう。どんな分け方でもいいんだが……」
言いかけた時には、すでに組み分けは決まっていた。
以前にも乗ったことがあるアリシアは、運転する気満々でウィーバーにまたがっている。そうなるとウィーバー嫌いのバルザードも、仕方なく後ろに乗り込むことになる。
カズヤの後ろにピーナが乗り、ステラは一人でまたがった。黒耀の翼の残りの3人とムルダは、馬に乗ってついてくる。
「ピーナは雲助でもいいんだぞ」
雲助に乗ったピーナは、結構な速さで空を飛ぶことができる。馬の速歩程度なら問題ないはずだ。
「いいの! これに乗りたい!」
「オイラ、こんなツルツルした奴なんかに負けないんだけどな……」
雲助が少しすねながらも、ピーナの身体にまとわりついた。
そんなやり取りをしている内に、すでにシデンたちは先行している。
速さを調節して追いつくと、黒耀の翼のメンバーと並行して進んだ。
「……リオラ、この前の記憶の魔法、ありがとうな。お陰で大切なことを思い出せたよ」
前回は、失われていた記憶から意外な事実が次々と出てきたので、リオラにしっかりとお礼を伝えるのを忘れていたのだ。
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